2019/02/28 外需失速を警戒する日本製造業ーー『米中貿易戦争の行きつく先は?』 ーー
以下は 2019年2月27日のオートメーション新聞 第174号に掲載された寄稿記事です)

外需失速を警戒する日本製造業

ーー 『米中貿易戦争の行きつく先は?』 ーー

『外需失速・内需好調拡大』・・多くの経営者が、米中貿易摩擦の影響から輸出減少による経営悪化を警戒しており、『米中問題は予断を許さない』と語り、好調な内需拡大を予想する半面で、外需減少への危機感を抱いている。

また、各メディアも米中貿易戦争の影響については敏感であり、『中国需要の減少が日本経済の悪化を招く』との警戒感を多く報道している。

『日本は貿易立国、資源の輸入が必要で自動車など工業製品を輸出して稼ぐ国』との概念からも、外需失速への強い警戒感が生まれているが、公表データによれば、日本の貿易依存度は輸出輸入とも10%台であり、諸外国から比べかなり低い水準にある。

各国の貿易依存度をみると、韓国40%台で貿易立国の代表国である。ドイツも40%に迫っている。シンガポールを筆頭に東南アジア各国の貿易依存度は極めて大きく、欧州もオランダの60%台を筆頭に、各国とも貿易依存となっている。

日本は、意外な事に米国に次ぐ内需依存国家であり、貿易依存は小さく豊富な国内需要を持つ数少ない国である。日本が貿易立国という刷り込みは明らかに間違いである。この認識を持って、足元で起きている米中貿易戦争の国内への影響を分析してみたい。

筆者の会社は、板金製造業を営む中小製造業に多くの顧客を持つが、米中貿易戦争の影響で経営悪化している顧客はいない。一部の産業機器・工作機械メーカーは、中国からの受注減に見舞われているが、その影響比率は板金製造業の全体から見ると軽微で、業界全体は、依然として活況が続いている。

特に社会インフラ関連の高需要が続いており、板金製造業全体はとても忙しい。内需は地場産業の農機具関連など縮小ムードに突入している業種もあるが、全般的には極めて好調で拡大基調にある。

一方、海外に目を転じると、中国の経済悪化は顕著である。中国で発表される経済指標は全く当てにならないが、貿易統計だけは相手国があるので、中国だけで捏造はできない。この貿易統計が最近10%近いマイナスを示しており、中国の経済破綻を如実に示している。

中国GDPは政府発表とは裏腹に、すでに0%以下のマイナス成長に突入している可能性すらある。しかし、この経済悪化を米中貿易戦争と関連付けるのはおそらく見当違いであろう。

『中国は世界の工場、貿易で稼ぐ貿易立国だ!』との一般的な概念も決して的を得ていない。中国の輸出依存度は20%台と低く貿易立国とは言えず、また一方で個人消費も30%台しか無いので、内需も極めて弱い。外需も内需も小さく、歪んだ経済である。

中国経済の実態は、明らかに政府主導の公共事業依存であり、これがGDPの40%以上を占めている。地方のゴーストタウンなど世界では類がない無駄な投資も多い。最近の中国経済の悪化は、公共投資依存で発展してきた矛盾が堆積し、負のマグマに耐えきれなくなった結果であり、中国経済はまさに『地獄の釡が開きかけた』状態にある。


中国経済悪化は、新興国はじめ世界に悪影響を及ぼすだろう。日本も少なからず影響を受けるだろうが、先進各国のなかでは、特にドイツが相当にヤバイ。欧州の優等生ドイツは、すでに中国経済悪化の直撃弾が多くの企業に命中し、好調であった経済が中国の冷水を浴びながら下降局面に突入した。

なぜ、ドイツに中国経済の悪化が直撃するのか?『日本とドイツはよく似ている』とのイメージもあるが、人間性や生活習慣、そして経済活動においてもドイツと日本では大きな相違点がある。

経済面での違いは、ドイツは『輸出依存国家』である。輸出比率は35%を超え、輸出で潤った国である。21世紀になって、ドイツは大きな経済成長を果たしたが、その背景にはEUの恩恵がある。同一通貨で為替変動もなく、ドイツは東欧や南欧諸国のEU加盟国に自国商品を大量輸出し大儲けした。

