2018/12/26 外国人労働者は中小製造業の救世主か?・ーー 『米中貿易戦争の激震と第4次産業革命』 ーー
以下は 2018年12月19日のオートメーション新聞 第168号に掲載された寄稿記事です)

外国人労働者は中小製造業の救世主か?

ーー 『米中貿易戦争の激震と第4次産業革命』 ーー

長きに渡り大規模な移民を拒んできた日本が大きく変化している。外国人労働者の受け入れ拡大に向けた「改正出入国管理法」の可決により、今後5年間で30万人以上の外国人単純労働者を受け入れ、労働者不足の解消に役立てる計画であるが、この賛否で世論が二分している。

インダストリー4.0/IoTなど徹底推進する中小製造業でも、イノベーションか? 外国人労働者か? または、その両方か? といった疑問や議論が沸騰している。

世界に目を転ずれば、移民排除は時の流れである。移民制限にかじを切る欧米諸国に対し、周回遅れで移民を増やそうとする日本の法案には、欧米のメディアでさえ強い違和感を覚えている模様である。

日本国内の世論も、治安の悪化や日本文化の崩壊など、移民政策への漠然とした懸念は根強く、不安の声が湧き上がっている一方で、これまで移民に否定的であった日本人の意識にも変化が生じており、外国人労働者受け入れに肯定的となっている国民が増えているのも事実である。

しかし、残念なことに移民施策の反対派にも『反対するために反対する』といった政権に対する根拠のない反対があったり、また賛成派にも『安い労働力が欲しい』といった目先だけの戦略なき賛成があったりする。『日本の労働者不足の解消』を大義に掲げる移民政策は、本当に日本の救世主なのか? 今回は、この点を徹底的に掘り下げていきたい。

この検証を進めるに際し、最も留意すべき点は『川を上り、海を渡る』といった視点である。つまり、連綿とつながる歴史を検証し、海外の視点に立った掘り下げを行うことである。今日、随所で湧き上がる移民施策に対する議論の大半は、残念ながら日本の観点だけを論じる『鎖国状態』となっている。

現在90万を超える外国人労働者は、主としてアジア各国に供給国があり、安い賃金で豊富な労働力を有する国が存在するのも事実である。日本人の多くは、日本が門戸を開けば「いくらでも安い労働力が入ってくるし、優秀なアジア人を教育し、日本人並みの給与を払えば、日本人と同様に日本でいつまでも仕事をする」といった『日本強国意識』を前提に考えている場合が多い。

確かに、現在の日本はアジア諸国と比較し、技術的にも経済的にも優位に立ち、相応の温度差を持っているが、5年先10年先、そしてそのずーっと先まで日本はアジアの優等国でいられるのか? 労働者の流通は、需要と供給のバランスが基本である。需要側の日本がいくら望んでも、供給側の事情が変化し、日本に働きに来る外国人がいなくなる事も十分あり得る。

今アジアは激動の渦に巻かれており、アジアの視点で日本の移民施策を考える必要がある。私が真の友好関係を持つ『アジアの製造業経営者』は、日本の移民施策に大きな違和感を持っており、日本が移民に頼って労働者不足を解消しようとする施策を「愚策である」と断じている。

アジア経営者が愚策と断じる理由の最大ポイントは、アジア各国の急速な人件費高騰と労働需要の増大であり、「近い将来、日本の製造業に出稼ぎに行く良質な労働者はいなくなるだろう」と語っている。この背景には、米中貿易戦争の強烈な影響がその流れを加速している。

日本ではあまり報道されないが、米中貿易戦争のあおりで中国製造業界は大激震の渦中にある。中国製造業界は徹底的なアジアシフトを遂行中であり、タイの製造業は中国からの新規競合対応に神経をとがらせる一方で、中国はローテク製造をベトナムの地場産業に委託し始めており、ベトナムでは『風が吹けば桶やが儲かる』的に米中貿易戦争の影響によって大好況が訪れようとしている。

アジアにいれば、中国製造業のアジアシフトの勢いとその影響を肌感覚で感じる事ができるが、日本国内からは全体像が見えず、特定の景色だけが強調されてしまう事が多い。

中国の影響を受け激変するベトナムも、日本から見るといつまでも低賃金で有能な労働者が存在する『遅れた国』と見えてしまう。特に最近になって、ベトナムは日本への労働者供給国として非常に期待され、ベトナム研修生を採用する地方の中小製造業が激増しており、勤務態度も良好ですこぶる評判が良い。

