2020/06/24 『ニューノーマル工場(非対面式製造モデル)』に向かってーー【コロナ禍が教える日本のものづくり課題】(その1)ーー
以下は 2020年6月24日のオートメーション新聞 第222号に掲載された寄稿記事です。

『ニューノーマル工場(非対面式製造モデル)』に向かって
ーー 【コロナ禍が教える日本のものづくり課題】(その1)ーー

パラダイムシフトとは、認識や価値観が劇的に変化することをいう。コロナ禍により、われわれは経験したことのない劇的なパラダイムシフトの渦中にあり、中小製造業にも容赦無くパラダイムシフトの嵐が吹き荒れている。

何百年・何千年も前から、人々は寄り添い、語り合い、共に時間と場所を共有し、楽しむことで社会生活が成り立ってきた。日常の生活も仕事も、スポーツや祭りも、数多くのイベントも人々の群れなしでは語れない。

もちろん、中小製造業のものづくり現場も同様である。ところが、コロナ禍によるパラダイムシフトは、人との接近が危険とされ、ソーシャルディスタンスやテレワーク要請が新常識となってしまったが感がある。

ソーシャルディスタンスの継続は人々の精神を破壊し、常に人への警戒心を植え付ける異常社会の創出である。コロナ禍の過剰な感染警戒に反発を覚える人も多く、多くの工場関係者も『製造業では無理だ!』と考えている。

無理とは言っても、新しいパラダイムシフトによる社会環境の中で、新しいものづくり様式の「ニューノーマル工場(非対面式製造モデル)」の構築による、さらなるイノベーションは必須であり、感染を防止し、かつ生産性向上を実現するニューノーマル工場に向かう方策を検討しながら実行しなければならない。

今回からしばらくこの点に焦点を当て、深掘りして連載したい。

連載その1は『コロナ禍が教える日本のものづくり課題』と題し、日本のものづくりを分析する。

ニューノーマル社会での留意すべきポイントは、3密への警戒であるが、残念ながら日本のものづくりは、大手製造業から中小企業・町工場に至るまで、歴史的に『群れ合いものづくり』で成り立っている。

群れ合いものづくりは感染脅威の象徴であり、大きな課題である。慣習的に当たり前となっていることが、非効率な構造的課題であることをコロナ禍が教えてくれた。

群れ合いものづくりの代表例は、大手製造業を頂点とする「系列」と、「インテグラル(摺り合わせ)型」と称する日本のものづくりの慣習である。系列とは日本特有なピラミッド組織であり、大手を頂点とする中小企業との間で、相互依存・共存共栄の連携を行う「垂直統合」と呼ばれている。

欧米で使われる1次サプライヤー(ティア1)、2次サプライヤー(ティア2)とは意味が違う。系列による日本のものづくりでは、緻密な意思伝達のために寄り添って過剰な打ち合わせが再三に渡って行われる。

〇〇協力会など参加企業が系列として認められ、会合も盛んで、協調と団結に時間と金を使って群れを維持する『群の象徴』である。

また、日本のものづくりは「インテグラル型」と呼ばれ、金属加工・樹脂加工・電気電子・ソフト・センサなどさまざまな専門技術者による密な打ち合わせが繰り返され、日本独特の高品質・高機能商品を創り出すのが特徴で、世界標準の「モジュラー(組み合わせ)型」とは一線を画している。

モジュラー型とは、パソコンや携帯電話などに代表されるものづくりであり、標準化された部品の組み合わせによって製品を完成させる方法である。日本はモジュラー型が不得意であり、中国や韓国にボロ負けし、日本のものづくりは依然として摺り合わせ型に依存している。『群れの象徴』がここにも存在する。

中小製造業の製造現場でも、「摺り合わせ(すりあわせ)会議」が、随所に散見される。当社のよく知る精密板金工業では、朝礼に始まり、1日に10回から15回の現場打ち合わせが各所で発生している。

CAD/CAMのオペレータが展開図作成の際に、現場(曲げや溶接)のノウハウを必要とし、図面を持って曲げベテランや溶接のベテランに相談する姿など、3密の打ち合わせは今まで何の不思議のない事であったが、意外にも生産性を落としている大きな要素でもある。

