2018/08/27 中小製造業のIoT成功シナリオ検証・製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ②
以下は 2018年7月25日のオートメーション新聞 第153号に掲載された寄稿記事です)
中小製造業のIoT成功シナリオ検証
ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ② ーー
第4次産業革命による産業構造変化は、日本の製造業に大きな潮流の変化を及ぼしている。好むと好まざるとにかかわらず、中小製造業にも津波のようにIoTの波が押し寄せている。
経営者や幹部社員が、この潮流に耳をふさぎ目を閉じては『茹でカエル』。知らぬ間に企業が衰退するのは避けられない。
『中小製造業のIoT成功シナリオ』連続シリーズとして、中小製造業でのIoT成功事例を基に、IoT実践のシナリオを連載しているが、今回はその第2回目「ボトムアップIoT」の意義を紹介する。
インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0解説や日本製造業への警鐘・日本の周回遅れの現実などが論じられ、中小製造企業においてもその必要性を認識する経営者が増え、具体的な導入検討も活発になってきたが、なかなか満足が得られるシステムに巡り合う事ができず悩んでいる経営者も多い。
この原因を紐解くには、インダストリー4.0を提唱したドイツと日本との国民的哲学の違いを論じなければならない。哲学と言っては大げさに聞こえるが、ドイツ人と日本人の考え方の違いを知ることが、意外にも『中小製造業IoT成功事例』の本質を知るカギとる。
かつてより世間では、ドイツ人と日本人は勤勉な国民であり、「ドイツと日本は、非常によく似た国民性を持っている」と言われることが多かった。
今日でも、多くの日本人は『ドイツのものづくり』を尊敬し、マイスター制度などを日本の職人と同一視し(相当の勘違いである)、国民性が几帳面で日本人に通じるので、ドイツ人は『日本人と一緒だ!』といった評価感(これも相当の勘違い)を持っている。
ドイツに長く住んで、ドイツ人やドイツ製造業と長く親交をもつ日本人なら、例外なく「ドイツ人は日本人とは違う」と答えるであろう。ドイツも日本と同様に『ものづくり大国』であり、ものづくりの遺伝子を持つ優秀な国民であることに疑いの余地はない。
しかし、意外にもドイツ人の正体は『日本人とは違う価値観と哲学を持つ国民』なのである。ものづくり観点においても、ドイツと日本は全く違うので、ドイツ人が提唱する「インダストリー4.0」の論理をそのまま日本の中小製造業に持ち込んでも、定着するには無理がある。
しかし、残念なことに、日本にある数多くの製造業向けのIoTシステムの大半は、ドイツ思想の基で設計されている。特に生産管理システムはドイツ発祥の代表作であり、日本の中小製造業に汎用生産管理パッケージが馴染まないのも当然である。
では、ドイツと日本は、なにが違うのか? そのキーワードは、『トップダウンIoT』と『ボトムアップIoT』の違いである。
ドイツは、明らかに『トップダウンIoT』思想で成り立っている。『トップダウンIoT』とは、未来に向かう理想的なシステム構想を(机上で)練り上げ、それに従った新たなシステムを(新技術で)ゼロから構築し、各企業に導入しようとする考え方であり、極めて長期視点に立った戦略的な考え方である。
ドイツのインダストリー4.0の根底には、新システム導入の際には、製造現場の現状は考慮せず『製造現場は新システムを受け入れる』という思想がある。製造現場の現状破壊を容認する破壊的イノベーションが『トップダウンIoT』である。
インダストリー4.0では、顧客要求を錦の御旗として『一個生産体制』を標榜している。
この実現のために、企業の独自色や差別化技術を無視し『つながる工場』として、全体最適を徹底追求する戦略的かつ合理的なドイツ哲学が『トップダウンIoT』の真髄である。
