2017/12/05 中小製造業「IoTの実践とは」・ものづくりPDM / ものづくりERP
以下は 2017年11月15日のオートメーション新聞 第128号に掲載された寄稿記事です)
中小製造業「IoTの実践とは」
ーー ものづくりPDM / ものづくりERP ーー
中小製造業の経営者にとってインダストリー4.0やIoTは悩みのネタである。第4次産業革命に関する数多くの報道に触れ,デジタル変革の必要性は十分に理解するものの、「具体的に何をしていいのかわからない」とおっしゃる経営者にお目にかかることが多い。
最近世間では、「インダストリー4.0は実効性に欠け、特に中小製造業では実現が難しいのでは?」といった論調が多く見受けられる。事実、多くの解説は概念論であり、取り上げられるテーマも、大手製造業の視点が多く、中小製造業にとっては「絵空事」である。
中小製造業の具体的な実践について報道される事は少ない。本場ドイツにおいても、インダストリー4.0に対し、否定的な感想を持っている中小製造業経営者は決して少なくない。日本のメディアや大手企業の中でも、このところインダストリー4.0との表現に距離を置きつつあるように感じる。キーワードを「IoT」に変えつつあり、「IoT」一色となっている。
しかし、キーワードがどう変化しようと、インダストリー⒋0/第4次産業革命は中小製造業の明暗を分ける最重要テーマであり、中小製造業にとって最もメリットがある大革命である。しかし残念ながら、中小製造業の輝かしい未来を取り上げる報道はほとんどない。
水蒸気の発明・電気の発明・コンピュータの発明による産業革命の進化は、人類に甚大な影響を及ぼす壮大な歴史事実であり、技術的なイノベーションの象徴であった。また、経済的にも膨大な投資の象徴でもあった事に疑う余地は無い。
そのため、 産業革命は膨大な資本を背景に、国や大企業が推進役となってその主導権を握ってきた。裏返せば、膨大な資金を有する大企業のみがイノベーションの頂点に立ち、差別化を享受してきた。
しかしこれから本格的に始まる第4次産業革命のイノベーションには膨大な投資は不要である。過去にしがらみがなく、「小回りの利く中小製造業が競争優位である」といっても過言ではない。大手製造業に先んじて未来を掴み取る最大のチャンスが、中小製造業に訪れている。
「すべて大企業が中心」と言ったパラダイスが崩壊しているのである。中小製造業がイノベーションの先頭に立つと言う事は、過去の歴史にないパラダイムシフトであるが、既に成功裏に実証している中小製造業も現れており、親会社からも注目の的となっている。
今回は、これらの成功企業の実態をベースに、中小製造業「IoT実践とは」を考察してみたい。
まず初めに特筆すべきは、成功している中小製造業に共通する点は、経営者自らが IoTに関する研鑽と勉強を重ね、社員の先頭に立って旗振りを行っているという点である。IT投資は、機械などのハードウェア投資と異なり、目に見えない部分が多く、経営者のビジョンや判断によって大きく方針が分かれる投資であり、経営者の力強い推進無くして成功はありえない
また、IoT成功企業の共通点は、経営者が明確な(IoT導入の)目的意識を持っている事である。世間に蔓延するIoTの解説は、「あらゆるデータがインターネットに繋がる事」との論調が多く、目的が不明確で手段やデータ収集の方法論のみが語られる事が多い。時には現状を無視し、理想の押し付けに終始する論調も散見されるが、中小製造業で実行する事は不可能である。
最近の中小製造業を取り巻く環境は、好調な受注背景から生産量が拡大しており、ボトルネック 工程が変化している。課題を明確にして、これを解決する目的を社員全員が共有し、社員各自の役割を明確にしながら、現状をいきなり変えようとせず「一歩一歩、小さな成果を積み上げていく」そんな企業がIoT成功企業である。
各社ごとの課題はまちまちではあるが、共通する成功プロセスには一定の共通点がある。
最初のアプローチは、デジタル変革1丁目の1番地と言うべき「情報の5S化」から始まる。「情報の5S化」とは、工場に存在するバラバラな情報を一元管理し、これを整理整頓し、情報価値の増大を図ることである。
大手製造業中心の観点では見落としがちではあるが、中小製造業の製造現場には、CAD/CAMや生産管理などの「コンピュータ情報」のみならず、たくさんのプリントアウトした「ペーパー情報」や現場で記載された「保管情報」、そして熟練工の持つ「ノウハウ」など様々な情報がバラバラに存在している。
これらの情報を「一元管理」し、見えない情報を「見える化」し、情報同士を「紐付け」して、使える情報に変革することを「情報の5S化」と呼ぶ。この「情報の5S化」なくしては、IoT・デジタル変革の実現は不可能である。
大手製造業で普及している「PDM(製品に関するデータ管理 : Product Data Management)」や、「ERP(基幹系情報システム : Enterprise Resource Planning )」などの仕組みは「情報一元管理」の有効手段であるが、残念ながら中小製造業においては全く普及していない。
設計部門や本社事務部門の情報一元管理を目的に開発された「PDM/ERP」は、ものづくりを生業とする中小製造業には不向きである事が普及しない理由である。
IoT成功企業は、「PDM/ERP」の重要性を認識し、それを自社に取り入れるために、製造現場に視点を置いた「ものづくりの一元管理」と「情報の5S化」を徹底的に推進している。
「ものづくりPDM/ものづくりERP」このキーワードこそが、中小製造業IoT成功の羅針盤である。 羅針盤の示す航路にしたがって、まずは「情報の5S化」。ここに一歩一歩の成果を出していくことが、中小製造業の「IoT実践編」である事は、成功企業の事例から明白である。

