2019/12/20 金属加工を襲うパラダイムシフトーー『PLA(ポリ乳酸)が起こすプラスチック革命』ーー
以下は 2019年12月18日のオートメーション新聞 第204号に掲載された寄稿記事です)

金属加工を襲うパラダイムシフト
ーー 『PLA(ポリ乳酸)が起こすプラスチック革命』 ーー

数年前より「プラごみ問題」が地球規模の問題として、テレビなどで大きく取り上げられている。プラスチック製品が海に流れ込み、海洋動物が不運な被害者となる映像を見て、衝撃を受けた方も多いのではないだろうか?

プラスチック製ストローの使用を禁止する企業や、規制をかける国(英、仏、台湾など)も出てきており、プラスチック製品は悪者の代名詞となっている。

プラスチック業界は、日本の製造業を支える年間数十兆円の巨大産業であるが、業界の存続を危ぶむ声もある。

鉄などの金属をベースとした「金属加工業界」では、かなり以前よりプラスチック技術を注視し、金属製品がプラスチックに変わる恐怖を抱いていたが、プラごみ問題をキッカケに、『やはりプラスチックはダメだ。金属は永遠である!』とのイメージが金属加工業界に蔓延している。『金属からプラスチックへ』の話題は聞こえてこない。

ところが、2019年春先から工作機械メーカーの受注高は、連続して前年同月を割り込み、18年度と比較し40%もの受注減となっている。業界は強烈なリセッション(景気後退)に襲われており、自動車のEV化による金属業界全体の衰退危機もささやかれ、金属加工業界は決して穏やかではない。

一方で、プラスチック業界では、金属加工を脅かす「3Dプリンター」や「PLA((ポリ乳酸))革命」が進行中であり、射出成形機メーカーも将来戦略を強力に推進中である。

皆さんは『PLA』をご存じだろうか? PLA(Poly-Lactic Acid)とは、ポリ乳酸の頭文字をとった略であり、PLA樹脂と呼ばれ、およそ20年前に開発された植物由来のプラスチック素材である。

じゃがいもやトウモロコシに含まれるデンプンなどによる樹脂である。石油からつくられる従来の素材に代わる、バイオプラステックと呼ばれる自然に優しい素材である。植物由来のPLAは、地球環境に優しいプラスチックであり、3Dプリンターによる金型製造技術の進化により多品種少量生産にも対応でき、プラスチック加工の概念が大きく変わっていくだろう。

EV化に伴う「新型電池」も膨大な需要が予測されるが、絶縁性の観点から金属製品は否定されプラスチック化は必須である。自動車エンジンの後退とともに、金属加工製品からプラスチック製品への需要変化が始まっている。

パラダイムシフトとは、共通概念が破壊される時に使われる言葉であるが、今日の工作機械業界のリセッションと射出成形機業界の堅調性は、単なる景気循環サイクルではなく、大きなパラダイムシフトの序曲であるかもしれない。パラダイムシフトという発想の転換は、日本人にとって極めて不得意の領域である。

発想転換の難しさを証明するエピソードがある。30年前に、旧電電公社の幹部であったA氏との忘れられない会話である。A氏との会話の中心は、『電話の進化は、電話機にコンピュータがつくのか?コンピュータが電話機になるのか?』の議論であった。

A氏の熱弁は『電話機がいかに優れているか!』の解説であり、交換機を含めた電話網のシステムは永遠であり、『電話機にコンピュータがついて便利にはなるが、コンピュータが電話機の代わるのはあり得ない』とのことであった。

A氏の認識は当時のNTT幹部の総意であった。事実、NTTは『iモード』を開発し、ガラパゴスと呼ばれるコンピュータを搭載した機能満載の携帯電話を開発したが、世界はこれを否定した。

世界的なイノベーションはNTTの思惑とは違い、スマホが全世界で普及した。スマホの普及は従来産業(特に日本の産業)を破壊する暴力的かつ破壊的なものであった。スマホはコンピュータそのものである。

コンピュータに電話機能が搭載され、交換機など従来の電話網システムを不要にしてしまった。旧電電公社の幹部いわく、『絶対にできない事』が海の向こうで実現したのである。

スマホ(コンピュータ)は、電話機のみならず、カメラやオーディオやカーナビなどを飲み込み、従来の専門機器メーカーは不要となり、日本に存在した大メーカーを破壊し、殲滅に追いやった。発想の転換に遅れた『日本の敗北』である。


今後、破壊的イノベーションは全産業で加速するだろう。コンピュータとEVにタイヤがついた車、コンピュータとEVにアクチュエータがついた工作機械など、EV化の潮流に合わせ、従来の概念が完全に変わるパラダイムシフトが起きるだろう。

コンピュータとインターネット、そして人工知能技術が中核となる時代の到来である。20世紀に世界を席巻した日本製商品(電話通信機器・オーディオ機器・カメラ・自動車・工作機械など)の全てが、コンピュータと人工知能に飲まれていくイノベーションが世界で起きている。昭和・平成時代に活躍した日本の名門大企業が疲弊し、衰退する姿を皆が見てきた。

金属を対象とした工作機械も日本のお家芸であるが、機械のイノベーションはすでに終焉を迎えつつあり、各メーカーから発売される新機種はマイナーチェンジの範囲にとどまっている。

その半面、プラスチック加工はPLAなどの素材革命や金型製造革命を含め、大きなイノベーションも期待され、需要も極めて大きい。『金属は永遠である!』、『当社には歴史が育んだ金属加工のノウハウがある』という概念を過信していたら、大きなパラダイムシフトの潮流に飲み込まれてしまうかもしれない。