非常に真面目に働くベトナム人に満足し、『ベトナム人積極採用』を経営の柱に据え、採用面接のために定期的にベトナムに出掛ける経営者も少なくない。ベトナム側でも、日本語学校が人気で、日本企業が一種のブランド化している。この視点だけ見れば、日本とベトナムの間に、非常に良好な需要供給関係が成り立っている様に見えるが、これが未来永劫に渡って続くことは考えづらい。

米中戦争の渦中にある中国製造業では、徹底的なIoT化にかじを切りインダストリー4.0中国版の構築に全力を挙げている。中国にとって「中国製造2025」は、まさに覇権国家構築の最大武器であり、人工知能などを駆使した最先端産業でのものづくり構築は、戦いの要(かなめ)でもある。

米中経済戦争は、単なる貿易競争ではない。米中の覇権争いの戦いであり、これから長きに渡り、第4次産業革命がもたらすイノベーション競争が米中で繰り広げられるだろう。

日本の中小製造業においても、このイノベーションに乗り遅れたら生き残れない。幸いにして、人工知能やソフトロボット(RPA)が、中小製造業の救世主として明確にその姿を現してきている。

『川を上れ、海を渡れ』に従って、歴史に学べば、製造業の発展拡大がイノベーションの恩恵によって発展してきたことは明白である。これからの中小製造業も、イノベーション戦略以外あり得ず、移民依存では成功できない事を歴史が証明している。

今、低賃金の外国人労働力に依存する中小製造業が日本の各地に存在しているが、労働集約的なその業態を変更しない限り、未来に生き残る事は相当難しいと言わざるを得ない。








記事肖像画縦
著者 高木俊郎

08:39 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2018/12/22 中小製造業経営者と巡るインド・タイの旅 『百聞は一見にしかず』
以下は 2018年11月28日のオートメーション新聞 第165号に掲載された寄稿記事です)

中小製造業経営者と巡るインド・タイの旅

ーー 『百聞は一見にしかず』 ーー

私の会社(アルファTKG)では、例年の恒例行事として海外交流視察旅行を実施している。今年度は、インド・タイの2カ国4都市を訪問し、躍進的な地元企業との交流やインドの主要大学との人的交流を実施した。

今回の寄稿は視察記として、参加した経営者の気付きや戦略を紹介する。参加した方々は、年間売上高10億円〜50億円の中堅・中小製造業の経営者であり、精密板金や配線資材を製造するものづくり企業のTOP陣である。

参加した企業の業績は急成長を遂げており、業界のリーディングカンパニーであるが、その名に相応しい『VIP』な交流視察となった。『VIP』と表現したのは、今回の旅で訪問した4都市4カ所で交流した相手方も、すべてが現地のリーディングカンパニーであり、我々はこの旅を『トップ・オブ・ザ・ピラミッド』と呼んだ。

タイで1000人の精密板金企業、インドの巨大な紡績工場、インドの国防産業やクリーンルームを製造する躍進企業など、大企業顔負けの大設備工場を訪問したが、これらの企業の特徴は、完全オーナー経営の現地企業であり、短期間で急成長している企業である。

ゼロからオーナーが始めた企業であり歴史も短いが、大きな利益率を出し、日本の中小製造業を圧倒する設備力と技術力を持っている。完全な現地資本の独立企業であり、日本はじめ海外からの技術指導も受けることなく、高いエンジニアリング力や強い成長性を有している。

その理由は、世界中から有効情報を収集する情報収集能力の高さである。英語を自由に操り、オーナーの子弟はイギリスやアメリカの著名大学を卒業し、欧米に強いパイプも築いている。

日本では、中小製造業が優れたものづくり遺伝子を持つ半面で、グローバルな情報収集力に欠けるのが大きな弱点となっている。

日本の大手製造業のベテラン技術者ですら、グローバル視点での情報は薄く、アナログ的な『日本式ものづくり』をアジアの労働者に強要するケースも散見されるが、現地企業が『日本式ものづくり』を受け入れる事は相当難しい。

日本発祥の「5S」はどこの企業でも導入しているが、インダストリー4.0はドイツに学び、自動化技術もドイツ、最近では中国の自動化技術も導入。機械もドイツ・アメリカ・日本・中国・現地製などを比較検討して導入する。

