2019/09/29 令和時代の製造業人手不足ーー『最新兵器【RPA】の活用と生産性向上』ーー
以下は 2019年9月25日のオートメーション新聞 第195号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の製造業人手不足
ーー 『最新兵器【RPA】の活用と生産性向上』 ーー

日本の生産年齢人口が、急速に減少している。生産年齢人口とは、人口の総数から子供や老人を除いた15歳〜64歳までの人口のことである。戦後の日本の生産年齢人口は増加を続け、1995年にピークの8700万人となったが、以降は減少を続け、現在までに1000万人以上が減ってしまった。10年後には7000万人を割り込むと予想されている。

新聞やテレビでは、日本の人口減少による危機説が大きく報道されているが、日本が直面する課題は、人口減少より遥かに速いスピードで進む生産年齢人口の減少である。

人口減少による経済への懸念は、需要減少であるが、本当に深刻なのは、人手不足でモノが作れずサービスが提供できない供給危機である。すでに中小製造業では、人手不足の影響が深刻化しているのは周知の事実である。

大半の中小製造業では、優秀な若手人材の確保が困難を極め、アジア諸国から労働者の調達に邁進し、当面の生産を乗り切っているが、外国人労働者に頼るものづくり経営が非常に危険であることは、ドイツはじめ欧州連合(EU)先進国の混乱をみれば一目瞭然である。

特にドイツでは、移民労働者を受け入れてきた結果、さまざまな後遺症(設備投資の遅れ、企業衰退、治安悪化、自国民失業など)が発生し、EU崩壊危機まで危惧される重要問題に発展しているが、日本では報道されていない。

突然、ドイツ近況分析の話題に変わって恐縮であるが、日本は『ドイツ事例を真剣に学ぶ必要がある』と筆者は痛切に感じている。その理由は、ドイツの事例は日本の未来への警鐘であるが、日本では海外で起きている潮流変化に鈍重であり、世界から遅れた『周回遅れの施策』に陥っているからである。

ドイツは、インダストリー4.0で世界の製造業に衝撃を与えたIoTのパイオニアである。『日本より進化した優等国』といったドイツへのイメージも日本で定着し、アジア諸国も中国も、ドイツのものづくりをお手本とする傾向があった。

ところが、VW(フォルクスワーゲン)の排ガス不正事件のあたりから『ドイツものづくり神話』が崩壊し始め、最近になってドイツは本格的なリセッション(景気後退)に陥っているのをご存知だろうか?

ドイツの提唱したインダストリー4.0は、その構想は素晴らしいものの、ドイツ国内においても本格的実証例は非常に乏しく、中小製造業には普及していない。また一方で、ドイツは移民大国であり、移民後遺症に悩まされている。

労働時間の短縮を美徳とする国策が、外国人労働者依存経営を常態化させた結果、生産性向上に関心のない労働環境が生まれ、最新技術への投資が遅れ、現場の改善も進まない悪い事態を招いている。

さらに、ドイツは極端な外需依存の輸出大国である。米中貿易戦争による中国の景気後退やEU周辺国の衰退を受けて、外需が衰退し、絶好調の経済環境から一転し深刻な不況に突入している。経営不振のドイツ銀行は、20%近い社員をリストラする断腸の策で、延命を図っているが、次の大惨事はタイタニックと同じ運命となるかもしれない。

ドイツは、前進も退路も断たれた打つ手なしの状況にある。ドイツから学ぶべき最大のポイントは、『外国人労働者の弊害』と『ドイツ式インダストリー4.0の盲点』についてである。

さて、これらのドイツ事例を下敷きに、話を日本の中小製造業の人手不足と生産性向上の話題に戻したい。ドイツと違って、日本の中小製造業は極めて健全である(今のところは…)。

日本の中小製造業では、経営者と一体になって生産性向上に努力する工場長格のベテラン従業員が複数存在し、従業員の一人一人も『小さな改善運動』に熱心であり、現場目線で生産性向上に取り組む姿は特筆に値する。

日本以外のあらゆる国では成し遂げられない『現場力』が日本の魅力であるが、『事務所要員の非効率化』や『経営幹部への仕事の集中』が普遍的に起きており、中小製造業が生産性向上に向けての解決すべき重要な課題となっている。これらの課題を根本から解決する特効薬をご紹介したい。

