2016/01/30 中小製造業の時代がやってきた・ローカル企業のグローバル化
以下は 2016年1月29日のオートメーション新聞 第62号に掲載された寄稿記事です)
中小製造業の時代がやってきた
ーーローカル企業のグローバル化ーー
2016年は突然のチャイナショックによって幕が開けた。今年の製造業界を取り巻く環境は、決して予断を許さない事を示唆している。中国・原油安・中東情勢を震源とする世界株安や円高が報じられているが、『CRB指数※1』や、『バルチック海運指標※2』も悪化しており、2008年リーマン・ショック直後よりも悪い状況となっている。
(※1CRB指数とは、国際商品市況の動きを見るのに利用される代表的な商品先物指数・※2バルチック海運指標とは、世界貿易の体温を示すと言われる海運運賃指標)
また、絶好調と報じられる米国経済も、実はそんなに良好ではない。米国製造業は既に景気後退期に突入していると思われる。
ニューヨーク連邦銀行が1月15日に発表した1月の製造業景況指数はマイナス19.37となり、リーマン・ショック以来の低水準となった。
実際、米国内で設備・機械などを販売するセールスマンの皮膚感覚でも景気後退を感じることが多いらしい。セールスマンの話によると、昨年まで活発だった顧客の購買意欲も、受注先行き不安から「設備投資を見送る」と話す経営者が非常に増えているとの事である。
世界経済情勢は、中国などの推進エンジンを失い迷走状態に入りかけており、この先に何が起きるかは、誰にもわからないが、潮目が変わろうとしている事は、間違いのない事実である。2016年は、中小製造業にとっても、様々な変化と試練が襲いかかってくるであろう。
このような厳しい外部環境を踏まえ、中小製造業の対応策と新たな成長戦略を検討していきたい。
まずはじめに明確にすべきは、中小製造業に戦後最大の『パラダイム・シフト※3』が襲いかかっている事実認識である。
(※3パラダイム・シフトとは、認識や価値観が劇的に変化する事を言う)
結論から申し上げると、パラダイムシフトの根幹は、『大手系列ピラミッド崩壊』である。
2016年、世界規模の経済ショックは、日本の大手企業(グローバル企業)を直撃する。日本の大手製造業は総じて売上高利益率(ROS)が低く、グローバル市場で売っても利益を出せない体質にあるので、ショックの直撃弾が命中し、昨年までの高決算予想が幻となる危険性がある。その時に大手各社では様々な経営刷新が実行され、結果として『大手系列ピラミッド崩壊』最終章の幕が開けるのである。
『大手系列ピラミッド崩壊』は ”親会社から仕事が来なくなること” を意味する。従って、中小製造業が自ら仕事を開拓しなければならない時代がやってくる。この対応こそ、勝ち残りの必須事項である。今日までの大手依存体質が染み付いた中小製造業に『経営の変革』が余儀なくされている。
しかし、これを前向きに捉えれば、中小製造業にとって、大手系列ピラミッド崩壊が(再起動の)絶好の好機到来と考える事が出来る。系列や下請けからの脱皮が、勝ち残りの必要条件であると同時に、反面ビッグチャンスの到来でもある。
中小製造業がビッグチャンスを手にするためには、パラダイムシフトを十分認識したうえで、SWOT※4分析を試みるのが極めて有効である。
(※4SWOT分析とは、強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)の4つのカテゴリーで要因分析し、経営戦略を策定する手法)
ここで、代表的な中小製造業をイメージし、SWOT分析の結果概要を紹介したい。
●強み(Strengths)
日本の中小製造業は地域に根を張るローカル企業であり、世襲や終身雇用に基づく企業が多く、継続性に優れる。特殊技術に優れ、卓越したモノづくりのノウハウがあり、従業員のモラルや組織団結力が高く、高度な精密加工や短納期・小ロット加工をこなし、QCD(品質・コスト・納期)観点からも、世界で群を抜いている。これらの強みが、これから未来に続く国際企業競争における差別化の源泉となる。
●弱み(Weaknesses)
