以下は 2020年2月26日のオートメーション新聞 第210号に掲載された寄稿記事です)
コロナ蔓延! 中国工場のカタストロフィで中小製造業復活の転機
ーー 『ロボファクトリー』の必然性 ーー
『カタストロフィ(catastrophe)』とは、時として『大惨事』と訳されるが、突然のキッカケから修復不能の事態に発展した大災難を意味し、『破壊』を表現する言葉である。
中国発の新型ウイルスの蔓延は、深刻な脅威として世界中に感染が広がっている。人から人への猛烈な感染力によって、世界的パンデミック(感染爆発)となる不安が人々を恐怖に陥れているが、新型ウイルスの殺傷力には限界があり、人類滅亡というカタストロフィ(大惨事)を危惧する人はいない。
しかし、ビジネス視点では、カタストロフィを意識せざるを得ない側面がある。具体的には、日本企業の中国現地工場が、カタストロフィとなる可能性を否定できない。特に、中国に多くの製造拠点を持つ大手製造業は大きな戦略変更を迫られている。
新型ウイルス「COVID-19」の蔓延はグローバル主義のカタストロフィへの決定打と言っても過言ではない。グローバル主義とは、各国の規制や障壁をなくし、ビジネスの自由化を推し進めた思想であり、数十年前より米英から始まった。
日本でも中国への製造シフトを推進し、金、技術、人材を投入し、中国工場を建設し育成したが、ビジネスとして失敗した例が数多く報道されている。大手家電メーカーを筆頭に、グローバル主義は日本にとって鬼門である。
しかし不思議なことに、日本の政治思想も経済界も今日まで『グローバル主義』の方針を変更していない。ところが、米英ではすでに『グローバル主義』への否定が叫ばれ、実行されている。
米国では、トランプ政権による自国第一主義や米中貿易戦争により、反グローバル主義が主流となり、欧州ではグローバル主義の代表『EU(欧州連合)』の求心力が低下し、英国のブレグジット(欧州連合離脱)をキッカケに、欧州全体で反グローバル主義が増えている。
反グローバルには鈍重な日本は、皮肉にも新型ウイルスによって、グローバル主義や海外製造拠点への否定が始まっている。
米国では海外製造拠点は既に否定され、米国国内に製造を戻す『リショアリング(製造回帰)』が積極的に実行されているが、リショアリングに躊躇していた日本製造業も、今まさに(好むと好まざるとにかかわらず)新型ウイルス蔓延の影響を目の当たりにし、リショアリングを検討せざるを得ない事態となった。
また、『チャイナプラスワン』の言葉に煽られ、中国以外のアジア諸国への進出を考えていた企業にとっても(サプライチェーン確保の観点から)アジア進出が得策ではない事を痛感している筈である。
新型ウイルスの影響で中国からのサプライチェーンが分断され、日本製造業も当面、想像を超える幾多の混乱が続くだろうが、長期的視点に立てば、リショアリングは、日本製造業にとって必ずしもマイナスだけではない。
特に中小製造業にとっての次への転機であるとも言える。リショアリングの本格化によって、製造の多くが国内に戻るので、中小製造業は大幅な受注増も期待できる。しかし、楽観してはいけない。
乗り越えなければならない課題が多く存在する。中小製造業には深刻な『人手不足』というアキレス腱が存在し、生産能力の増大にブレーキが掛かっている。
リショアリングによる大幅受注増をこなす為には、1. 原価低減2. 量産対応の2つの課題を乗り越えなくてはならない。従来の生産体型の継続では課題克服は難しいが、幸いにしてRPA(ソフトロボット)やAI(人工知能)などの最先端技術が、生産性向上と生産能力増強の特効薬として存在している。
次世代の中小製造業は、本格的な自動化、すなわち、事務所も製造現場も徹底的なロボット化による『ロボファクトリー』を目指すことである。ロボファクトリーこそ、中小製造業の新戦略であり、将来の姿であると断言できる。
ロボファクトリーの構築は、ただ単に製造現場の自動化を行うことではなく、事務所やエンジニアリングなどの人手作業を自動化することが極めて重要である。
この実現には、高度な『図面管理システム』が必要である。生産管理も工程管理もCAD/CAMも図面との高度な統合があってロボファクトリーが完成する。
当社アルファTKGでは、「図面RPA(当社独自開発・ソフトロボット)」や「図面AI(当社独自開発・人工知能)」を市場にリリースし、大きな効果が検証されている。今回は、具体的事例から、図面RPAや図面AIの優れた効果を紹介する。