そしてドイツが一人勝ちとなり、欧州内に格差が広がり、南欧諸国を国家破綻にまで追い込んだ結果、ドイツのEU域内での輸出戦略を制限せざるを得ない状況となった。EU域内に替わってドイツが輸出の的として狙ったのが中国である。

ドイツは中国攻略戦略を練り、ドイツ政府と民間大企業が一体となって、中国への献身的なアプローチを開始した。内需依存の日本人には想像もつかない戦略と行動力である。目論見通り、ドイツからの中国輸出は爆発的に伸びたが、残念なことにこれが裏目となって、ドイツの悲劇が始まり、解決できない闇に入ろうとしている。

先進国ドイツの外需失速は、ドイツの板金製造業にも影響が出ている。ドイツと比較しても、日本の中小製造業は恵まれた環境にあると言っても過言ではない。日本製造業の対処すべき課題としては、外需失速の警戒感も必要ではあるが、米中貿易戦争の本質論である最先端分野での技術競争とその動向を十分理解する必要がある。

米中貿易戦争の本質は、貿易問題などではなく、明らかに5Gなど最先端分野での技術戦争であり、第4次産業革命の主導権争いであり、国家の覇権争いである。米中貿易戦争は、米中どちらが勝ったとしても行き着く先は『真のデジタル社会』の到来であり、『デジタル活況・アナログ失速』が世界中で繰り広げられるだろう。


日本の中小製造業が対処すべき課題は、日本のお家芸『職人のアナログ技術』を大切にしつつも、間近に迫りくる5G時代『自社工場デジタル化推進』を一日も早くスタートし、デジタル工場に変換し、労働生産性の大幅向上を目指すことである。

本国を追われた中国製造業が、大資本と自動化・デジタル化の仕組みを持って東南アジア各国に工場進出を開始した。いつ日本に上陸するかは予断を許さない。日本の内需好調拡大のマーケットは、海外から見たら絶好の獲物である。

豊富な国内需要拡大の果実を中国製造業に奪われる危険が存在し、それが現実になろうとしている。日本の中小製造業が直面する最大脅威は、欧米より周回遅れのデジタル化・自動化対応で、中国・アジアの新興企業に追い越されることである。








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著者 高木俊郎

10:50 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/02/01 利他主義を忘れた大手製造業ーー『賀詞交歓会からの警鐘』 ーー
以下は 2019年1月30日のオートメーション新聞 第171号に掲載された寄稿記事です)

利他主義を忘れた大手製造業

ーー 『賀詞交歓会からの警鐘』 ーー

毎年恒例の賀詞交歓会が、今年も例年通り全国各地で開かれた。製造業にとっては、極めて絶好調であった昨年に引き続き、本年も明るい賀詞交歓会のはずであるが、大手製造業の賀詞交歓会に参加した中小製造業の経営者からは、「賀詞交換会が形骸化している」といった声が多く聞かれる。

「昔は、大企業トップの年頭の辞には迫力があった」「最近の大手企業経営者の話はピンとこないし、心にも響かない」といった声や、「米中摩擦影響を予測する経済評論家のような話ばかりだ」「企業の戦略など何もないので失望した」といった声が充満している。

バブル崩壊から数十年が経過し、かつて世界で光り輝いた日本製造業の威光は確実に失われており、『賀詞交歓会からの警鐘』も決して無視できない緊急事態である。

グローバル化を標榜し、グローバル化に踊らされ、哀れな末路を辿った大手企業は枚挙にいとまがない。日本を代表する自動車産業ですら、ゴーンショックで年末年始の話題をさらっているのだから様にならない。にもかかわらず、依然としてグローバル化を賀詞交歓会の席上で声高に掲げる大企業トップがまだ居るのも不思議である。

また、数年前まで、ドイツより来航した現代の黒船『インダストリー4.0』に衝撃を受けた各企業では(時代に乗り遅れる危機を感じ)トップテーマに取り上げて推進したものの、何も実行できないまま時を無駄にしてきた企業が多く存在する。