我々日本人が『トップダウンIoT』を受け入れるのは容易ではない。この考えは、町工場の個々のノウハウと差別化を無視したものであり、裾野の町工場には金太郎飴経営が強いられる。我々日本人にとっては、江戸時代から脈々と続く『日本のものづくり』を否定する哲学である。
日本のものづくりは歴史的に、常に顧客の要望に応える『マーケットイン』であった。ものづくりの職人は、顧客の近くで常に顧客に寄り添い、顧客満足追求しつつ、独自技術を育んできたのである。日本の製造現場・職人気質は、常に顧客とともに発展してきた。
日本の中小製造業には、歴史的に続く職人気質が脈々と生き永らえており、これが日本のものづくりの魂(たましい)でもある。
少子高齢化で『職人ノウハウに依存したものづくり』が変革の時期を迎えており、この対応を誤れば『茹でカエル』は必須であり、デジタル化・IoT化は企業の生き残り条件にもなってくる。この実現には、製造現場の『ものづくりノウハウ』の継承も重要である。
ドイツに習って製造現場を破壊するイノベーションを推進しても、日本での成功は難しい。インダストリー4.0をいくら勉強しても、日本で通用しないのは、哲学が違うからである。
製造現場のノウハウや仕事の流れ(業務フロー)を壊すことなく、既に設備した機械やシステムを最大活用し、IoTにより飛躍的発展する事を『ボトムアップIoT』と呼ぶ。
日本の中小製造業のIoT成功事例は、例外なく『ボトムアップIoT』を実証している。『ボトムアップIoT』を推進するIT企業は稀であるが,当社アルファTKGは『ボトムアップIoT』をポリシーとして中小製造業のIoTに貢献していく所存である。

著者 高木俊郎
中小製造業のIoT成功シナリオ検証
ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ② ーー
第4次産業革命による産業構造変化は、日本の製造業に大きな潮流の変化を及ぼしている。好むと好まざるとにかかわらず、中小製造業にも津波のようにIoTの波が押し寄せている。
経営者や幹部社員が、この潮流に耳をふさぎ目を閉じては『茹でカエル』。知らぬ間に企業が衰退するのは避けられない。
『中小製造業のIoT成功シナリオ』連続シリーズとして、中小製造業でのIoT成功事例を基に、IoT実践のシナリオを連載しているが、今回はその第2回目「ボトムアップIoT」の意義を紹介する。
インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0解説や日本製造業への警鐘・日本の周回遅れの現実などが論じられ、中小製造企業においてもその必要性を認識する経営者が増え、具体的な導入検討も活発になってきたが、なかなか満足が得られるシステムに巡り合う事ができず悩んでいる経営者も多い。
この原因を紐解くには、インダストリー4.0を提唱したドイツと日本との国民的哲学の違いを論じなければならない。哲学と言っては大げさに聞こえるが、ドイツ人と日本人の考え方の違いを知ることが、意外にも『中小製造業IoT成功事例』の本質を知るカギとる。
かつてより世間では、ドイツ人と日本人は勤勉な国民であり、「ドイツと日本は、非常によく似た国民性を持っている」と言われることが多かった。
今日でも、多くの日本人は『ドイツのものづくり』を尊敬し、マイスター制度などを日本の職人と同一視し(相当の勘違いである)、国民性が几帳面で日本人に通じるので、ドイツ人は『日本人と一緒だ!』といった評価感(これも相当の勘違い)を持っている。
ドイツに長く住んで、ドイツ人やドイツ製造業と長く親交をもつ日本人なら、例外なく「ドイツ人は日本人とは違う」と答えるであろう。ドイツも日本と同様に『ものづくり大国』であり、ものづくりの遺伝子を持つ優秀な国民であることに疑いの余地はない。
しかし、意外にもドイツ人の正体は『日本人とは違う価値観と哲学を持つ国民』なのである。ものづくり観点においても、ドイツと日本は全く違うので、ドイツ人が提唱する「インダストリー4.0」の論理をそのまま日本の中小製造業に持ち込んでも、定着するには無理がある。