将来への変化の兆しを直視し、パラダイムシフトを自ら誘導する強い日本企業の台頭を確信し、2019年締めの提言としたい。







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著者 高木俊郎
17:40 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/12/06 製造業リセッション(景気後退)ーー『日本の中小製造業を取り巻く環境と対策』ーー
以下は 2019年11月27日のオートメーション新聞 第201号に掲載された寄稿記事です)

製造業リセッション(景気後退)
ーー 『日本の中小製造業を取り巻く環境と対策』 ーー

直近の機械受注が大幅な落ち込みを示している。驚くことに、落ち込み幅はリーマンショックに匹敵、またはそれを超える状況である。工作機械を始め、小型プレスやレーザ加工機など、大惨事といえるほどの急落に見舞われている。

今年の春先まで順風満帆であった機械業界は、いきなり暴風雨圏内に突入した。不思議なことに、業界を震撼する受注減に見舞われている各機械メーカーは、意外なほど冷静である。

その理由は、蓄積された膨大な受注残に加え、リーマンショックの時に体験した『急速な為替変動』が起きていないためである。現在の円ドル相場が比較的安定しており、現状のところ、急速な円高による輸出減や為替差損におびえる必要がないのが、リーマショック当時との違いである。

しかし世界を取り巻く環境は、世界的な本格的リセッション(景気後退)の危惧があり、決して予断を許す状況ではない。潮目が変わったと断言できる。

今回は、世界の経済状況の現状を再確認し、日本の中小製造業への影響と、今後の対応策を検討していきたい。検討に当たり、筆者が得意とする精密板金業界の現状に基づき検証を進める。

精密板金市場とは、国内市場4兆円規模の大きな産業であり、2万社の中小板金製造業が日本列島津々浦々に存在する『中小製造業・町工場』の代表的業界である。

世間的にはあまり目立たない業界であるが、自動化やデジタル化が飛躍的に進んでおり、付加価値の大きい『先端的な業界』である。従業員規模の平均値は30人程度の小規模企業の集合体であるが、なかなか魅力的な業界でもある。

精密板金業界では、薄板の鉄板を加工し、さまざまな製品が製造されている。精密板金業界の特徴は「多品種少量」と「短納期」である。配電盤や制御盤の外枠カバーは「筐体」と呼ばれ、量産のできない精密板金業界が得意とする代表的な製品である。

また、街にあふれるATM(現金自動預け入れ支払い機)や病院の医療機器(CT、MRI、人工透析機など)、駅の券売機やプラットホームのホームドアなど精密板金の製品は多岐にわたり、半導体製造装置や航空機部品から工作機械カバー、建設機械カバーなども精密板金の製品である。

あらゆる業界に入り込んでいる精密板金業界の景気動向分析から、いま日本で起きている不況業種を知ることができる。

不況に突入したのは、「工作機械」「建設機械」「半導体製造装置」であり、集中豪雨のごとくこの3業種に不況の波が押し寄せている。

世界に目を転じると、ドイツ経済は土砂降り、欧州全体も低調、中国・韓国は悲惨、アジア各国も下降と、海外の経済環境は非常に良くない。

最高の景気を継続しているのは米国のみである。この米国で、11月中旬にシカゴ展示会と呼ばれるFabtec2019(精密板金向けの見本市)が開催された。筆者もFabtecの取材に出掛けたが、多くの専門家から『驚愕の情報』を得て当惑している。

この当惑ポイントは3点。
1.すべての米国の業界専門家が、来年度から始まる「米国のリセッション」を予想していること
2.ドイツ発のインダストリー4.0の失敗が明確であること
3.精密板金業界は「自動化とIoT化のみ」がイノベーションであり、機械の進歩が終焉したこと。

この驚愕情報をベースに、日本の精密板金業界の来年を予想すると、限りない不安と希望が見えてくる。

不安の要因は、世界的なリセッションが間近に迫っていることである。日本の報道機関は、オリンピック不況や消費税不況を盛んに危惧しているが、それ以上に世界規模の不況期が訪れる危惧である。

半面、希望の要因は、自動化/デジタル化による『中小製造業再起動・再成長』の芽吹きである。

日本の中小製造業の最大の課題は「人手不足」であることは明白であり、現在の需給状況が続けば、人手不足は深刻化し、外国人労働者に依存する中小製造業が続出することは火を見るより明らかである。しかし、外国人労働者に依存した製造業が消滅の道を歩む事も、欧州が証明している。

日本の中小製造業に残された選択は、「最新技術の投入による生産性向上」、すなわち自動化/デジタル化によるイノベーションである。

『災い転じて福となす』は、日本の中小製造業に与えられた2020年のキーワードとなるだろう。この数年、中小製造業を襲った『狂気の受注増』は緩和され、目先の人手不足や外国人労働者依存も小休止となり、自動化/デジタル化による生産性向上に正面から取り組む絶好のチャンスがやってくる。

ドイツ発のインダストリー4.0の失敗が危惧されるが、これも中小製造業にとっては福音である。インダストリー4.0で大手製造業の囲い込みには入らず、中小製造業が主権を持って進める「自動化/デジタル化のイノベーション」実現の時がやってきた。

次回からは、中小製造業の自動化/デジタル化を具体的に実現する『人工知能やRPA、そしてクラウド技術』など、実現可能なイノベーションを紹介する。







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著者 高木俊郎

16:03 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
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