2022/04/20 劣化列島日本/希望と勇気④ ーー『東北新幹線地震脱線』と『M2M/IoT』ーー
以下は 2022年4月20日のオートメーション新聞第288号に掲載された寄稿記事です)

​​劣化列島日本/希望と勇気④

『東北新幹線地震脱線』と『M2M/IoT』


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本年度は「劣化列島日本」をテーマに連載しているが、シリーズ4回目となる本稿では、劣化列島日本の象徴とも言える『安全神話の崩壊』を取り上げる。3月16日夜間に福島沖を震源とする大きな地震が東北地方を襲った。幸い被害は少なく、11年前の悪夢再来は防げたものの、安全神話を崩壊させる2つの大事故が起きている。

1つ目は、東北新幹線の脱線事故。2つ目は、火力発電所の破損事故である。新幹線の脱線事故は今日まで、2004年の中越地震による上越新幹線の脱線、16年の熊本地震による九州新幹線の脱線が起きている。今回の東北新幹線の事故では、幸いにして人身被害はなかったが、メディアの反応は異様である。

『脱線事故、震災の教訓生きず』と、JRの安全対策を厳しく非難する報道の半面で、『大型地震にも関わらず負傷者を出さずに、地震対策は完璧であった』などとトンチンカンな報道メディアもあった。(事の重要性を考えない)お花畑メディアこそ「劣化列島日本」を象徴する報道の劣化を示している。

また、電力供給問題にしても『火力発電は耐震性に弱い』ということは、かねてより専門家によって指摘されており、明らかに『想定内』の事故である。頼みの太陽光発電など直射日光のない寒空では役に立たないことも実証された。原発再稼働など本質的な対応を避けて電力供給対策を怠った結果、想定内の事故により国民に節電を呼びかける体質は、劣化を超えた無責任体質といえる。

揚水発電によって大規模停電危機を一時的に回避したものの、夏の電力需要増大に向けて本質的な問題は何も解決していない。前述2つの事故は、「国民の生命安全」と「エネルギーの安定供給」という国家的最重要課題を根底から揺るがす事故であり大事件であるが、『喉元過ぎれば熱さを忘れる』の通り、最近ではメディアの報道も消え、国民の関心も忘れ去っている。

本稿では、1つ目の新幹線脱線事故を取り上げ、安全確保のための手段として採用されているデジタル技術の現状や、今後のさらに重要度を増してくる「M2M&IoT」の正しい活用の方法を検証してみたい。M2MとIoTは、両者ともネットワークシステムであるが、M2M(Machine to Machine)は、閉じたネットワーク上で各センサーやデバイスが情報を交換するネットワークの仕組みである。

一方で、IoT(Internet of things)はインターネットを活用したネットワークシステムである。今回の新幹線脱線防止に大きく貢献する仕組みはM2Mの一環でもある「早期地震検知情報システム(ユレダス)」である。ユレダスは、地震の初期微動の波動(P波)を検出し、独自の高速ネットワークを使って新幹線を緊急停止させる仕組みである。

地震は通常、初期微動(P波)のあとに本格的な揺れ(主要動:S波)がやってくる。P波を検出し、本格的な揺れ(S波)が来る前に、高速で走行する新幹線の送電を自動停止し、非常ブレーキの自動作動により安全に減速停止させる仕組みであり、ユレダスによって新幹線の安全性を向上させているのも事実である。

おそらくユレダスは、日本が世界に先駆する最高技術であることは間違いない。ところが、今回の脱線事故はユレダスのみでは、地震脱線の防止ができない事が実証された。またユレダスの最大の弱点も指摘されている。その弱点とは、前述の通りP波とS波の時間的な差を利用したシステムであるが、直下型地震等の場合、P波とS波はいっぺんにやってくるので、ユレダスが機能せず新幹線は高速走行のまま脱線に至る危険がある。

首都直下型地震なども想定し、脱線を防ぐ方法は、ユレダスのさらなる信頼性向上も必要であるが、メカ側の対策、すなわち、車両本体と線路の両方に設ける脱線防止機構の改良と完全設置の徹底が必須である。線路側に設置する機構は、「逸脱防止ガード」と呼ばれるが、総延長に渡る逸脱防止ガードの設置には、膨大な費用がかかるとの理由で、JR各社は導入を渋っている。特にJR東日本の地震対策は遅れている。

事故直後の記者会見で、JR東日本の市川副社長は『脱線を完全に防ぐのは難しい』と述べている。頻発する東北地方の地震を横目に、無責任なコメントを発するのを、新幹線の乗客は許すのだろうか? 『カネがかかる』との理由で、安全対策を講じなければ、新幹線脱線による人身事故はいつか発生する。想定内の発生であり、乗客の誰かが犠牲者となる。

お客さまの安全より、企業利益を優先することが大企業JRの経営姿勢でないことを願うばかりである。本編の主役である、中堅中小製造業においても、労働災害防止は経営の絶対条件である。厚生労働省による安全衛生管理のガイダンス遵守もさることながら、経営トップ自らが安全理念と方針を明確化し、企業内の安全環境醸成の必要性を認識することで、企業の劣化が防止できると確信する。製造現場の安全基盤を再確認すれば、安全装置のさらなる設置など、メカ系の保安対策強化ポイントも多く発見できるはずである。








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著者 高木俊郎
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