そして今の企業風潮は、バズワード『IoT』に看板をつけかえて、「IoTが当社の重要戦略である」との方針を掲げ、「全ての機械がつながる」とか、「日本式インダストリー4.0」といったお題目を戦略と称する企業が増殖している。

グローバル化戦略と同様、なんの自主性もなく「話題のつまみ食い」を企業戦略に据える日本大手製造業の行末に、働く社員から仕事を請け負う中小製造業の経営者まで、大きな不安を覚えている。

一般論では、史上空前の利益を吐き出す企業が続出し、6年連続の給与アップも期待できる環境なのに、なぜか閉塞感がみなぎっている。

世界に目を転ずれば、移民排除や反グローバル化は、先進各国に芽生えている『時の流れ』である。しかし、わが国の政府は移民を増す法案を通し、周回遅れを実施している。

また、大手製造企業において、グローバル化がうまくいかないことが実証済みなのに、不思議なことに日本の歴史に根ざす『伝統的な日本経営』に帰還しようとする動きはほとんど見られない。先人の残した文化や伝統を重視せず、不慣れなグローバル標準に傾注するのはなぜだろうか?

年頭に当たり、今回はこの傾向と対策を徹底究明していきたい。

日本の大手製造業は、戦前からの老舗企業と戦後の創業の新しい企業に分かれるが、数の上では後者が圧倒的に多い。

新しいといってもその社歴は、すでに70年前後の企業が多く、創業者経営の第一世代(創業世代)はとっくに終わり、創業者によって育てられた第2世代(子分世代)の経営者も引退し、創業者を知らない第3世代(サラリーマン世代)の人たちが社長・取締役に就任している企業が日本の大手製造業の大半を占めている。

世襲によって代々継承する中小製造業とは異なり、大手製造業での新任社長は、借金の心配もなく従業員への細かな配慮もいらない。創業者から任命されたのではなく、サラリーマンとして出世競争に勝ち抜いた人々が今の経営者である。

お客様や社員への感謝の気持ちは比較的気薄で、グローバル化や株主還元などの(メディアが喜ぶ)言葉に踊らされる傾向にある。戦後の創業者が、一致して大切にした『利他主義(他人の利益のために活動する)』を現代経営者はどこかに置き忘れている。

『利益至上主義。儲かることに徹する』が優れた経営者と誤認し、日本企業の伝統の『利他』がいつの間にか反対の『利己主義』に陥ってしまった。昨年、大企業を連続で襲った不祥事の数々は、大企業経営者の利己主義が招いた結果といって過言ではない。

日本製造業のアキレス腱は、大手製造業の『第3世代経営者』にある。何千人、何万人あるいは何十万人から選出された第3世代の経営者が優秀であることは疑う余地はない。この優秀な経営者が、その優秀な能力を誰のためにどうやって使うかが試金石である。

どんなに優秀な人でも謙虚に物事を学び続けなければ、優秀性を維持することはできないことは誰でも知っているが、日本大企業の経営者はどうなのか? 私の知るアジアや米国の大企業経営者は、社員の倍も働き、誰よりも好奇心を持って学ぶ。寸暇を惜しんで大学に通い、シンポジウムに参加し、最新情報を貪欲に学ぶ。

日本製造現場の『レベルの高さ』は自他ともに認める事実であるが、残念なことに『日本人経営者のレベルの高さ』を指摘する声は全く聞こえてこない。その理由に、社員と一緒に休日を取りまくる経営者が数多く存在し、「IoTやインダストリー4.0は、自分には分からないので部下に任せている」などと語る日本大手製造業の経営者も事実存在する。これで本当に海外に勝てるのだろうか?
 
賀詞交歓会の形骸化が大きな警鐘を鳴らしている。この対策には、日本中の全ての経営者が、日本人のアイデンティティーを意識し、日本式経営の素晴らしさを学び、再確認することに尽きる。

『利己主義』から脱皮し、真の『利他主義』を実践することが、日本製造業の急務な課題である。グローバル化を推進している企業は、例外なく利己主義な企業である。グローバル化と国際化は全く違う。

国境を持たない『グローバル化』と違い、日本に錨をおろし、世界に羽ばたくことを『国際化』という。利他主義を社是とし、国際化を実行する大企業経営者の台頭を望む。








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著者 高木俊郎

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