2018/09/27 中小製造業のIoT成功シナリオ・製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ④
以下は 2018年9月26日のオートメーション新聞 第159号に掲載された寄稿記事です)

中小製造業のIoT成功シナリオ

ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ④ ーー

『中小製造業のIoT成功シナリオ』連続シリーズとして、中小製造業でのIoT成功事例を基に、IoT実践のシナリオを連載している。

1回目はシートメタル業界でのIoTの実態と『情報の5S化』の観点から『ボトムアップIoT』の必要性を紹介し、2回目では、ドイツと日本の国民性における製造業の違いを浮き彫りにしながら、ドイツの『トップダウンIoT』と日本の『ボトムアップIoT』の違いを論じ、シリーズ第3回目では、日本の中小製造業における「IoTの成功事例」を紹介し、『ボトムアップIoT』の有効性を検証してきた。

ボトムアップIoTは、中小製造業にとって新しい「ものづくり」を創造する『必需品』であり、『ボトムアップIoTを実践した企業のみが勝ち残る!』と言っても過言ではない。

シリーズ4回目となった今回は、日本の中小製造業が『ボトムアップIoTを必要とする理由』を検証し、具体的実践に参考となる新技術(イノベーション)に触れていきたい。

日本がものづくり王国として世界に君臨してきたことは、歴史的な事実であり、また日本製造業を取り巻く環境は、新興国の台頭により、多くの課題を抱えているのもまた事実である。

日本のものづくり『現場力』は、自他ともに認める強さである。強い現場力による、優れたQCDは日本のものづくりを支える力である。強い現場力とは、職人の技であり職人のモラルや精神論である。

諸外国と比較し、日本が圧倒的に優れる「現場力」は、日本人が認識する以上にアジア各国からの宿望の的となってきた。

1990年代より台頭した中国・アジアの製造業は、日本のものづくりをお手本に「日本に追いつけ追い越せ」を合言葉に脇目も振らず積極的な投資戦略を行い、日本の優れたものづくりを学び、日本のものづくりを導入しようと、日本企業への積極的なアプローチを行った。

折しも日本では、バブル経済崩壊により、多くの企業が「海外シフトが、生き残り戦略だ」との声が企業経営陣に充満し、大手製造業は揃って「海外製造拠点」を経営方針に定め、多くの経験豊かな技術者・技能者が海外に派遣されていった。

中国はじめアジア諸国に(虎の子の)ノウハウを惜しみなく提供した「愚行」の始まである。熱病にかかったような「大手製造業のグローバル化戦略」の結果はどうであったか?家電メーカの衰退事例を筆頭に多くの企業が中国や韓国企業に破れ、日本製造業の大きな課題となっていることは、周知の通りである。これらの貴重な経験は、中小製造業の『ボトムアップIoT』の必要性を物語っている。

現場力=製造ノウハウを「貴重な財産的価値」と認識し、(海外流失ではなく)社内に留保し、未来の武器に変えることが生き残りの絶対条件である。特に中小製造業においては、これらの実現こそが「最優先される経営課題」であるが、幸いにして、これを実現する「最先端技術」が身近に活用できる時代がやってきた。

暗黙知となっている「現場力=製造ノウハウ」をデータとしての形式知に変えるIoT技術。この代表例が、RPA(ソフトロボット)や人工知能、そしてクラウド技術である。これらの技術は、世界中の製造業が注目する最先端技術であり、中国・アジアの製造業でも積極的に活用されている。

タイ・バンコクにあるJ社は、従業員1000人を擁するアジア最大の精密板金企業である。日本にも社歴の長い2万社を超える精密板金企業が存在しているが、J社は精密板金を手がけ15年弱の期間で現在の規模まで発展した。

たった15年で、日本の老舗企業2万社を抜き去り、売上高・設備力ともにアジア名実No1に躍り出たのは脅威であり、日本のものづくりを再考させる事例である。J社の発展秘訣は、徹底的な自動化とIoT化である。