図面RPAや図面AIは、2万1000人規模の精密板金企業を中心に、昨年より導入が開始された極めて最新のソリューションである。この導入は、すでに数十社にのぼり、新規導入企業も急上昇中である。
導入効果は絶大で、平均月200時間の省人化効果と20%の生産性向上が確認されている。社内に存在する図面は、紙図面から3Dデータに至るまで、図面RPAによって図番など有効情報を自動的に読み込み、クラウドサーバにビックデータとして自動整理し保存される。
図面RPAにより、生産管理やCAD/CAMなど別々のシステムから、同一図番の情報を瞬時に探し、図面フォルダーに自動格納するので、製造現場では図面と一緒に必要情報がすべて呼び出しでき、内段取り時間が大幅削減し、生産性が向上する。また、図面AIにより類似図面を瞬時に探したりできるので、図面検索時間をほとんどゼロとなり、省人化効果とリピート2度作りの防止に役立っている。
図面RPAや図面AIなどによる高度な図面管理システムは、ロボファクトリーを構築する最新技術であり、中小製造業にとっての必需品となるだろう。

著者 高木俊郎
コロナ蔓延! 中国工場のカタストロフィで中小製造業復活の転機
ーー 『ロボファクトリー』の必然性 ーー
『カタストロフィ(catastrophe)』とは、時として『大惨事』と訳されるが、突然のキッカケから修復不能の事態に発展した大災難を意味し、『破壊』を表現する言葉である。
中国発の新型ウイルスの蔓延は、深刻な脅威として世界中に感染が広がっている。人から人への猛烈な感染力によって、世界的パンデミック(感染爆発)となる不安が人々を恐怖に陥れているが、新型ウイルスの殺傷力には限界があり、人類滅亡というカタストロフィ(大惨事)を危惧する人はいない。
しかし、ビジネス視点では、カタストロフィを意識せざるを得ない側面がある。具体的には、日本企業の中国現地工場が、カタストロフィとなる可能性を否定できない。特に、中国に多くの製造拠点を持つ大手製造業は大きな戦略変更を迫られている。
新型ウイルス「COVID-19」の蔓延はグローバル主義のカタストロフィへの決定打と言っても過言ではない。グローバル主義とは、各国の規制や障壁をなくし、ビジネスの自由化を推し進めた思想であり、数十年前より米英から始まった。
日本でも中国への製造シフトを推進し、金、技術、人材を投入し、中国工場を建設し育成したが、ビジネスとして失敗した例が数多く報道されている。大手家電メーカーを筆頭に、グローバル主義は日本にとって鬼門である。
しかし不思議なことに、日本の政治思想も経済界も今日まで『グローバル主義』の方針を変更していない。ところが、米英ではすでに『グローバル主義』への否定が叫ばれ、実行されている。
米国では、トランプ政権による自国第一主義や米中貿易戦争により、反グローバル主義が主流となり、欧州ではグローバル主義の代表『EU(欧州連合)』の求心力が低下し、英国のブレグジット(欧州連合離脱)をキッカケに、欧州全体で反グローバル主義が増えている。
反グローバルには鈍重な日本は、皮肉にも新型ウイルスによって、グローバル主義や海外製造拠点への否定が始まっている。
米国では海外製造拠点は既に否定され、米国国内に製造を戻す『リショアリング(製造回帰)』が積極的に実行されているが、リショアリングに躊躇していた日本製造業も、今まさに(好むと好まざるとにかかわらず)新型ウイルス蔓延の影響を目の当たりにし、リショアリングを検討せざるを得ない事態となった。
また、『チャイナプラスワン』の言葉に煽られ、中国以外のアジア諸国への進出を考えていた企業にとっても(サプライチェーン確保の観点から)アジア進出が得策ではない事を痛感している筈である。
新型ウイルスの影響で中国からのサプライチェーンが分断され、日本製造業も当面、想像を超える幾多の混乱が続くだろうが、長期的視点に立てば、リショアリングは、日本製造業にとって必ずしもマイナスだけではない。
特に中小製造業にとっての次への転機であるとも言える。リショアリングの本格化によって、製造の多くが国内に戻るので、中小製造業は大幅な受注増も期待できる。しかし、楽観してはいけない。
乗り越えなければならない課題が多く存在する。中小製造業には深刻な『人手不足』というアキレス腱が存在し、生産能力の増大にブレーキが掛かっている。
リショアリングによる大幅受注増をこなす為には、1. 原価低減2. 量産対応の2つの課題を乗り越えなくてはならない。従来の生産体型の継続では課題克服は難しいが、幸いにしてRPA(ソフトロボット)やAI(人工知能)などの最先端技術が、生産性向上と生産能力増強の特効薬として存在している。