前述のように、日本のものづくり遺伝子には、群れと3密があり、感染危機の観点に加え、ムダ排除の観点からも改善すべき重要課題として浮き彫りになっている。米国や中国では、ロックダウンをきっかけに、モジュラー型のものづくりを進化させ、非対面型のものづくりへの移行を急ピッチで進めている。

モジュラー型のものづくりでは、非対面型への移行は容易で、事実、米国では受注の打ち合わせから技術検討に至る全てのプロセスをオンライン化し、非対面式での製造再起動が本格化し、製造業のV字回復を戦略的にもくろんでいる。

半面日本においては、大手製造業の遅れが顕著である。多くの企業が外部との対面打ち合わせを中止し、『打ち合わせ延期』『〇〇人以上の打ち合わせ禁止』などの通達により、ビジネスの凍結が精いっぱいで、非対面式ビジネスモデルへの移行には関心のない大手製造業が多いのが現状である。

コロナ禍パラダイムシフトで、歴史的な系列の慣習は消滅し、設計部門と製造部門を非対面で密につなぐデジタル垂直統合が台頭するであろう。中小製造業のニューノーマル工場とは、高度なデジタル化により、デジタル垂直統合に加え、従業員の非対面会話やテレワークを可能にし、RPA(ソフトウエア型ロボット)や人工知能(AI)により単純事務作業が自動化され、製造現場でも高度な自動化を実現した工場である。

中小製造業がニューノーマル工場に移行することにより、第4次産業革命・デジタルトランスフォーメーション(DX)の本格始動が始まる。

コロナ禍によって日本のものづくりが古き体質から脱皮し、結果的にインダストリー4.0/IoTによる本物のつながる工場が実践されるとは、なんとも皮肉な話である。







記事肖像画縦
著者 高木俊郎

15:35 | 未分類 | コメント:0 | page top
2020/06/03 製造業のテレワークーー『第4次産業革命の幕を開けたコロナ禍』ーー
以下は 2020年5月27日のオートメーション新聞 第219号に掲載された寄稿記事です。

製造業のテレワーク
ーー 第4次産業革命の幕を開けたコロナ禍 ーー

突然に世界を襲ったコロナ禍は、感染者・医療従事者を窮地に陥れたばかりでなく、危機的な大不況を誘発し、世界中の大惨事となった。一刻も早い終息を願うばかりである。

コロナ禍は、人々の心に深い「不安と恐怖」を植え付け、この後遺症が癒やされるのは容易ではないが、半面でテレワークやオンライン会議の実践など、第4次産業革命を意識させる大きな進歩があったことも事実である。『災い転じて福となす』こんな観点から、コロナ禍の数カ月を顧みたい。

『川を上れ、海を渡れ』という言葉がある。連綿と続く時間の流れをさかのぼり、歴史を学ぶこと。そして、海を越えて世界から自分を見つめよう。という名言である。

私自身も世界を渡り歩く長い人生の中で、常に心に持ち続けた言葉である。しかし残念なことに、テレビ報道される「歴史や世界からの情報」が、日本中の人々を不安と恐怖に陥れた。

感染症の歴史をさかのぼれば、天然痘やペスト・スペイン風邪など、パンデミックの歴史が続々と出てくるが、歴史専門家の解説を聞いて、感染症の恐怖が多くの人々の心に刻まれていった。海の向こうの報道では、パンデミックを起こした国が登場し、『ニューヨークの悲劇は、明日の東京の姿だ』などの声に、日本中に動揺が広がっていった。

歴史的悲劇や海外の悲劇がわれわれに迫っていると洗脳され、人々は不安になり動揺するが、冷静に考えれば、大昔の世界と現在では全く事情が違うし、欧米では、移民・難民・ホームレスなど極端な貧富の差がパンデミックの要因となっており、社会秩序のある日本では全く事情が違う事に気づくはずである。

歴史と海外からの情報が、『川を上れ、海を渡れ』の趣旨とは、真逆の結果を生んでしまったが、この数カ月間で洗脳された「不安と恐怖」を人々が持ち続けても、明るい未来はやってこない。