しかし、残念なことに、日本にある数多くの製造業向けのIoTシステムの大半は、ドイツ思想の基で設計されている。特に生産管理システムはドイツ発祥の代表作であり、日本の中小製造業に汎用生産管理パッケージが馴染まないのも当然である。
では、ドイツと日本は、なにが違うのか? そのキーワードは、『トップダウンIoT』と『ボトムアップIoT』の違いである。
ドイツは、明らかに『トップダウンIoT』思想で成り立っている。『トップダウンIoT』とは、未来に向かう理想的なシステム構想を(机上で)練り上げ、それに従った新たなシステムを(新技術で)ゼロから構築し、各企業に導入しようとする考え方であり、極めて長期視点に立った戦略的な考え方である。
ドイツのインダストリー4.0の根底には、新システム導入の際には、製造現場の現状は考慮せず『製造現場は新システムを受け入れる』という思想がある。製造現場の現状破壊を容認する破壊的イノベーションが『トップダウンIoT』である。
インダストリー4.0では、顧客要求を錦の御旗として『一個生産体制』を標榜している。
この実現のために、企業の独自色や差別化技術を無視し『つながる工場』として、全体最適を徹底追求する戦略的かつ合理的なドイツ哲学が『トップダウンIoT』の真髄である。
我々日本人が『トップダウンIoT』を受け入れるのは容易ではない。この考えは、町工場の個々のノウハウと差別化を無視したものであり、裾野の町工場には金太郎飴経営が強いられる。我々日本人にとっては、江戸時代から脈々と続く『日本のものづくり』を否定する哲学である。
日本のものづくりは歴史的に、常に顧客の要望に応える『マーケットイン』であった。ものづくりの職人は、顧客の近くで常に顧客に寄り添い、顧客満足追求しつつ、独自技術を育んできたのである。日本の製造現場・職人気質は、常に顧客とともに発展してきた。
日本の中小製造業には、歴史的に続く職人気質が脈々と生き永らえており、これが日本のものづくりの魂(たましい)でもある。
少子高齢化で『職人ノウハウに依存したものづくり』が変革の時期を迎えており、この対応を誤れば『茹でカエル』は必須であり、デジタル化・IoT化は企業の生き残り条件にもなってくる。この実現には、製造現場の『ものづくりノウハウ』の継承も重要である。
ドイツに習って製造現場を破壊するイノベーションを推進しても、日本での成功は難しい。インダストリー4.0をいくら勉強しても、日本で通用しないのは、哲学が違うからである。
製造現場のノウハウや仕事の流れ(業務フロー)を壊すことなく、既に設備した機械やシステムを最大活用し、IoTにより飛躍的発展する事を『ボトムアップIoT』と呼ぶ。
日本の中小製造業のIoT成功事例は、例外なく『ボトムアップIoT』を実証している。『ボトムアップIoT』を推進するIT企業は稀であるが,当社アルファTKGは『ボトムアップIoT』をポリシーとして中小製造業のIoTに貢献していく所存である。

著者 高木俊郎
2018/08/23 中小製造業のIoT成功シナリオ検証・製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ①
以下は 2018年6月27日のオートメーション新聞 第150号に掲載された寄稿記事です)
中小製造業のIoT成功シナリオ検証
ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ① ーー
第4次産業革命による産業構造変化は、中小製造業にとっても大きな関心事である。今回より『中小製造業のIoT成功事例』を検証しながら、中小製造業におけるIoT実践のシナリオのテーマを連載する。
インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0の解説や日本のものづくりへの警鐘とデジタル化への必要性が論じられてきたが、中小製造業にとっては『絵空事』との指摘も多く、具体的な実践に踏み切れていない企業も数多く存在する。
しかし、シートメタル業界の中小企業や町工場では、積極的なデジタル革命を実践し、大きな成果を上げる企業が出てきた。