次世代の中小製造業は、本格的な自動化、すなわち、事務所も製造現場も徹底的なロボット化による『ロボファクトリー』を目指すことである。ロボファクトリーこそ、中小製造業の新戦略であり、将来の姿であると断言できる。
ロボファクトリーの構築は、ただ単に製造現場の自動化を行うことではなく、事務所やエンジニアリングなどの人手作業を自動化することが極めて重要である。
この実現には、高度な『図面管理システム』が必要である。生産管理も工程管理もCAD/CAMも図面との高度な統合があってロボファクトリーが完成する。
当社アルファTKGでは、「図面RPA(当社独自開発・ソフトロボット)」や「図面AI(当社独自開発・人工知能)」を市場にリリースし、大きな効果が検証されている。今回は、具体的事例から、図面RPAや図面AIの優れた効果を紹介する。
図面RPAや図面AIは、2万1000人規模の精密板金企業を中心に、昨年より導入が開始された極めて最新のソリューションである。この導入は、すでに数十社にのぼり、新規導入企業も急上昇中である。
導入効果は絶大で、平均月200時間の省人化効果と20%の生産性向上が確認されている。社内に存在する図面は、紙図面から3Dデータに至るまで、図面RPAによって図番など有効情報を自動的に読み込み、クラウドサーバにビックデータとして自動整理し保存される。
図面RPAにより、生産管理やCAD/CAMなど別々のシステムから、同一図番の情報を瞬時に探し、図面フォルダーに自動格納するので、製造現場では図面と一緒に必要情報がすべて呼び出しでき、内段取り時間が大幅削減し、生産性が向上する。また、図面AIにより類似図面を瞬時に探したりできるので、図面検索時間をほとんどゼロとなり、省人化効果とリピート2度作りの防止に役立っている。
図面RPAや図面AIなどによる高度な図面管理システムは、ロボファクトリーを構築する最新技術であり、中小製造業にとっての必需品となるだろう。

著者 高木俊郎
2020/02/06 中小製造業の後継者問題と生き残りーー『事業承継とRPA(ソフトロボット)』ーー
以下は 2020年1月29日のオートメーション新聞 第207号に掲載された寄稿記事です)
中小製造業の後継者問題と生き残り
ーー 『事業承継とRPA(ソフトロボット)』 ーー
今回は『中小製造業の生き残り』をテーマとして、『事業承継』と『RPA(ソフトロボット)』という全く違う2つのキーワードにスポットライトを当て、中小製造業の課題について論じたい。
はじめに、世間で話題となっている中小製造業の『後継者問題』を取り上げたい。皆さんはよくご存じと思うが、中小製造業を支援する補助金の一つに『事業承継補助金』がある。
事業継承補助金は今年度も閣議決定により補正予算に組み込まれ、50億円規模の補助金交付が継続的に実行される見通しである。事業承継補助金については、一部でバラマキとの悪評も聞こえてくるが、誕生の原点を探ってみると、3年前の2017年9月に中小企業庁の公表した試算が大きく影響している。
この内容は、日本経済の将来危機として「25年までに経営者が70歳を超える法人の30%、個人事業主の65%が廃業する」と予測し、「後継者不足による廃業で、全国で650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」との試算を発表し、後継者不足に警鐘を鳴らしたのである。
この警鐘により、事業承継の重要性が社会問題として認知された。事業承継補助金の誕生も、この難局を打破する打ち手として企画され、以前より実行されていた『創業者補助金』に代わる新たな助成金として登場したのである。
当社(アルファTKG)のお客さまは、中小製造業が大半であり、数多くの中小製造業・町工場の経営者とのお付き合いから、業界の実態を肌感覚で理解している。中小企業庁の警鐘の通り、後継者不足は深刻な課題であるが、決して悲観的な側面だけではない。
事業承継した2代目・3代目の若者が、未来への改革に情熱を燃やし、大いに活躍している企業が数多く存在し、われわれはその姿を目の当たりにしている。もちろん、業界全体を見れば、後継者に恵まれず経営存続の難しい企業は枚挙にいとまがないほどで、多くの企業が廃業や企業売却を避けることはできないだろう。
しかし、このマイナスを打ち消すだけの2代目・3代目の十分なエネルギーが日本に存在している事を忘れてはならない。