その名は、『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)』。ソフトロボットである。平成後期にRPA技術が確立され話題となった。AI(人工知能)やOCR技術を取り込んだ『汎用RPA』が世の中に登場すると、またたく間に、銀行・保険会社・大企業メーカーや一部の地方自治体などで普及が進んでいった。

RPAは『人に代わってコンピュータ操作や処理を自動で行ってくれるアシスタント』であり、コンピュータ内に常駐する目に見えないロボットである。当社(アルファTKG)は、3年以上前から製造業に特化するRPAの社内開発を行い、昨年度より本格的市場投入を開始した。中小製造業がRPAを導入することで、幹部社員や事務員の単純作業が開放され、大幅な生産性向上が実現することが、多くの導入事例によって実証されている。

具体例をいくつか挙げると、(1)見積作業をRPAで自動化した結果、幹部社員が単純な見積作業から開放された (2)図面登録に必要な図番入力など、単純人手作業をRPAで自動化し、大幅な間接要員削減につながった

(3)生産管理システムと図面管理をRPAで自動統合し、総合IoTシステムを実現した、RPAの活躍が増大しており、大きな生産性向上と投資効果を生んでいる。当社では、製造業向けのRPAを目的別に、月額数千円から2万円の費用で販売している。

具体的には(1)図面読み取りRPA㈪注文書読み取りRPA (2)CAD間接続RPA㈬CAD/CAM連携RPA (3)作業指示書読み取りRPA㈮PDF/DXF自動変換RPAほか、数多くのRPAを市場に投入し、さらにその種類を日々増やしている。近い将来、一人の社員に複数台のRPAがアシスタントとして活躍する時代がやってくるだろう。







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著者 高木俊郎
09:01 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/08/30 令和時代の不況防衛対策ーー『生産性向上の最新兵器【RPA】』ーー
以下は 2019年8月28日のオートメーション新聞 第192号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の不況防衛対策
ーー 『生産性向上の最新兵器【RPA】』 ーー

元号が変わり、誰しもが明るい未来に期待を寄せているが、消費税増税や米中貿易戦争もあり、決して予断を許さない経済予測が囁(ささや)かれ始めている。中小製造業の経営者も、肌感覚で多少の危険信号を感じているようである。
昨年まで、好況感に満ちあふれていた精密板金業界でも、最近では先行き警戒心を覚える経営者が急増している。

7月31日〜8月3日まで東京ビッグサイトで開催されたプレス・板金・フォーミング展(MF-TOKYO)は、過去最高の出展社数と来場者数でにぎわうはずであったが、予想に反し、前回より来場者数が減少した。

景気のピークを超えた証拠かもしれない。消費税増税、オリンピック、米中貿易戦争、円高などを発端に、令和時代の経済危機はいつ・どの規模でやってくるのだろうか? マクロ的な視点から、日本経済を取り巻く環境を分析し、日本の政治体制や米国を中心とした国際情勢を精査すると、確かに日本に危険な状況が迫っている事に気がつく。

米国トランプ政権は、反グローバル主義を政策に据え『アメリカ第一主義』を推進する保護主義政策を実行している。自国第一主義の流れは、EUを離脱する英国とも通じるものがあり、欧州各国でも反グローバル主義が台頭しており、グローバル主義VS反グローバル主義の対立構造が令和の時代の国際環境といっても過言ではない。

しかし、わが国日本では、反グローバル主義には極めて鈍重である。与党も野党もグローバル主義を前提としており、トランプ氏に代表される反グローバル・保護主義を政策に掲げる政党はほとんど存在せず、日本では『日本第一主義』への芽吹きは小さく、本格的な議論すらない。

令和の時代を迎えた今日、米国を中心とした反グローバル主義の台頭により、自由主義諸国の間でも各国の思惑が衝突し、ぶつかりあっている。トランプ政権はとにかく国益第一優先で、中国との覇権争いを表面化させ、米中貿易戦争を仕掛け、移民を制限して国内の労働者を守り、ホルムズ海峡の防衛を各国に迫り、日米安保条約の解消を示唆するなど、新時代の保護主義に向かっているが、この米国の動きを『トランプの横暴』などと単に批判的に報じる日本メディアは少し短絡すぎではないだろうか?