日本の中小製造業は、歴史的に『大手系列ピラミッド』の裾野を支えてきた。このため、自社で売る力やグローバル化及びブランドマネージメントなど市場創造が最大の弱みである。また、現場ベテラン依存のモノづくり体質が強く、エンジニアリング力が弱い。具体的には、3D設計デザイン力や情報の一元管理などデジタル化が遅れている。日本の中小製造業が、この弱みを克服すれば ”鬼に金棒” 日本の『製造業再起動』は完了し、中小製造業の主役とする『モノつくり大国日本』の時代がやってくる。
●機会(Opportunities)
日本の中小製造業が作る製品の需要は世界中で拡大している。万が一、日本市場の需要が減少したり、日本の大手企業からの発注量が減少したとしても、それを穴埋めして更なる拡大を可能にする世界需要を抱えている。特に海外の大手企業は、品質向上が必須課題となっており、優れた日本の中小製造業の技術力を欲しており、中小製造業のビジネスチャンスはグローバル的に拡大している。
●脅威(Threats),
中小製造業にとっての最大脅威は『パラダイムシフト』。今の形態に安住し、同じことを続けていたら、いつか親会社から仕事が来なくなる日が訪れる。「親会社に付いて行けば大丈夫」といった概念はこれから通用しない。仕事がなくなる事が、真の脅威である。
SWOT分析は、半世紀以上前からバーバードビジネススクールやスタンフォード大学で開発・研究され、世界中の企業の経営戦略決定に使われてきた優れた分析手法である。
ドイツ提唱のインダストリー4.0は、中小製造業の未来の羅針盤ではあるが、中小製造業がSWOT分析との併用で明確な経営戦略を持ってインダストリー4.0の実現を推進することで、弱みを克服し、真の中小製造業再起動が完了する。
SWOT分析での『強み』と『弱み』は、企業や組織の内部要因で発生したものであり、時には遠く昔より続くモノづくりの歴史の産物が『強み』や『弱み』となって現れており、日本の中小製造業の『強み』『弱み』には各企業で共通している点が多い。
この弱みをローカル企業である中小製造業が克服することは容易ではないが、自社努力の及ぶ範囲であり、努力すべき範疇である。
一方、『機会』と『脅威』は自分たちの歴史や努力とは無関係に、外部の要因によって起きる事である。
激動が予想される2016年。今後起きるであろう『脅威』を『機会』と捉え、輝かし未来を切り開くことを祈願する。

著者 高木俊郎
中小製造業の時代がやってきた
ーーローカル企業のグローバル化ーー
2016年は突然のチャイナショックによって幕が開けた。今年の製造業界を取り巻く環境は、決して予断を許さない事を示唆している。中国・原油安・中東情勢を震源とする世界株安や円高が報じられているが、『CRB指数※1』や、『バルチック海運指標※2』も悪化しており、2008年リーマン・ショック直後よりも悪い状況となっている。
(※1CRB指数とは、国際商品市況の動きを見るのに利用される代表的な商品先物指数・※2バルチック海運指標とは、世界貿易の体温を示すと言われる海運運賃指標)
また、絶好調と報じられる米国経済も、実はそんなに良好ではない。米国製造業は既に景気後退期に突入していると思われる。
ニューヨーク連邦銀行が1月15日に発表した1月の製造業景況指数はマイナス19.37となり、リーマン・ショック以来の低水準となった。
実際、米国内で設備・機械などを販売するセールスマンの皮膚感覚でも景気後退を感じることが多いらしい。セールスマンの話によると、昨年まで活発だった顧客の購買意欲も、受注先行き不安から「設備投資を見送る」と話す経営者が非常に増えているとの事である。
世界経済情勢は、中国などの推進エンジンを失い迷走状態に入りかけており、この先に何が起きるかは、誰にもわからないが、潮目が変わろうとしている事は、間違いのない事実である。2016年は、中小製造業にとっても、様々な変化と試練が襲いかかってくるであろう。
このような厳しい外部環境を踏まえ、中小製造業の対応策と新たな成長戦略を検討していきたい。
まずはじめに明確にすべきは、中小製造業に戦後最大の『パラダイム・シフト※3』が襲いかかっている事実認識である。
(※3パラダイム・シフトとは、認識や価値観が劇的に変化する事を言う)
結論から申し上げると、パラダイムシフトの根幹は、『大手系列ピラミッド崩壊』である。