当社の主力市場である精密板金市場を例に上げると、厳しい後継者不足の半面で、案外明るい事業承継の姿が見えてくる。精密板金業界は、国内2万社に支えられた典型的な中小製造業・町工場の業界である。
後継者不足による廃業・企業売却は、すでに顕在化しており、10年以内に50%の1万社以上が廃業すると予想され、企業数は1992年のピーク時から40%以下に減少するだろうが、これでも業界全体が衰退することは考えづらい。
事業承継した若手経営者の活躍する企業では、年率20%以上の企業が拡大を続けており、IoT化・自動化によるスマート工場の構築には極めて意欲的であり、悲壮感は全くない。これらの企業が10年もかからず(M&Aも含め)事業規模を2倍、3倍に発展拡大することは、安易に想像できる。
精密板金市場は、後継者不在で消滅する企業と、後継者の活躍で拡大する企業が、モザイクのように絡み、2極化という大きな地殻変動を起こしながら業界全体が拡大する可能性が大きい。
中小企業庁が予想する「650万人の雇用と約22兆円のGDP喪失」とは真逆の明るい可能性であり、未来に向けた地殻変動の主役こそ、2代目・3代目の強力な若手エネルギーと、IoTによるデジタルイノベーションである。
業界拡大の担い手は「若手経営者」であり、「RPA(ソフトロボット)の活用」であると断言できる。
中小企業庁の警鐘を背景とした補助金施策も良いが、われわれにできる最大の打ち手は、事業承継する若き経営者を支える技術的武器の供給とサポートに尽きるのではないだろうか?
先代が培ったレガシーをベースに、デジタル化・自動化された未来工場を創造することが、後継者の使命であることに疑いの余地はない。この実現の一丁目一番地は、RPA(ソフトロボット)の活用である。
RPAや人工知能そしてIoTなどの最先端技術が、事業承継された若きエネルギーと合体したとき、日本の未来を支える強力な中小製造業が誕生するのである。
今回のテーマは『事業承継とRPA』であるが、RPAこそ事業承継者にとっての最大の技術的な武器であり、現代社会に誕生した魔法の道具であることを明言し、RPAについて紙面が許す限り言及していきたい。
RPA(ロボテック・プロセス・オートメーション)とは、ソフトロボットである。RPAは『人に変わってコンピュータ操作や処理を自動で行ってくれるアシスタント』であり、コンピュータ内に常駐する目に見えないロボットである。
この技術は、平成後期に確立された新しい技術であるが、急速に実社会での実践活用が始まり、話題の中核に躍り出た。RPAは、AI(人工知能)やOCR技術も取り込んで発展しており、銀行・保険会社・大企業メーカーや一部の地方自治体などでは、単純なコンピュータ事務処理作業が随時RPAに取って代わっており、重要な企業戦略の一翼となっている。
中小製造業へのRPA普及はこれからであるが、中小製造業におけるRPAの導入メリットは計り知れない。RPAは、単純な事務処理作業を事務員から開放する道具なので、間接業務(事務要員)の合理化には、特効薬的効果を発揮する。
また、RPAの導入は未来型のデジタル化自動化工場の足がかりとなるので、事業承継された若き経営者のビジョンを実現する登竜門でもある。事業承継なくして企業の未来はない。事業承継してもRPAから始まるデジタルイノベーションなくして企業の未来はない。事業承継とRPAは未来へのパスポートである。

著者 高木俊郎
中小製造業の後継者問題と生き残り
ーー 『事業承継とRPA(ソフトロボット)』 ーー
今回は『中小製造業の生き残り』をテーマとして、『事業承継』と『RPA(ソフトロボット)』という全く違う2つのキーワードにスポットライトを当て、中小製造業の課題について論じたい。
はじめに、世間で話題となっている中小製造業の『後継者問題』を取り上げたい。皆さんはよくご存じと思うが、中小製造業を支援する補助金の一つに『事業承継補助金』がある。
事業継承補助金は今年度も閣議決定により補正予算に組み込まれ、50億円規模の補助金交付が継続的に実行される見通しである。事業承継補助金については、一部でバラマキとの悪評も聞こえてくるが、誕生の原点を探ってみると、3年前の2017年9月に中小企業庁の公表した試算が大きく影響している。
この内容は、日本経済の将来危機として「25年までに経営者が70歳を超える法人の30%、個人事業主の65%が廃業する」と予測し、「後継者不足による廃業で、全国で650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」との試算を発表し、後継者不足に警鐘を鳴らしたのである。