そして工場運営や業務フローも欧米式が一般的である。アジアの中小製造業は、世界中の情報を糧に、グローバル基準のものづくりを徹底推進している。

事実、驚くことに(日本の中小製造業では考えられない)自動化やIoT化が進んでおり、日本人が一般的に抱く『低賃金の人海戦術』イメージとはずいぶんかけ離れた実態が存在する。何十台のプレス機に中国製のロボットが稼働しているのが、アジアの中小製造業である。

インド紡績工場の視察では、誰もが想像する『人海戦術』の姿はなく、何百台の紡績機が全自動運転している姿は圧巻であった。IoT化や自動化が日本より進んでいる事実を見たときの参加者の衝撃は半端ではない。

日本の中小製造業は残念ながらグローバル化からは大幅に遅れ『情報の鎖国』となっている事を認識し、大きな警鐘を鳴らす必要があるだろう。

日本政府によって、移民推進が叫ばれているが、『人手不足を移民に頼ろう』とする考えが、いかに甘く愚策であるかは『百聞は一見にしかず』である。

『安い労働力を求めてアジアに行こう』とか『日本の技術をアジアに教育移転しよう』と思うのは、時代錯誤であり、上から目線であると言わざるを得ない。『百聞は意見にしかず』、アジアパワーは見なければ分からない。

しかし、『見て分かった』だけで、次に戦略や行動が出なければ、肝心の結果は得られない。今回のツアーでは、次の戦略を具体的に踏み出した中小製造業の事例を紹介したい。

GoogleCEOを輩出した超名門、インド工科大学(IIT)は世界的に極めて有名な大学であるが、今回のツアーで我々は、インド工科大学を訪問し、参加した群馬県の板金製造業O社が、インド工科大学と共同研究開発の覚書(MoU)を締結した。この締結には大学が大きな興味を示し、学長参加のイベントが行われ、地元新聞12紙がこの覚書締結を報道した。
  
また、千葉県の参加企業H社もインドマドライのティアガラージ技術大学(TCE)と覚書を締結し、学内に共同研究所が設立された。この覚書締結は、日本の同業他社に先駆けた試みであり、中小製造業にとっての羅針盤となり、大きなブレークスルーとなるだろう。

大学の学長も教授もそして学生も、日本の中小製造業と直接締結した覚書に大きな期待を持っている。インドの一流大学の目線からも、日本の中小製造業のものづくりノウハウには、大きな尊敬を抱いており、ノウハウを伝承する人工知能やロボット研究開発は、大学にとっても非常に意義ある開発テーマである。

学生たちも、インターシップを通じて契約企業のO社やH社に自由に学びに行くことができ、就職することも容易になる。

群馬県のO社は、これら学生人材の受け皿として、インド・チェンナイに子会社を設立した。「優秀なインドの学生を受け入れ、日本の製造拠点と融合しながら、高度なエンジニアリング会社に育てることが目的である」とO社の社長は語っている。

当社の海外交流視察を通じ、日本の中小製造業の国際化とIoTの新たな戦略が動き始めた。








記事肖像画縦
著者 高木俊郎

10:00 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2018/12/15 『社長のロボット秘書』で利益率30%向上・製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ⑤
以下は 2018年10月31日のオートメーション新聞 第162号に掲載された寄稿記事です)

『社長のロボット秘書』で利益率30%向上

ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ⑤ ーー

秋の展示会シーズンを迎え、出展している多くの会社で熱の入った「IoT」提案が行われている。

第4次産業革命の大きなうねりと時代の変化を感じるのは私だけではないはずである。2012-13年頃より、ドイツが提唱した「現代の黒船、インダストリー4.0」は、世界中の製造業に大きな衝撃を与え、人々が「第4次産業革命」の重要性を認識するキッカケとなったが、インダストリー4.0は、残念ながら中小製造業にはなかなか馴染なかった。

私の主要顧客である板金製造業でも、インダストリー4.0の導入事例はあまり聞こえてこない。その理由は、板金製造業の経営者がインダストリー4.0の思想やシステムを理解しても、板金工場には様々な工夫とノウハウが溢れており、現状運用中の「業務システム」を有効的に活用する事ができない限り導入は難しい…といった現実の壁が大きな原因となっている。

インダストリー4.0は、大手中心に構想されており、現状システムの破壊も辞さない論理から『トップダウンIoT』と呼ばれている。本場ドイツでは、依然インダストリー4.0の熱意は高く、トップダウンIoTの思想を固守しながら、ドイツ自動車業界を中心に「その実践が進んでいる」と聞くが、ドイツ中小企業には反発の声も多く、板金製造業界でも、なかなか普及できない状況にある。