2016年、世界規模の経済ショックは、日本の大手企業(グローバル企業)を直撃する。日本の大手製造業は総じて売上高利益率(ROS)が低く、グローバル市場で売っても利益を出せない体質にあるので、ショックの直撃弾が命中し、昨年までの高決算予想が幻となる危険性がある。その時に大手各社では様々な経営刷新が実行され、結果として『大手系列ピラミッド崩壊』最終章の幕が開けるのである。
『大手系列ピラミッド崩壊』は ”親会社から仕事が来なくなること” を意味する。従って、中小製造業が自ら仕事を開拓しなければならない時代がやってくる。この対応こそ、勝ち残りの必須事項である。今日までの大手依存体質が染み付いた中小製造業に『経営の変革』が余儀なくされている。
しかし、これを前向きに捉えれば、中小製造業にとって、大手系列ピラミッド崩壊が(再起動の)絶好の好機到来と考える事が出来る。系列や下請けからの脱皮が、勝ち残りの必要条件であると同時に、反面ビッグチャンスの到来でもある。
中小製造業がビッグチャンスを手にするためには、パラダイムシフトを十分認識したうえで、SWOT※4分析を試みるのが極めて有効である。
(※4SWOT分析とは、強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)の4つのカテゴリーで要因分析し、経営戦略を策定する手法)
ここで、代表的な中小製造業をイメージし、SWOT分析の結果概要を紹介したい。
●強み(Strengths)
日本の中小製造業は地域に根を張るローカル企業であり、世襲や終身雇用に基づく企業が多く、継続性に優れる。特殊技術に優れ、卓越したモノづくりのノウハウがあり、従業員のモラルや組織団結力が高く、高度な精密加工や短納期・小ロット加工をこなし、QCD(品質・コスト・納期)観点からも、世界で群を抜いている。これらの強みが、これから未来に続く国際企業競争における差別化の源泉となる。
●弱み(Weaknesses)
日本の中小製造業は、歴史的に『大手系列ピラミッド』の裾野を支えてきた。このため、自社で売る力やグローバル化及びブランドマネージメントなど市場創造が最大の弱みである。また、現場ベテラン依存のモノづくり体質が強く、エンジニアリング力が弱い。具体的には、3D設計デザイン力や情報の一元管理などデジタル化が遅れている。日本の中小製造業が、この弱みを克服すれば ”鬼に金棒” 日本の『製造業再起動』は完了し、中小製造業の主役とする『モノつくり大国日本』の時代がやってくる。
●機会(Opportunities)
日本の中小製造業が作る製品の需要は世界中で拡大している。万が一、日本市場の需要が減少したり、日本の大手企業からの発注量が減少したとしても、それを穴埋めして更なる拡大を可能にする世界需要を抱えている。特に海外の大手企業は、品質向上が必須課題となっており、優れた日本の中小製造業の技術力を欲しており、中小製造業のビジネスチャンスはグローバル的に拡大している。
●脅威(Threats),
中小製造業にとっての最大脅威は『パラダイムシフト』。今の形態に安住し、同じことを続けていたら、いつか親会社から仕事が来なくなる日が訪れる。「親会社に付いて行けば大丈夫」といった概念はこれから通用しない。仕事がなくなる事が、真の脅威である。
SWOT分析は、半世紀以上前からバーバードビジネススクールやスタンフォード大学で開発・研究され、世界中の企業の経営戦略決定に使われてきた優れた分析手法である。
ドイツ提唱のインダストリー4.0は、中小製造業の未来の羅針盤ではあるが、中小製造業がSWOT分析との併用で明確な経営戦略を持ってインダストリー4.0の実現を推進することで、弱みを克服し、真の中小製造業再起動が完了する。
SWOT分析での『強み』と『弱み』は、企業や組織の内部要因で発生したものであり、時には遠く昔より続くモノづくりの歴史の産物が『強み』や『弱み』となって現れており、日本の中小製造業の『強み』『弱み』には各企業で共通している点が多い。
この弱みをローカル企業である中小製造業が克服することは容易ではないが、自社努力の及ぶ範囲であり、努力すべき範疇である。
一方、『機会』と『脅威』は自分たちの歴史や努力とは無関係に、外部の要因によって起きる事である。
激動が予想される2016年。今後起きるであろう『脅威』を『機会』と捉え、輝かし未来を切り開くことを祈願する。

著者 高木俊郎
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