この警鐘により、事業承継の重要性が社会問題として認知された。事業承継補助金の誕生も、この難局を打破する打ち手として企画され、以前より実行されていた『創業者補助金』に代わる新たな助成金として登場したのである。
当社(アルファTKG)のお客さまは、中小製造業が大半であり、数多くの中小製造業・町工場の経営者とのお付き合いから、業界の実態を肌感覚で理解している。中小企業庁の警鐘の通り、後継者不足は深刻な課題であるが、決して悲観的な側面だけではない。
事業承継した2代目・3代目の若者が、未来への改革に情熱を燃やし、大いに活躍している企業が数多く存在し、われわれはその姿を目の当たりにしている。もちろん、業界全体を見れば、後継者に恵まれず経営存続の難しい企業は枚挙にいとまがないほどで、多くの企業が廃業や企業売却を避けることはできないだろう。
しかし、このマイナスを打ち消すだけの2代目・3代目の十分なエネルギーが日本に存在している事を忘れてはならない。
当社の主力市場である精密板金市場を例に上げると、厳しい後継者不足の半面で、案外明るい事業承継の姿が見えてくる。精密板金業界は、国内2万社に支えられた典型的な中小製造業・町工場の業界である。
後継者不足による廃業・企業売却は、すでに顕在化しており、10年以内に50%の1万社以上が廃業すると予想され、企業数は1992年のピーク時から40%以下に減少するだろうが、これでも業界全体が衰退することは考えづらい。
事業承継した若手経営者の活躍する企業では、年率20%以上の企業が拡大を続けており、IoT化・自動化によるスマート工場の構築には極めて意欲的であり、悲壮感は全くない。これらの企業が10年もかからず(M&Aも含め)事業規模を2倍、3倍に発展拡大することは、安易に想像できる。
精密板金市場は、後継者不在で消滅する企業と、後継者の活躍で拡大する企業が、モザイクのように絡み、2極化という大きな地殻変動を起こしながら業界全体が拡大する可能性が大きい。
中小企業庁が予想する「650万人の雇用と約22兆円のGDP喪失」とは真逆の明るい可能性であり、未来に向けた地殻変動の主役こそ、2代目・3代目の強力な若手エネルギーと、IoTによるデジタルイノベーションである。
業界拡大の担い手は「若手経営者」であり、「RPA(ソフトロボット)の活用」であると断言できる。
中小企業庁の警鐘を背景とした補助金施策も良いが、われわれにできる最大の打ち手は、事業承継する若き経営者を支える技術的武器の供給とサポートに尽きるのではないだろうか?
先代が培ったレガシーをベースに、デジタル化・自動化された未来工場を創造することが、後継者の使命であることに疑いの余地はない。この実現の一丁目一番地は、RPA(ソフトロボット)の活用である。
RPAや人工知能そしてIoTなどの最先端技術が、事業承継された若きエネルギーと合体したとき、日本の未来を支える強力な中小製造業が誕生するのである。
今回のテーマは『事業承継とRPA』であるが、RPAこそ事業承継者にとっての最大の技術的な武器であり、現代社会に誕生した魔法の道具であることを明言し、RPAについて紙面が許す限り言及していきたい。
RPA(ロボテック・プロセス・オートメーション)とは、ソフトロボットである。RPAは『人に変わってコンピュータ操作や処理を自動で行ってくれるアシスタント』であり、コンピュータ内に常駐する目に見えないロボットである。
この技術は、平成後期に確立された新しい技術であるが、急速に実社会での実践活用が始まり、話題の中核に躍り出た。RPAは、AI(人工知能)やOCR技術も取り込んで発展しており、銀行・保険会社・大企業メーカーや一部の地方自治体などでは、単純なコンピュータ事務処理作業が随時RPAに取って代わっており、重要な企業戦略の一翼となっている。
中小製造業へのRPA普及はこれからであるが、中小製造業におけるRPAの導入メリットは計り知れない。RPAは、単純な事務処理作業を事務員から開放する道具なので、間接業務(事務要員)の合理化には、特効薬的効果を発揮する。
また、RPAの導入は未来型のデジタル化自動化工場の足がかりとなるので、事業承継された若き経営者のビジョンを実現する登竜門でもある。事業承継なくして企業の未来はない。事業承継してもRPAから始まるデジタルイノベーションなくして企業の未来はない。事業承継とRPAは未来へのパスポートである。

著者 高木俊郎