シートメタル業界とは、配電盤・航空機器・通信機器・自動販売機・医療機器など多業種に渡る製品の筐体(きょうたい)を製造する業界であり、薄板から中厚板までの鉄板を使って、鉄板に穴を開け、折り曲げて、複数の部品を組み合わせながら『外装BOX』に仕上げるのを『板金加工』もしくは『シートメタル加工』と呼んでいる。
シートメタル業界は、マイナーな業界ではあるが、日本では2万社に及ぶ製造工場が存在する。業界を支える企業群は、中小製造業が主体であり、一般的には町工場が多く、社員数名から数十名の小規模企業が中心である。
今回は、シートメタル業界のデジタル化・IoT化に焦点を当て、IoT成功企業の事例を参考に、成功シナリオを解析していきたい。
まず初めに、シートメタル業界の特徴を解説すると、最初に挙げられるのは『多品種少量生産と短納期要求の厳しさ』である。業界全体での海外シフト比率は、他と比べると圧倒的に少なく、依然として熟練工を必要とする国内拠点型の業界である。
実加工よりも内段取りや外段取りに膨大な時間が余儀なくされており、大きな改善テーマとなっており、デジタル化・IoT化への期待も大きい。また一方では、シートメタル加工は複数の工程を必要とし、工程ごとの高価な機械や設備の導入が必須なので、設備投資のための膨大な資金が必要である。
最近では設備投資のトレンドが、更に資金を必要とする『自動化指向』に大きくシフトしている。低価格小型機への需要が減少する一方で、業界では1億円を超える自動化システムが飛ぶように売れている。
レーザ加工とパンチ加工の両方が使える複合機の自動化システムは2億円を超え、かつては熟練工依存の人海戦術であったベンディング(曲げ加工)マシンもロボット化の登場で1億円を超える。これらの積極的な高額投資のトレンドを牽引しているのは、業界2万社の中のほんの5%(1000社)未満であると言われている。
年商10億円超企業は、全体の2%にも満たないが、猛烈に成長する企業群も合わせ, 約1000社(全体の5%)の企業群が積極的な機械設備投資による業容拡大競争を行っている。投資意欲が旺盛なビラミッド頂点層1000社5%と、機械投資に消極的な19000社(95%)が明確に分かれている。
しかしIoT投資の観点となると、ずいぶん景色が変わる。シートメタル業界では、年商2億円から10億円までの中間層が最も厚く、その数は8000社40%に上り、この中間層の中でも、機械投資よりもIoT投資に強い関心を示す企業があり、ピラミッド頂点層1000社に加え中間層8000社の中からも『IoT成功事例』が誕生している。
中間層がIoTを武器に発展し、ピラミット頂点層に到達した企業も誕生している。
今回は、年商2億円から10億円までの中間層とよばれる企業群での『IoT成功事例』に焦点を当て、その成功シナリオを解析してみたい。
中間層の最大の武器は『身の軽さ』である。IoT投資には、企業トップの英断と実行指導力が強く求められるが、大企業ではなかなか難しい『スピード感』を備えているのが中間層である。
IoT投資の決断はトップの意向。『やると決めたらやる!』といったTOPの強い意志が必要であり、この意志を受けて社員全員がIoT導入を受け入れる土壌が生まれる。成功シナリオの第1条件である。
成功シナリオの第2条件は、『情報の一元管理』と『情報の5S化』の実行である。IoTを成功させるためには、現在バラバラになっている各種情報やデータを一元管理し、情報を整理整頓する『情報の5S化』が必須であるが、この作業に真っ向から取り組んだ企業が成功している。中間層は、企業規模からこの取組みには極めて有利である。
成功シナリオの第3条件は、製造現場担当者の積極的参加である。現場担当者は多くの製造ノウハウを所有しており、このノウハウを破壊して中小製造業のIoTは成立しない。
しかし、世間に存在する多くのソリューションは、大企業向けの思想が主流を占めており、中小製造業が長年に渡って構築してきた仕組みやノウハウを大切に扱うシステムはほとんど存在しない。この点は、導入システム選定において、非常に注意深く検討すべき点である。