グローバル主義が後退し、その次に来るのは、各国の強い政治主導による国策優先である。強い政府が自国の利益のために大きな力を発揮していく時代が、令和時代の国際社会である。極論ではあるが、日本の政権が強い力を持って『日本第一主義』を掲げ、巨額な財政出動を実施し、大手企業の日本への製造回帰を徹底する政治を断行すれば、日本の経済力は急回復し、輝かしい令和の時代を夢見ることも可能かもしれない。

しかし、残念なことに、今日の日本の政治主導力は弱く、財政均衡などを錦の御旗として、消費税増税や緊縮財政などに頼っていては、やがて令和の大不況が到来しても、何ら不思議はない。どんな厳しい大不況が来ようとも、製造業にとってそれを乗り切る万能薬は『生産性の向上』である。好不況とは需要と供給のバランスで生じるが、中小製造業にとってどんな好景気がやって来ても生産性が低くては仕事はやって来ない。

また、どんな不況が来ようとも生産性の高い工場に仕事が集中する事は歴史が証明している。中小製造業にとって唯一の不況対策は『生産性向上』である。

日本の中小製造業は、戦後の高度成長時代より飛躍的な生産性向上を果たしてきた。機械化による生産性向上、5Sの徹底による生産性向上、自動化による生産性向上など、世界に先駆けたものづくり先進国として世界のお手本となってきたが、残念なことに、日本の労働生産性は世界20位と先進国最下位である。

日本の中小製造業では、NC化や自動化の進んだ製造現場を維持するために、生産管理やCAD/CAMなどたくさんのコンピュータが整備され、多くの事務員やエンジニアがコンピュータを使って作業をしているのがごく普通の姿である。

しかし、多品種少量生産や短納期化が極端に進んだ結果、事務員やエンジニアに仕事が集中し、生産性を大きく下げている事は、よく知られている事実である。事務員やエンジニアの生産性向上の課題は、以前より強く認識されていたが、最近になってこの生産性を大幅に向上させる特効薬が誕生したのをご存じだろうか?

その名は、『RPA』(ロボテック・プロセス・オートメーション)ソフトロボットである。RPAは、平成後期に世の中に登場し、銀行・保険会社・大企業メーカーや一部の地方自治体などで爆発的に普及が進んでいる最強武器である。

何がすごいのか? 一言で言えば、『人に代わってコンピュータ操作や処理を自動で行ってくれるアシスタント』である。RPAの導入で、人々は煩雑で単純なコンピュータ作業から開放され、事務業務の大幅な生産性向上を実現する夢のツールである。

ロボットと聞くと、一般的には産業用ロボットやアイボなどハード的なイメージを思い浮かべるが、ソフトロボットはコンピュータ内に常駐する目に見えないロボットである。RPAは巷(ちまた)で大きな話題となっており、その効果も実証されているが、中小製造業への本格的導入はまだ始まっていない。

MF-TOKYOの会場においても、RPAを本格的に出展していた企業は(私の知る限り)なく、中小製造業への普及促進はこれからである。しかし、中小製造業の生産性向上の切り札は、RPAの活用にあることは明白であり、令和の時代の不況対策はRPAの導入なくして語ることはできない。

次回より、RPAの具体的導入とその成功事例をご紹介する。







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著者 高木俊郎
08:59 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/07/20 令和時代の製造業の発展戦略再びーー『グローバル化と失われた30年』ーー
以下は 2019年7月17日のオートメーション新聞 第188号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の製造業の発展戦略再び
ーー 『グローバル化と失われた30年』 ーー

バブル崩壊から30年が過ぎ去った。かつて『失われた10年』と呼ばれた日本経済の悲劇は、10年を過ぎても続き、今日の若き日本人から「何が失われたのか?も分からない」と言われても不思議ではないほどバブル時代は遠い昔のこととなった。

平成元年の頃、世界経済の頂点に君臨していたのは日本企業であった。世界の時価総額ランキング上位50社に、日本企業の35社がランクインし、日本は光り輝いていた。たったの30年が経過した平成の最後、世界の経済界から日本企業の姿は消えた。