世界中から最先端マシンと自動機器を導入し、徹底的な自動化運転を実現している。IoTの実践では世界の最先端を貫いており、PLM/ERPとインテグレーションされた最先端クラウドシステムは、圧巻である。

RPAや人工知能が活躍し、200台を超える現場クラウド端末により、製造現場はペーパーレスと見える化が徹底し、完璧というべきスマート工場を実現している。主力取引先エアバス社はじめ欧米企業からも、「J社は、真のインダストリー4.0実現工場だ!」と驚愕や称賛の声がきかれ、日本企業からの受注も増加し、国際企業として大きく発展している。

順風満帆のJ社であるが、J社経営陣は自社の最大弱点として「現場力」をあげている。「日本の中小製造業」には、J社経営陣がうらやむ現場力があり、J社を超える潜在的な発展性に疑いの余地はなく、大きなチャンスがあると明言できる。

日本列島津々浦々に存在する中小製造業の現場力は、江戸の時代から数百年以上に渡る歴史に育まれた先人からの贈り物である。日本のものづくりは、歴史的に顧客の要求に応える「職人の技」に支えられてきた稀有な国である。

大量生産のQCDでは「顧客起点のQCD」は忘れ去られてしまったが、インダストリー4.0/IoTのめざす世界は明らかに『顧客起点のQCD』であり、日本の歴史的なものづくりの具現化である。しかし、優れた職人による現場力は、職人の老齢化とともに消えてしまうので、職人依存の現場力では未来の創造はできない。

ところが幸いなことに、最近台頭したRPA(ソフトロボット)や人工知能、そしてクラウド技術の活用でデジタルデータに変換でき、価格的にも中小製造業が活用することが可能となった。

中小製造業がこれらの技術を活用することで、現場力を強化した「組織的かつ自動化」で未来につながる「デジタル的なものづくり」が可能となり、アジアのJ社に対抗する日本式インダストリー4.0が実現する。それこそが『ボトムアップIoT』の真髄である。








記事肖像画縦
著者 高木俊郎

10:39 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2018/09/03 中小製造業のIoT成功シナリオ検証・製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ③
以下は 2018年8月22日のオートメーション新聞 第155号に掲載された寄稿記事です)

中小製造業のIoT成功シナリオ検証

ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ③ ーー

『中小製造業のIoT成功シナリオ』連続シリーズとして、中小製造業でのIoT成功事例を基に、 IoT実践のシナリオを連載している。

1回目はシートメタル業界でのIoTの実態と『情報の5S化』の観点から『ボトムアップIoT』の必要性を紹介し、2回目では、ドイツと日本の国民性における製造業の違いを浮き彫りにしながら、ドイツの『トップダウンIoT』と日本の『ボトムアップIoT』の違いを論じてきた。

シリーズ第3回目の今回は、日本の中小製造業における「IoTの成功事例」を紹介し、『ボトムアップIoT』の有効性を検証する。

筆者の会社(アルファTKG)では、数多くの中小製造業のIoT構築のお手伝いをしてきたが、ボトムアップの考え方を実践した企業が、IoTの成功事例となっている。『ボトムアップIoT』と言う言葉は、辞書を引いても出てこない。

『ボトムアップIoT』とは、製造現場の熟練工ノウハウや製造現場の実態(設備や業務フローなど)を大切にして、拡張型で段階的にIoT(デジタル化)を実現していくやり方の造語である。

『トップダウンIoT』では、デジタル一辺倒で、理想的な「デジタルものづくり」を進めようとする哲学が根底にあり、製造現場のノウハウなど過去の育んできたアナログ要素(熟練工のノウハウや独自の業務フローなど)が無視される傾向がある。

日本の製造業において、IoTへの関心はあるものの、なかなか満足が得られるシステムに巡り合う事ができず、実践を躊躇している経営者も多いのは、トップダウンが潜在的に馴染めないからである。

『トップダウンIoT』の本質を知れば、アナログのノウハウを持たないアメリカや中国・韓国などが『トップダウンIoT』を推進し、強い製造業を創造しようとする戦略は容易に理解できる。