コロナ禍の数カ月を総括し、われわれが認識すべきことは『遺伝子の誇り』である。国家強制力ではなく、自粛要請に自主判断で従う日本人の遺伝子は、どこの国にもまねできない。コロナ禍を乗り越え、明るい未来を開くためには、「不安と恐怖」から自らを解き放し、実践された『日本人遺伝子』に誇りを持ち、未来に進む『希望と勇気』が重要である。

また、イノベーションの観点もコロナを乗り越えるための必須条件である。コロナ禍の数カ月を総括すると、オンラインの壮大な実証実験と普及が一気に進んだ事が明確である。『災い転じて福となす』第4次産業革命が本格的に幕を開けたのである。

第4次産業革命は、人類が歴史的に経験する4回目の産業革命である。19世紀の産業革命から始まり、第2次産業革命で『電気』が誕生。第3次産業革命で『コンピュータ』が誕生し、『インターネット』が誕生したイノベーションが現在の第4次産業革命である。

コロナ禍以前には、誰も積極的ではなかった「オンライン」が、たった数カ月で世界中に浸透したのは驚愕に値する。テレワークによって好むと好まざるとにかかわらず、「オンラインミーティング」が必須となり、「オンライン演奏会」や「オンライン飲み会」などが誕生した。

テレワークやオンライン会議が、思ったより事業効率を上げていくことに驚いている経営者は多い。『やってみないと分からない』はまさにこの事である。

都会に事務所を持つ企業は、ほとんどの会社がテレワークを実施した。その結果、オンラインミーティングの威力と効果を初めて知った経営者は多く、私の友人で経営者の一人は、『アフターコロナ時代でも、オンラインミーティングは捨てられない。こんな便利で効率的なものだとは知らなかった』と語っている。

大手製造業の経営者は、かねてより立派なテレビ会議室での海外現地法人とのミーティングを自慢していたが、事務所閉鎖で活用できず、やむを得ずパソコン利用のインターネットオンラインシステムを活用し『こんな簡単にオンラインができるとは驚愕だ』と語っている。

コロナ禍で、オンライン活用の非対面コミュニケーションが一気に本格化したのは奇跡であり、もしコロナ禍に、インターネットがなかったら社会はどうなっていただろうか? コロナ禍が『第4次産業革命の本格普及の幕を開いた』と言ったら過言だろうか?

このオンライン革命が、中小製造業にも大きな影響を与える事は明白である。当社(アルファTKG)のお客さまは、地方の中小製造業が大半である。コロナ感染拡大の影響で、テレワークや工場閉鎖を実施したお客さまは皆無に近く、首都圏の企業から比べたら恵まれた状況であったが、オンラインの実証実験をする機会がなかったことが将来のマイナスになる危惧がある。

今回のコロナ禍の影響が少なく『われわれ製造業にはテレワークは無理だ!』と判じる経営者が多いが、東京に営業事務所を持ち、群馬県に工場を持っているA社の社長は、東京営業事務所のテレワークの経験から、群馬の工場に徹底的な非対面型オンラインミーティングシステムを導入設置し、膨大な経営効果を上げている。

コロナを乗り越える経営戦略の実践である。A社の群馬工場では、工場事務所と現場が、PCやタブレットを使っていつでも画面対話ができる仕組みを完成させた。東京営業事務所の閉鎖によってテレワークする営業マンとも、図面を見ながら会話するのも簡単であり、非常に大きな効果を上げている。

最近ではCADを担当するベテラン担当者の通勤負担を軽減するために、テレワークも導入した。A社が挑戦するシステムは、感染危機を排除し、情報距離を縮める最新武器である。

中小製造業において、工場内事務所と製造現場との情報距離を縮めることで、飛躍的な段取り削減による生産性向上が実現することをA社が教えてくれた。







記事肖像画縦
著者 高木俊郎

14:22 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
製造業再起動ブログ


Designed by ぽんだ
Powered by FC2ブログ



Copyright © アルファTKG公式ブログ(著者:高木俊郎) All Rights Reserved.