世間に存在するソリューションは、『トップダウンIoT』であり、『新しいシステムに現場は従え!』とのコンセプトが含まれている。中小製造業でのIoT成功企業は、例外なく製造現場を活かす『ボトムアップIoT』を実践した企業である。
中間層は予算規模の制限から、数千万円もする『トップダウンIoT』を導入しなかったことが、かえって成功を導く結果となっている。
IoT成功事例から浮き彫りになったことは、企業トップの力強い推進力により、製造現場を活かす『ボトムアップIoT』を実行する事である。

著者 高木俊郎
中小製造業のIoT成功シナリオ検証
ーー 製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ① ーー
第4次産業革命による産業構造変化は、中小製造業にとっても大きな関心事である。今回より『中小製造業のIoT成功事例』を検証しながら、中小製造業におけるIoT実践のシナリオのテーマを連載する。
インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0の解説や日本のものづくりへの警鐘とデジタル化への必要性が論じられてきたが、中小製造業にとっては『絵空事』との指摘も多く、具体的な実践に踏み切れていない企業も数多く存在する。
しかし、シートメタル業界の中小企業や町工場では、積極的なデジタル革命を実践し、大きな成果を上げる企業が出てきた。
シートメタル業界とは、配電盤・航空機器・通信機器・自動販売機・医療機器など多業種に渡る製品の筐体(きょうたい)を製造する業界であり、薄板から中厚板までの鉄板を使って、鉄板に穴を開け、折り曲げて、複数の部品を組み合わせながら『外装BOX』に仕上げるのを『板金加工』もしくは『シートメタル加工』と呼んでいる。
シートメタル業界は、マイナーな業界ではあるが、日本では2万社に及ぶ製造工場が存在する。業界を支える企業群は、中小製造業が主体であり、一般的には町工場が多く、社員数名から数十名の小規模企業が中心である。
今回は、シートメタル業界のデジタル化・IoT化に焦点を当て、IoT成功企業の事例を参考に、成功シナリオを解析していきたい。
まず初めに、シートメタル業界の特徴を解説すると、最初に挙げられるのは『多品種少量生産と短納期要求の厳しさ』である。業界全体での海外シフト比率は、他と比べると圧倒的に少なく、依然として熟練工を必要とする国内拠点型の業界である。
実加工よりも内段取りや外段取りに膨大な時間が余儀なくされており、大きな改善テーマとなっており、デジタル化・IoT化への期待も大きい。また一方では、シートメタル加工は複数の工程を必要とし、工程ごとの高価な機械や設備の導入が必須なので、設備投資のための膨大な資金が必要である。
最近では設備投資のトレンドが、更に資金を必要とする『自動化指向』に大きくシフトしている。低価格小型機への需要が減少する一方で、業界では1億円を超える自動化システムが飛ぶように売れている。
レーザ加工とパンチ加工の両方が使える複合機の自動化システムは2億円を超え、かつては熟練工依存の人海戦術であったベンディング(曲げ加工)マシンもロボット化の登場で1億円を超える。これらの積極的な高額投資のトレンドを牽引しているのは、業界2万社の中のほんの5%(1000社)未満であると言われている。
年商10億円超企業は、全体の2%にも満たないが、猛烈に成長する企業群も合わせ, 約1000社(全体の5%)の企業群が積極的な機械設備投資による業容拡大競争を行っている。投資意欲が旺盛なビラミッド頂点層1000社5%と、機械投資に消極的な19000社(95%)が明確に分かれている。
しかしIoT投資の観点となると、ずいぶん景色が変わる。シートメタル業界では、年商2億円から10億円までの中間層が最も厚く、その数は8000社40%に上り、この中間層の中でも、機械投資よりもIoT投資に強い関心を示す企業があり、ピラミッド頂点層1000社に加え中間層8000社の中からも『IoT成功事例』が誕生している。
中間層がIoTを武器に発展し、ピラミット頂点層に到達した企業も誕生している。
今回は、年商2億円から10億円までの中間層とよばれる企業群での『IoT成功事例』に焦点を当て、その成功シナリオを解析してみたい。