しかし、我が国だけはずいぶん事情が違う。日本はものづくりノウハウに満ち溢れた国である。日本だけが世界中で唯一『トップダウンIoT』の馴染まない国と言って過言ではない。

本来ドイツも日本と同じではないか?と考えがちであるが、インダストリー4.0の旗印のもと『トップダウンIoT』を推進するドイツ事情と日本との違いは、前回のシリーズ②で寄稿したとおりである。

日本は依然として世界をリードする「ものづくり大国」である。その源泉力は、育まれた「アナログノウハウ」と「デジタル化された設備力」である。日本のものづくりは、大企業・中小企業にかかわらず、日本列島津々浦々、「独自のアナログ的ノウハウ」で差別化され、歴史の結晶としてものづくりを完成させた唯一の国である。

従業員のモラル・設備力・集積度のどれをとっても日本に秀でる国を探す事はできない。また日本のものづくりは、中小製造業に至るまで、コンピュータ活用による独自の業務フローの確立(生産管理・工程管理など)や自動化・ロボット化も非常に進んでいる国である。

このように、アナログ・デジタルの両側面で、重要な現有資産を持つ日本の製造工場がIoT化を図るには、現有資産を大切にしたアプローチが必須であり、『ボトムアップIoT』こそ成功の要因であることに疑いの余地はない。

では、具体的に『ボトムアップIoT』を成功させている企業の実例を紹介していきたい。

ここで紹介する成功事例は、決して「手段としてのIoT」の事例ではない。「製造工場の担当者がセンサーを使って簡単にIoTを実現した」「スマホをうまく製造現場で使ってIoTに成功した」など、IoTのお手軽実践の素晴らしい事例紹介を散見するが、『ボトムアップIoT』の成功事例は、第4次産業革命のイノベーション(クラウド・人工知能・RPAなど)を本格的に活用した、経営そのもののイノベーション/ 経営革命の事例紹介である。

IoTによる「見える化」や「ペーパレス化」などが、目的として論じられる事が多いが、これはあくまで手段であり、目的ではない。

千葉県の精密版企業を営むH社は、『ボトムアップIoT』の成功事例企業である。H社はIoT導入後、3年間で売上が30%以上アップし年商10億円を突破したが、従業員数は40名をキープし、利益率が数倍に拡大した。

その秘訣は、現有資産をそのまま活用し、工場内に点在するあらゆる情報をクラウド化。個人情報を社有化する仕組みの構築から始めた事である。

IoTシステムにより、この数年で、熟練工ノウハウや検査票、図面や見積書などに始り、各担当者の残業実績などデジタル化された蓄積データが増え、人工知能などでの情報解析が進んだ結果、情報を探す時間に圧倒的な変化が生まれ、段取り時間の大幅削減や、経営スピードが上昇した。

結果として「見える化・ペーパレス化」が自然に実現し、究極のスマート工場が誕生した。

福島県のA社は、IoT導入以降、年間売上が50億円を突破し、海外進出を視野に入れた拡大計画を遂行中である。その入口は、現有資産をそのまま活用し、図面情報の3次元化とクラウド管理である。

今までできなかったBOM(部品表)や工程表の一元管理が実現し、クラウドPDMを構築した。これにより親会社の短納期設計に寄与し、リピート加工では全てのノウハウが見えるので、「リピート2度作り」が撲滅し、見える化により、会社の仕組みがガラッと変わり、売上と収益が急上昇した。

紙面の関係で、成功事例の続編は次回とするが、この成功事例のように、アナログが差別化エンジン。デジタルが成長エンジン。両翼エンジンで発展する日本のものづくりの姿が「ボトムアップIoT」であり、真の日本式インダストリー4.0である。








記事肖像画縦
著者 高木俊郎

18:36 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
製造業再起動ブログ


Designed by ぽんだ
Powered by FC2ブログ



Copyright © アルファTKG公式ブログ(著者:高木俊郎) All Rights Reserved.