令和にバトンが渡った現在、上位50位にランクインできる日本企業はトヨタ1社であり、それも35位。かろうじて入っているのみである。日本企業の労働生産性も低く、先進国最低となってしまった。事実、平成時代は名実ともに『失われた30年』である。

「失われた30年、失ったものはなにか?」その答えは、日本人の「自信」と「誇り」。そして世界から羨まれる「日本の力(国力)」と「日本の信頼」である。

なぜこうなったのか?この原因を究明すると、「グローバル化」というキーワードに踊らされた日本企業の不幸が浮き彫りになってくる。

バブル崩壊で、自信を失った日本の大多数の経営陣は、政治家やメディアが掲げる「グローバル化と構造改革」を経営の旗印とし、日本で育まれた日本の企業文化を放棄し、米国の掲げるグローバル価値観に追従することに血眼になってしまった。

この結果、国際市場では韓国、中国にボロ負けし、国内ではリストラで技術も人材も失い、残った社員のモチベーションすらも低下した。家電大手企業の悲劇がこれをもの語っている。

戦後75年間の歴史を精査すると、歴史の中から日本経済のパラダイムを大きく揺り動かした『3つの事件』と、グローバル化の本質が見えてくる。

最初の事件は、戦後間もない①1951年の日米安保条約締結。2つ目は、②1985年のプラザ合意。そして最後が、③平成初期のバブル崩壊である。

1951年の講和条約とともに締結された日米安保条約により、日本は自由主義陣営に所属することが決まった。すべての経済活動の歴史的原点がここにあり、「新しい価値観を持つ日本人が起業し、新しい日本国家の建設が始まった」瞬間である。

戦争を放棄した日本は、まずは飢えをしのぎ「食料を手に入れること」に邁進し、その次に「経済力の向上」という課題に向かって一丸となって突き進んでいった。これが国家の明確な目標であった。

この目標のもとで、製造業が復活し「日本人が、日本人の顧客のために、日本の工場で作る」概念が徹底され、最新の国産機械も誕生し、世界最高のものづくりを純粋なる国産化によって日本は手に入れた。

日本の工場が作り出す製品の機能や品質は、世界№1である。この頃の社会人は、皆が夢を描き、豊かさを求め、先端技術に挑戦し、「希望と勇気」を持って、過酷な労働に励んでいた。

エコノミックアニマルとまで比喩された日本人の過剰労働は、終身雇用制をベースとした企業村社会での、自発的な行動の結果であり、これが日本式経営として日本中に定着した。日本式経営のもとで最先端技術が花開き、日本の顧客のために日本ニーズを組み込んだ日本製品は、信頼のブランドとして世界中でも話題となった。

各企業は、日本で成功した商品を世界中に販売拡大する戦略を推進した。この国際化を「インターナショナル化」と呼び、大成功を収めている。国や国境を意識しない「グローバル化」とは全く異なる国際化である。

大成功を収め、喜びに湧く日本経済に衝撃を与える大きな国際的事件が、1985年に起きた。ニューヨークプラザホテルで開催された先進国蔵相会議(G5)で、世にいう「プラザ合意」である。

プラザ合意は、円高・ドル安への誘導合意である。円はこの合意により急速に円高に振れ、1ドル230円台から1年で150円まで円高が進んだ。これにより、各企業はそろって低賃金のアジアに工場を進出することを戦略に据えた。

「日本人が、日本人の顧客のために、日本の工場で作る」パラダイムが崩れ、「アジア人が、日本人の顧客のために、アジアの工場で作る」というパラダイムシフトが起きている。

円高不況を克服し、逆に円高をきっかけにバブル経済が芽吹き、土地や株式は高騰し大儲けする企業が続出した。企業も個人もお金持ちとなったが、夢は続かない。平成の時代の始まりとともに、バブル崩壊が始まり『失われた30年』が始まったのである。

今回のテーマである「グローバル化」が日本で始まったのは、バブル崩壊以降である。「世界の誰かが、グローバルの顧客のために、世界の何処かの工場で作る」がグローバル化である。同じ国際化でも「インターナショナル化」と「グローバル化」の違いを歴史から学ぶことができる。

