2021/09/29 茹でガエル危機⑦ーー階建て増築『中小製造業DXの本質』ーー
以下は 2021年9月29日のオートメーション新聞第267号に掲載された寄稿記事です)

日本の製造業再起動に向けて

茹でガエル危機⑦4階建て増築『中小製造業DXの本質』ーー


DX(デジタルトランスフォーメーション)の話題が沸騰している。「DX」の言葉を聞かない日がないといえるほどの過熱ぶりであるが、中小製造業の経営者からは、「DXは必要だが、具体的に何をしたらよいか分からない」との声も多く、DX実践に悩んでいる経営者が非常に多いことを痛感している。

ところが、DXを積極的に導入し、大きな成功を収めているM氏がいる。M氏のDX化のコンセプトと合言葉は、『4階建に増築しよう(※詳細後述)』である。M氏は筆者と親しい経営者の一人であり、DXに情熱を持つ創業2代目の経営者である。

彼は若い時から自社工場向けの生産管理システムを自ら設計し、陣頭指揮で運用軌道に乗せた後、数十年に渡り会社のIT化や自動化の推進を担ってきた。M氏の工場は、従業員100人に迫る精密板金工場で、他社の追随を許さない規模と設備を誇っている。

数年前に当社(アルファTKG)はM氏より、『総合的なDX構築』のご相談を頂き、当社のソリューション導入のご下命を頂いた。生産管理・工程管理・図面管理に加え、RPAによる受注入力の自動化や3Dの現場での活用など、広範囲に渡るDX化実現がテーマとなった。当社の総合力を結集し、M氏の工場のDX化実現に着手した。

導入決定から運用に至るまでM氏が陣頭指揮をとり、今日では業界に類を見ない最先端DXに成功している。今回の『茹でガエル危機(第7話)』では、M氏の経営ポリシーや実践体験をベースに『中小製造業DXの本質』に迫ってみたい。

世間で語られる『DX論』は、中小製造業での実践価値に欠ける解説が多い。その理由は、日本で広く語られているDX論は、欧米からの直輸入思想である。特に欧州の大企業戦略をベースにしているので、状況が全く異なる日本の中小製造業にはマッチしないが、M氏の実践体験は(日本の中小製造業にとって)非常に価値あるものであり、DX実現の羅針盤ともなり得る。

まず始めに、M氏の考え方を紹介する。M氏が掲げるDX成功条件は、『製造現場を味方につけたデジタル変革』である。これは当然のように聞こえるが、欧米発のDX論にこの観点はない。欧米の製造業は製造現場で働くのは単純労働者である。製造現場でのノウハウも少なく、製造現場を意識することはないので、欧米直輸入のDX論にはこの観点が抜け落ちている。

次にM氏は明確な『経営上の目的』を定めている。この目的とは「何のためにDXが必要なのか」の問いかけであり、M氏の明確な答えは「人手不足への対応」である。具体的な手段は『省力化・自動化』であり、事務所作業や製造現場での段取り工程で発生するムダを徹底的に排除することを掲げている。

この目的実現のために、DXを実施することにブレがない。M氏のコンセプトは、世間の『DX論』とは大きく異なり、費用対効果の観点にも重点が置かれている。世間では、「マシンの故障診断がDXだ」とか、「機械の稼働率監視がDXである」といった声もあるが、M氏のDXの優先順位は費用対効果の観点から明確である。

またM氏の掲げる究極の成功秘訣は、「TOP自らが陣頭指揮を執り続けること」と明言している。成功までの障害を取り除くのもTOP。時間がかかっても、「TOPが根気よく信念を持って陣頭指揮にあたることで、社員全員の意識が変革しDXが成功する」とM氏は語っている。

DX推進メンバーを選定し、すべてを任せ「成果をTOPに報告せよ」との手法は欧米の直輸入であり、日本では(大企業以外)通用しない。さらにM氏の優れている点は、自らのDX哲学を持ち、自社工場の(あるべき)将来の到達点(To-Beモデル)に向かって変革を段階的にすすめる手法である。

前述した『4階建てへの増築』は、M氏のDX推進バイブルである。図を参照し『4階建てへの増築』を解説したい。現在の中小製造業の製造現場を建物に例えると、『3階建て』である。図に示すとおり『1階に機械』『2階に電機(NCやシーケンサーなど)』『3階にコンピュータ(CAD/CAMや生産管理)』が設置され、Physical(現実工場)を構築している。

人類が歩んだ『産業革命』の産物が1階・2階・3階に配列され、第4次産業革命の技術で増築された『4階建て』がDX工場である。4階をCyber(仮想工場)と呼ぶ。M氏は3階までのPysical工場を大切にし、4階への増築を段階的に進めている。このアプローチは、『ボトムアップIoT』と呼ばれ、成功の伴を握るコンセプトである。












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著者 高木俊郎
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