中間層の最大の武器は『身の軽さ』である。IoT投資には、企業トップの英断と実行指導力が強く求められるが、大企業ではなかなか難しい『スピード感』を備えているのが中間層である。
IoT投資の決断はトップの意向。『やると決めたらやる!』といったTOPの強い意志が必要であり、この意志を受けて社員全員がIoT導入を受け入れる土壌が生まれる。成功シナリオの第1条件である。
成功シナリオの第2条件は、『情報の一元管理』と『情報の5S化』の実行である。IoTを成功させるためには、現在バラバラになっている各種情報やデータを一元管理し、情報を整理整頓する『情報の5S化』が必須であるが、この作業に真っ向から取り組んだ企業が成功している。中間層は、企業規模からこの取組みには極めて有利である。
成功シナリオの第3条件は、製造現場担当者の積極的参加である。現場担当者は多くの製造ノウハウを所有しており、このノウハウを破壊して中小製造業のIoTは成立しない。
しかし、世間に存在する多くのソリューションは、大企業向けの思想が主流を占めており、中小製造業が長年に渡って構築してきた仕組みやノウハウを大切に扱うシステムはほとんど存在しない。この点は、導入システム選定において、非常に注意深く検討すべき点である。
世間に存在するソリューションは、『トップダウンIoT』であり、『新しいシステムに現場は従え!』とのコンセプトが含まれている。中小製造業でのIoT成功企業は、例外なく製造現場を活かす『ボトムアップIoT』を実践した企業である。
中間層は予算規模の制限から、数千万円もする『トップダウンIoT』を導入しなかったことが、かえって成功を導く結果となっている。
IoT成功事例から浮き彫りになったことは、企業トップの力強い推進力により、製造現場を活かす『ボトムアップIoT』を実行する事である。

著者 高木俊郎
2018/08/23 オレンジ世代のサラリーマン、国際社会・IoT社会の「茹でガエル」
以下は 2018年5月3日のオートメーション新聞 第147号に掲載された寄稿記事です)
オレンジ世代のサラリーマン
ーー 国際社会・IoT社会の「茹でガエル」 ーー
第4次産業革命による急激な産業構造変化が起きている。
海外、特にアジアで急速発展する中堅・中小製造業での変化を目の当たりにすると、日本の将来に強い危惧を覚えるのは筆者だけではないはずである。
日本では、40歳代−50歳代の働き盛りの人々を『オレンジ世代』と呼ぶ事がある。『オレンジ世代』の明確な定義はないが、一説によるとスマホが台頭する昔、夕方の通勤電車でオレンジ色の『夕刊フジ』を読んでいた若者の世代を総称するらしい。
今や『オレンジ世代』は、各企業の幹部社員として屋台骨を支えている年代である。『オレンジ世代の活躍が、日本の明るい未来を切り開く』と言っても過言ではない。今回は、オレンジ世代に焦点を当て、特に製造業に於ける課題と対策を論じていきたい。
先に結論から述べると、オレンジ世代は戦後日本社会が経験したことがない、重大な問題を抱えている。中国やアジア各国の製造業進出や、第4次産業革命が進行で『風雲急を告げる』状況の日本の製造業にとって、『IoT化は待ったなし』であり、オレンジ世代の強力な指導力が必須である。
しかし残念なことに、この使命に立ち向かうオレンジ世代の力強さはあまり感じない。特に大企業に働くオレンジ世代のサラリーマンは、国際社会・IoT社会を激しく生き抜くエネルギーが徐々に消滅しつつある。
半面、アジア各国の40−50代の幹部社員は非常に優秀でエネルギッシュな人材が多い。日本のオレンジ世代と比較し象徴的な違いの一つに、英語によるコミュニケーション力の違いが指摘できる。
アジアの大企業で、英語の不自由な幹部社員は殆ど見当たらない。台湾やタイなど比較的英語力の低い国でも、アジア大企業の幹部社員が欧米人と対等に会話し、エネルギッシュに情報交換しながら、インダストリー4.0やIoTの国際潮流を理解し、先頭に立って推進する姿を多く目にするが、日本のオレンジ世代は英語が不得意。