令和時代の製造業再起動に大きな障害となるのは「グローバル化」の思想である。世界中の顧客ニーズを得るためにグローバル・マーケティングを日本の企業が行うことは、極めて難しく、国境をなくし、人・資本・モノを自由に移動し経営を行うことが、日本人にとって最も苦手であることは歴史が証明している。

令和時代の製造業再起動のポイントは、①国内工場への回帰(リショアリング)②短期戦略としての外国人労働者の雇用③IoT/デジタル化及びロボット化による徹底的な自動化工場の推進である。

世界にばらまいた優秀な社員も国内に戻し、日本の本丸を固めることに尽きる。日本の歴史・文化を学び、日本人としての自信と誇りを取り戻し、皆が大富豪になることを目標に据え、令和時代の製造業の発展戦略を練ることが必須である。

すべての人々が団結し、日本の国力増強を考えて実行さえすれば、令和の幸せが実現するだろう。







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著者 高木俊郎

16:55 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/07/01 令和時代のパラダイムシフトーー『希少価値の変化…機械から人へ』ーー
以下は 2019年6月26日のオートメーション新聞 第186号に掲載された寄稿記事です)

令和時代のパラダイムシフト
ーー 『希少価値の変化…機械から人へ』 ーー

パラダイムシフトとは何か?これを理解するのは容易でないが、中小製造業を取り巻く環境を分析する上で、パラダイムシフトの考察は重要なポイントである。今回はこれをテーマに取り上げる。

まずはじめに、パラダイムシフトとはなにか?を簡単に解説したい。パラダイムシフトを理解する上で、まず皆さんの共通の概念を浮き彫りにする必要がある。例えば、皆さんは今までに、食料が買えず餓死した人に会った事があるだろうか?

当然ではあるが、今の日本にそんな人がいないのは常識であり、人々は「食料は簡単に買える」という共通の価値観を保有している。

今の日本では、食料品や電気・エネルギーなどは「誰でも手に入る商品」であり、このような一般的かつ汎用的な商品を「コモディティー商品」と呼ぶ。半面で、特別仕様の高級車は、皆が買えないモノであり「希少価値の商品」である。

今の時代を支配する「食料や電気があって当たり前」という共通の価値観が、将来どこかで突然変化する事をパラダイムシフトと呼ぶ。

例えば、ある日突然、地球規模の天候不良やエネルギー危機が訪れ、食料品やエネルギーが極端に不足し、これらの商品が入手困難となり「希少価値商品」になるかもしれない。また一方で、特別仕様の高級車には人々の関心が無くなり、車は単なる「コモディティー商品」になるかもしれない。

パラダイムシフトとは、共通価値観の突然の変化であり、希少価値が突然消えてコモディティーになる現象である。


歴史をさかのぼると、社会の根底を変えてしまった大きなパラダイムシフトが起きている。150年前の日本での明治維新は、国際社会の大きなパラダイムシフトに強い影響を受けている。

「薩長連合を勝利に導いた国際的パラダイムシフトが起きていた」と断言しても良い。この影響とは、米国南北戦争を舞台にした「武器と綿花」のパラダイムシフトである。

ご周知の通り、明治維新の数年前に、米国では南北戦争が勃発し4年間に亘る市民同士の戦闘で100万人に迫る犠牲者を出し、北軍勝利に終わった。米国の南北戦争は、歴史に残る「人類最初の本格的な近代兵器戦争」と記録されている。

大英帝国から始まる産業革命により、機械が生まれ、労働生産性が大幅に向上(一説では、300倍の労働生産性向上があったと言われている)。武器の製造能力向上や機能の進化が続き、最新兵器の所有が戦争勝敗の決め手となっていった。戦争をやっている時には、最新兵器こそ最も重要な「希少価値商品」の代表であった。


それに反し、米国南部で栽培される綿花は、米国の重要な輸出品であるが、何の進化も希少価値もなく、奴隷を使って安く作るコモディティーであった。しかし、「武器は希少価値、綿花はコモディティー」という価値観が、突然崩壊する日がやってくる。

それは、南北戦争終結の日であり、この日から突然パラダイムシフトが始まるのである。戦争終了により、武器の需要は無くなり、国際的な武器価格は大暴落。半面、南部の綿花畑は荒廃し、奴隷もいなくなり、綿花の国際価格が暴騰し、綿花はいきなり「希少価値商品」となった。