著者 高木俊郎
中小製造業「IoTの実践とは」
ーー ものづくりPDM / ものづくりERP ーー
中小製造業の経営者にとってインダストリー4.0やIoTは悩みのネタである。第4次産業革命に関する数多くの報道に触れ,デジタル変革の必要性は十分に理解するものの、「具体的に何をしていいのかわからない」とおっしゃる経営者にお目にかかることが多い。
最近世間では、「インダストリー4.0は実効性に欠け、特に中小製造業では実現が難しいのでは?」といった論調が多く見受けられる。事実、多くの解説は概念論であり、取り上げられるテーマも、大手製造業の視点が多く、中小製造業にとっては「絵空事」である。
中小製造業の具体的な実践について報道される事は少ない。本場ドイツにおいても、インダストリー4.0に対し、否定的な感想を持っている中小製造業経営者は決して少なくない。日本のメディアや大手企業の中でも、このところインダストリー4.0との表現に距離を置きつつあるように感じる。キーワードを「IoT」に変えつつあり、「IoT」一色となっている。
しかし、キーワードがどう変化しようと、インダストリー⒋0/第4次産業革命は中小製造業の明暗を分ける最重要テーマであり、中小製造業にとって最もメリットがある大革命である。しかし残念ながら、中小製造業の輝かしい未来を取り上げる報道はほとんどない。
水蒸気の発明・電気の発明・コンピュータの発明による産業革命の進化は、人類に甚大な影響を及ぼす壮大な歴史事実であり、技術的なイノベーションの象徴であった。また、経済的にも膨大な投資の象徴でもあった事に疑う余地は無い。
そのため、 産業革命は膨大な資本を背景に、国や大企業が推進役となってその主導権を握ってきた。裏返せば、膨大な資金を有する大企業のみがイノベーションの頂点に立ち、差別化を享受してきた。
しかしこれから本格的に始まる第4次産業革命のイノベーションには膨大な投資は不要である。過去にしがらみがなく、「小回りの利く中小製造業が競争優位である」といっても過言ではない。大手製造業に先んじて未来を掴み取る最大のチャンスが、中小製造業に訪れている。
「すべて大企業が中心」と言ったパラダイスが崩壊しているのである。中小製造業がイノベーションの先頭に立つと言う事は、過去の歴史にないパラダイムシフトであるが、既に成功裏に実証している中小製造業も現れており、親会社からも注目の的となっている。
今回は、これらの成功企業の実態をベースに、中小製造業「IoT実践とは」を考察してみたい。
まず初めに特筆すべきは、成功している中小製造業に共通する点は、経営者自らが IoTに関する研鑽と勉強を重ね、社員の先頭に立って旗振りを行っているという点である。IT投資は、機械などのハードウェア投資と異なり、目に見えない部分が多く、経営者のビジョンや判断によって大きく方針が分かれる投資であり、経営者の力強い推進無くして成功はありえない
また、IoT成功企業の共通点は、経営者が明確な(IoT導入の)目的意識を持っている事である。世間に蔓延するIoTの解説は、「あらゆるデータがインターネットに繋がる事」との論調が多く、目的が不明確で手段やデータ収集の方法論のみが語られる事が多い。時には現状を無視し、理想の押し付けに終始する論調も散見されるが、中小製造業で実行する事は不可能である。
最近の中小製造業を取り巻く環境は、好調な受注背景から生産量が拡大しており、ボトルネック 工程が変化している。課題を明確にして、これを解決する目的を社員全員が共有し、社員各自の役割を明確にしながら、現状をいきなり変えようとせず「一歩一歩、小さな成果を積み上げていく」そんな企業がIoT成功企業である。
各社ごとの課題はまちまちではあるが、共通する成功プロセスには一定の共通点がある。
最初のアプローチは、デジタル変革1丁目の1番地と言うべき「情報の5S化」から始まる。「情報の5S化」とは、工場に存在するバラバラな情報を一元管理し、これを整理整頓し、情報価値の増大を図ることである。
大手製造業中心の観点では見落としがちではあるが、中小製造業の製造現場には、CAD/CAMや生産管理などの「コンピュータ情報」のみならず、たくさんのプリントアウトした「ペーパー情報」や現場で記載された「保管情報」、そして熟練工の持つ「ノウハウ」など様々な情報がバラバラに存在している。
これらの情報を「一元管理」し、見えない情報を「見える化」し、情報同士を「紐付け」して、使える情報に変革することを「情報の5S化」と呼ぶ。この「情報の5S化」なくしては、IoT・デジタル変革の実現は不可能である。
大手製造業で普及している「PDM(製品に関するデータ管理 : Product Data Management)」や、「ERP(基幹系情報システム : Enterprise Resource Planning )」などの仕組みは「情報一元管理」の有効手段であるが、残念ながら中小製造業においては全く普及していない。
設計部門や本社事務部門の情報一元管理を目的に開発された「PDM/ERP」は、ものづくりを生業とする中小製造業には不向きである事が普及しない理由である。
IoT成功企業は、「PDM/ERP」の重要性を認識し、それを自社に取り入れるために、製造現場に視点を置いた「ものづくりの一元管理」と「情報の5S化」を徹底的に推進している。
「ものづくりPDM/ものづくりERP」このキーワードこそが、中小製造業IoT成功の羅針盤である。 羅針盤の示す航路にしたがって、まずは「情報の5S化」。ここに一歩一歩の成果を出していくことが、中小製造業の「IoT実践編」である事は、成功企業の事例から明白である。

著者 高木俊郎
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