かと言って、インダストリー4.0/第4次産業革命の潮流が頓挫しているわけではない。かねてより、大手企業・政府関係者・評論家やメディアなどが揃って「インダストリー4.0の衝撃」を唱え、日本の製造業デジタル化の遅れに警鐘を鳴らしてきた事は正論である。

最近では、アメリカ発の「IoT」というバズワードが、世間の一般用語となり、中小製造業において「IoTを取り入れないとヤバイんじゃないか?」といった思いを持つ経営者が急増している。

板金製造業界でもIoTへの眼差しは年々強烈となっており、IoTを経営戦略の一貫に据える経営者は業界全体の半数を超えている。

インダストリー4.0からIoTへと、言葉の主役は変わっても第4次産業革命のうねりは激しさを増しており、最近の見本市や展示会からもそのエネルギーを感じ取ることができるが、中小製造業がIoT導入の目的と経営的メリットを見極めるのはなかなか容易ではない。

IoTの解説書には「見える化」や「つながる工場」といったコンセプトが頻繁に出てくるが、これは手段であって目的でもなく経営目標でもない。多くの機械メーカやNCメーカが、IoTを謳(うた)い「機械稼働の見える化」を提案しているが、中小製造業経営者にはあまりピントこないようである。「コンセプト」や「新技術」にプレゼン熱が入っていても、導入目的についての説明はなく、費用対効果の経営メリットも見えない。

今回は「IoT導入目的と経営メリット」に焦点を絞り、板金製造業界における成功事例を紹介していきたい。IoTでの成功した企業は、例外なく「導入目的」が明確である。

当社では、「alfaDOCK」と称する『情報5S化ロボット』を搭載したクラウド型の最新式IoTシステムを板金製造業界向けに提供し好評を博している。このシステムの主要機能は「図面管理や工程管理」であるが、大成功した企業には共通点がある。

この共通点とは、社長ご自身の課題解決を第一目的とし、導入するIoTシステムを「社長の秘書役」と定め、導入に踏み切っている。また、導入に際し(今日まで育んできた)現状の業務フローを破壊せず、現場社員を味方にした『ボトムアップIoT』の実施が成功の秘訣となっている。

板金製造業では、社長や工場長・エンジニアなど経営幹部にかかっている負担が想像を超えるほど大きく、業容維持拡大の大きな障害となっている。彼らが優秀な秘書を手にすることで多くの課題が解決し、結果として経常利益率が30%向上することが実証されている。

「社長の秘書」として機能するalfaDOCKは、極めて優秀な秘書で、山のような仕事をこなす。膨大な見積作業や発注元への納期回答、図面を探したり、必要な情報を瞬時に取り出す。社長が出張する際にも秘書が常に同行している。

この優秀な秘書は、工場に存在するバラバラな情報を自動的に収集し、必要な時に必要な情報を瞬時に取り出す事を難なくこなす。『社長のロボット秘書』と命名された第4次産業革命の賜物である。

『社長のロボット秘書』は、社長にとどまらず、工場長の秘書として、そしてベテラン技術者の相棒として大活躍する。ワークを写真撮影すれば図面を出してくれる。工程の遅れや在庫量を教えてくれる『社長のロボット秘書』は、多忙に悩む板金製造業の人材の要(かなめ)となり、結果として高度な図面管理や工程管理を実現している。

これは決して夢物語ではない。すでに多くの企業が成功の道を歩んでいる。これを実現するのに膨大な投資はいらない。数百年前の水蒸気や電気を生んだ産業革命は、そのメリットを享受したのは大資本に支えられた大企業のみであった。

第4次産業革命は、少額投資の夢ツールである。『社長のロボット秘書』も、人工知能やクラウドなどIoT最先端技術の塊だが、手軽に手に入れられる。先行導入した企業の勝ちとなるだろう。

『社長のロボット秘書』は、多忙すぎる社長の仕事を救済し、中小製造業再起動による大幅利益向上を実現する「次世代ものづくり」の第一歩である。








記事肖像画縦
著者 高木俊郎

14:38 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
製造業再起動ブログ


Designed by ぽんだ
Powered by FC2ブログ



Copyright © アルファTKG公式ブログ(著者:高木俊郎) All Rights Reserved.