一夜にして「綿花が希少価値、武器がコモディティー」というパラダイムシフトを知っていたのは、琉球を傘下に持つ薩摩藩である。薩摩は、琉球の国際貿易を通じパラダイムシフトを正確に把握していたのである。

国内の綿花を安く買い集め、国際市場で高額で売りさばき、暴落した最新兵器を徹底的に買い集めた「薩摩藩海外事業部?」のビジネス感覚には脱帽する。この密輸入の結果、薩摩藩は莫大な最新武器を保有し、これを背景に倒幕に成功するのである。


今回のテーマ「令和時代のパラダイムシフト」に話を戻し、中堅中小製造業の成長戦略に焦点を当てて見ると、明確なパラダイムシフトが見えてくる。

ほんの数十年の昔、日本の工場経営者の共通パラダイムは、「機械が希少価値」であった。「良い機械を買うこと」に人生をかけた経営者の夢が、共通概念として定着していた。

昭和時代の工場経営者は、「良い機械を買うのだ!」との信念を持って、個人的に使うお金を制限し、最新鋭機械の購入に全財産をつぎ込み、巨額の借金と高い金利を背負う「経営者の夢に向かった命がけの挑戦」を行っていった。

この共通概念によって日本の製造業は支えられていた。機械の所有に人生をかけた、昭和の経営者によって日本の製造業は発展したのである。幸いにして、昭和の時代は高度成長による需要の拡大があり、「機械の導入によって生産性が大幅に向上した」時代である。

誰よりも先に「良い機械を買った会社」はもうかり、繁栄を実現できたのも昭和の時代である。「勝ち組」と称される企業は、例外なく昭和の時代から継続的に「良い機械を買うこと」を実行してきた企業である。

令和の時代を迎え、明らかに「機械は希少価値」の概念は変化している。令和の時代の希少価値は「人」である。希少価値が「機械から人に」移行した。令和の時代のパラダイムシフトは「機械を希少価値とした概念から、人を希少価値とする概念」への変化であることは明白である。

クラウドや人工知能など最新技術をフル活用し、人の能力向上と作業効率向上に投資することこそ令和の時代の勝ち残り戦略である。

機械をたくさんそろえ、機械に依存した「昭和の時代の経営」はすでに賞味期限が切れている。「希少価値の変化…機械から人へ」こそ令和時代の経営戦略の柱であろう。







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著者 高木俊郎

16:55 | オートメーション新聞寄稿記事 | page top
2019/06/20 令和時代の戦争と平和ーー『人工知能とドローンの新時代戦争』ーー
以下は 2019年5月29日のオートメーション新聞 第183号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の戦争と平和

ーー 『人工知能とドローンの新時代戦争』 ーー

『川を上れ、海を渡れ』…この意味は、連綿と流れる歴史の川を遡り、過去の教訓を学ぶと同時に、海外に視野を広げ、違った角度から物事を見ることの重要性を表した言葉である。

皆さんは、令和の時代に『日本は戦争に巻き込まれる』と思うだろうか? それとも、令和の時代もそれ以降も、未来永劫『戦争なき平和』が続くとお考えだろうか? もし戦争が起きるとしたらどんな戦争なのか? それを避けるための手段は?

『戦争と平和』…こんな言葉は日本社会ではいまや死語に近い。戦争と平和について不感症となってしまった日本人にとって、『令和の時代の戦争と平和』を考えること自体が稀有なことであるが、改めて『川を上り、海を渡れ』の言葉を噛み締めて、『令和の時代の戦争と平和』を考えてみたい。

日本の歴史の川を上ってみれば、悲劇の戦争が随所に登場してくる。歴史ドラマでは英雄物語として語られる『明治維新』も、海外から見れば、150年前に日本で起きた武力革命であり壮大な市民戦争である。

時の政府(江戸幕府)を武力で倒した日本のクーデターは、多くの戦争犠牲を生んだ暴力であり、日本人同士が殺し合う悪夢の戦争であった。決して美談などではない。薩長によるクーデターの成功には、超大国『大英帝国』の思惑があり、大英帝国から供給を受けた最新武器の威力が、勝因であったとも言われている。

