2021/06/30 茹でガエル危機④ーー『出羽守(ではの神)情報感染』ーー
以下は 2021年6月30日のオートメーション新聞第258号に掲載された寄稿記事です)

日本の製造業再起動に向けて

茹でガエル危機④『出羽守(ではの神)情報感染』

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「出羽守(ではのかみ)」をご存じだろうか? 「ではの神」と表現されることもある。「出羽守」とは、アメリカでは…、ドイツでは…など欧米賛美を語る人、悪い言い方で言えば欧米かぶれを言う。今回は「ではの神」の歪(ひずみ)と中小製造業への影響を深堀りする。筆者の人生は欧米の中小製造業と関わりが深い。

欧米を舞台に数十年間に渡り、数多くの中小製造業とビジネスしてきたが、狩猟民族的な欧米は明らかに日本とは違う価値観を持っている。私は狩猟民族の素晴らしさも汚さも体験してきた。ところが、日本では欧米賛美に偏った情報がまん延している。「ではの神」は、欧米を賛美し、まねをし、日本を貶(けな)す傾向がある。

コロナ報道番組でも、感染者が圧倒的に多い欧米を称賛する「ではの神」が時折登場するが、製造業界向けの解説でもこの傾向が強い。インダストリー4.0解説は、「ではの神」の象徴である。10年近く前より、インダストリー4.0が話題の主役となり、製造業界も大騒ぎとなったことは記憶に新しい。

ところが、インダストリー4.0は後退し、これに変わってIoTが叫ばれたと思ったら、最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX)一色である。バズワードの推移と言ってしまえばそれまでである。しかし、10年以上に渡りデジタル製造業への変革が語られてきたが、いまだに日本のモノづくりの未来は見えていない。

DXを解説する講演会を聞いた中小製造業経営者の多くは「理解できず、何してよいのか分からない」といった声が圧倒的である。その理由は「ではの神」に起因する。講演会やメディア、出版物、SNSで紹介されるインダストリー4.0やIoT、そしてDXに関する解説では、欧米かぶれ情報が氾濫し、「日本はダメだ。未来もない」などの不本意な情報に多くの人が感染し、心を暗くしている。

ところが、冷静にインダストリー4.0などを分析すると、欧米のしたたかな戦略が浮かび上がってくる。インダストリー4.0は、ドイツの「製造業向けデジタルドイツ製品」を世界に売る戦略であり、ドイツの願望である。なぜかと言えば、ドイツの誇る工業製品は国際的競争力を失いつつあるが、ドイツは依然として輸出で成り立っている。

ドイツはEU域内の東欧・南欧の国々にドイツ製品を輸出して大もうけした。ところが、経済力のない東欧・南欧諸国にはこれ以上売れず、中国のみが救世主と言う状態である。ドイツは、2010年頃からデジタル戦略を柱に据えて、「製造業向けデジタルインフラを世界に売ろう」と決めた。これが「インダストリー4.0」である。

掛け声から10年が経過したが、中小製造業が使える魅力的なデジタル商品がドイツから誕生した話は聞いた事はない。米国は「インダストリアル・インターネット」や「IoT」をぶち上げた。ドイツのインダストリー4.0に真っ向から立ち向かう米国戦略である。この背景には、製造を放棄した米国が再び製造業の覇権を担うリショアリング戦略が背景にある。

米国はご周知の通り、第二次世界大戦以降は日本や中国などに製造をアウトソーシングしてきたが、ITで成功した米国が製造業にスポットライトを当ててきた。今日の世界的な大潮流変化がここから起きている。中国がぶち上げた「中国製造2025」は、世界にとっては非常に危険に満ちた中国共産党の戦略が潜んでいる。

中国の「核心的利益」を報道する日本のメディアは少ないが、中国が公言する核心的利益は世界の敵である。核心的利益とは、どんな犠牲を払ってでも守るべき国家方針であり、尖閣・台湾・沖縄などの領土問題がこれに当たる。核心的利益の実行戦術が軍需力増強であり、その具体策が「中国製造2025」である。


デジタル変革(DX)の言葉が日本で広まった背景には日本の政府が強く関係している。DXの元祖は、10年以上前にスウェーデンの大学の先生が提唱した概念であり、具体性はなにもない。日本でのDXの広がりは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」がキッカケである。「ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的展開」と題するレポートが各界に大きな影響を及ぼし、今日のDXブームを巻き起こしているが、崖に落ちるとの警鐘はすごいが、中小製造業が納得できる具体的な青写真は示されていない。

ここで、先進各国の戦略を念頭に置き、「インダストリー4.0/IoT」が日本の中小製造業に通用しない理由と中小製造業が進むべき羅針盤を提言したい。欧米が戦略的に推進するインダストリー4.0やIoTなどは、『破壊と創造』の考え(現有資産と現在の業務フローを「破壊」し、インダストリー4.0に準拠する新設備を導入し、新たな業務フローで効率的な生産システムを「創造」する考え)に基づいている。

日本の中小製造業では実現不可能な考えである。欧米の戦略は、新しいデジタル商品や機器を売ることが戦略であり、現有資産(レガシー)や業務フローを否定しないと成り立たない。欧米の製造業が、レガシーを否定できる背景には、外国人労働者依存であることが強く起因している。欧米での製造現場は単なる時間工の労働者で成り立っており、労働者に意思はない。従って、労働者の業務フローや慣習を突然否定できる土壌がある。

ところが、欧米では良くても、日本の中小製造業は全く事情が違う。日本のモノづくりは社員が団結し、製造現場の熟練工の意見を尊重しながら発展してきた。日本の中小製造業は、製造現場の意思が反映された業務フローとなっている。簡単にこの仕組みを変えることができず、『破壊と創造』は日本では絵空事である。

日本の中小製造業DXは、現状を変更しない「拡張型DX・ボトムアップIoT」の実践で『破壊と創造』以上の成果がすでに実証されている。日本には主要国が掲げる国家戦略に乏しい半面、中小製造業を中心とした戦術遂行能力に優れている。日本のモノづくりを貶す(けなす)「ではの神」に惑わされ、中小製造業の優れた戦術遂行能力を忘れたら、茹でガエルとなるのは必至である。










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著者 高木俊郎
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