日本の明治維新は、大英帝国の戦略の結果でもある。大英帝国は、思惑通り大量の武器を日本に売り込むことに成功したのである。

明治新政府は『富国強兵』を掲げ、英国から武器を大量に輸入し、国民を巻き込む『侵略的な戦争国家』となっていった。日清・日露戦争を勝ち抜きながら、太平洋戦争の終結に至るまで、日本国民全員を巻き込む戦争の日々が半世紀以上に渡り続いた。

数百万の人々が戦争の犠牲となったが、日清・日露戦争の勝利により、『世界の一流に名を連ねる国家』に日本が躍り出たことも歴史の事実である。


戦争とは、最新兵器を持つものが勝利する。…と断じるには異論もあるが、歴史を遡れば、『技術イノベーションが戦争の勝敗を決する』という事実を否定する事はできない。

『最先端技術と戦争の勝敗』をテーマに歴史を遡ると、戦争の勝ち負けは、軍艦や飛行機などの目立つ武器の優位性だけではなく、『情報通信技術』の優劣に注目しなければならない。

今日、誰もが手にしているスマホやインターネット技術は、遠い昔に開発されたモールス通信やレーダー技術などから進化してきているが、日露戦争や太平洋戦争の勝因に、これらの技術が強く影響していた事がわかってくる。

筆者は、40年近く前に電気通信大学を卒業した。この大学は、戦前には軍事技術とは切っても切れない国家機関であったせいか、先端技術の研究に熱心な国立大学である。私も在学中には、日露戦争に活躍したモールス通信の講習から始まり、レーダーによる飛行物体の補足や解析技術など、軍事に活用された技術を多く学んだ。

モールス通信とは、100年以上前にイタリアのマルコーニが開発した無線通信の手段であり、人類が初めて遠隔地との無線コミュニケーションを可能にした通信技術である。

マルコーニの開発から10年も経たない間に、日露戦争が勃発し、日本はロシアに大勝利する結果となった。超大国ロシアに対し、国力や技術で大幅に劣る日本に勝利をもたらしたのは、モールス通信による日本連合艦隊の円滑な相互連携であったと言われている。

これを可能にした技術の結晶は、国産式の『三六式無線通信機』である。世界トップの技術を有する無線機が、安中電気製作所(現アンリツ)によって開発されており、海軍幹部の英断で「日本海軍のすべての船に装備されていた」という驚くべき事実があった。

超大国ロシアのバルチック艦隊を遥かに超越した『無線通信装置』が、日本の連合艦隊に装備されており、実戦で大きな成果を発揮した事は驚愕に値する。日本海海戦で、日本の連合艦隊がロシアに大勝利したのは、三六無線通信機の存在である。

日露戦争の大勝利から数十年経って、日本が太平洋戦争で米国に惨敗したのは、「レーダーの重要性に気づかず、遅れを取った日本海軍」との歴史的事実がある。戦艦大和や零戦など、世界最高峰のハード技術を有していた日本が、電波兵器に関して先見の明がなかったことは、とても残念な事である。

『川を上れ、海を渡れ』から強く感じることは、モールス通信やレーダーなどの情報伝達の重要性である。令和の時代を迎え、インターネットやスマホは誰にとっても身近な空気のような存在となり、『第四次産業革命』との話題も多く耳にするが、これらの技術の重要性を肌で感じている人は意外と少ないのではないだろうか?

特に、人類に着々と忍び寄る『人工知能』と『ドローン』の技術が、我々の生活を一変させ、次世代の『戦争と平和の象徴』となることを想像している人は少ないのではないだろうか?

映画に出てくるような『鉄砲担いで敵地に向かう』戦争が起きることはありえない。ドローンが特攻攻撃を担い、何百台のドローンが、人工知能の指揮によって一斉軍事行動を行う時代がやって来るだろう。人工知能とドローンが新時代戦争の武器となる。

令和が戦争なき平和な時代であるためにも、最先端技術分野で遅れを取ってはならない。日本は第四次産業革命に遅れを取っていると皆が認識している。今日の遅れを挽回するために、日本政府のみならず、民間企業が総力を上げて最先端技術に挑戦し続ける事が絶対条件ではないだろうか?







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著者 高木俊郎

16:06 | オートメーション新聞寄稿記事 | page top
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