英語試験の成績優秀者もコミュニケーションはとっても不得意。企業内に閉じこもり、内向思想で鎖国状態そのもの。押し寄せるイノベーションを知らない『茹でガエル』の一因となっている。
また、人生ステージに関する共通概念・・すなわち、①大学まで「教育を受ける」ステージ ②会社に入社し「仕事をする」ステージ ③定年になり「引退する」ステージ、といった『皆と同じ決められたステージを歩むことがサラリーマンの人生である』と皆がを信じ切っているが、これが既に通用しなくなっている事に気が付かず、オレンジ世代のサラリーマンもこの概念に洗脳されたままである。
「教育を受ける」「仕事をする」「引退する」といった人生ステージは、『就職を目的に大学に進学し、引退を目的に仕事をする』という価値観を醸造し、『労働対価は権利、年金も権利』という生産性のない概念が一般化するので、国際競争からは脱落し、IoT社会の人生設計には通用しなくなる。オレンジ世代のサラリーマンが受けている洗脳を解かねばならない。
平均寿命が100歳時代を迎えようとしている今日、新たな人生ステージの設計と実行が必要であが、残念なことに、洗脳により『引退と年金生活を待ち望む50歳代の若きサラリーマン』が増殖しているのが現実である。
オレンジ世代は、経験豊富な貴重な人材であるにもかかわらず、引退を待ち望び、何もせず無気力のまま労働報酬を得ようとするオレンジ世代サラリーマンも多く存在する。国際競争力を失っていく日本企業の悲観的実態であるし、引退後がバラ色でないことを知っているオレンジ世代サラリーマン自身の悲劇でもある。
オレンジ世代のもう一つの課題は、「学び」「自己研鑽」の欠如である。海外では、自己研鑽には大変熱心である。欧米社会で定着した『リカレント教育』とは、キャリアアップのために生涯に渡って就労しながら教育を受けていく事であるが、日本では教育は人生の最初のステージのみ。
『勉強は学生時代の事さ・・』と、すっかり自己研鑽を忘れ、学びを忘れたオレンジ世代が、国際社会やIoT社会を生き延びることは出来ないのは当然である。
世界の構造がIoTで激変する今日、日本の製造業が国際的競争力を持ち、明るい未来を開くための『オレンジ世代』の役割は非常に大きく、オレンジ世代の活躍に依存しなければならない。
では、オレンジ世代が活躍し、輝かしい日本製造業の未来を創り出す戦略はなにか?オレンジ世代はどう変わり、何を担えば良いのか?・・ここに一つの答えがある。
その一つは、『兼業のすすめ』である。サラリーマンとしての仕事を持ちつつ、定年のない兼業を同時に行うことである。社内規約や法的解釈も優位な方向に変更され、この環境が整いつつあるが、今からやらないと間に合わない。
業種の違う中小企業のIoT化を推進する仕事などを積極的に探し、週一定時間以上のもう一つの仕事を同時にこなすことで、学びと自己研鑽が生まれる。猛烈社員に一変するが、これが引退のない明るい未来の構築条件である。
2つ目は、ボトムアップIoTの橋渡しを担うことである。ボトムアップIoTとは、インダストリー4.0のように上流から破壊的に革命を起こそうとする『トップダウンIoT』ではなく、製造現場の現状・ノウハウをベースにIoT化を推進する考えであり、日本に最もマッチした仕組みである。
日本には古参技能者による製造ノウハウの宝庫というべき財産がある。オレンジ世代は、『古き60歳代以上のアナログ世代』と『若き30歳代以下のデジタル世代)の中間世代であり、『アナログとデジタルの融合世代』がオレンジ世代と言っても過言ではない。
オレンジ世代は、ボトムアップIoTを実践する最良の環境にいる。
私の良く知っているオレンジ世代の一人は、大企業で30年以上働いてきたが夢も未来もない。彼は今、家の近くの中小製造業に請われボトムアップIoTの推進を担っている。
中小製造業の業績は急成長。彼も引退のない生涯のやりがいを得た。
これが日本の中小製造業再起動の切り札のひとつであると思う。

著者 高木俊郎
オレンジ世代のサラリーマン
ーー 国際社会・IoT社会の「茹でガエル」 ーー
第4次産業革命による急激な産業構造変化が起きている。
海外、特にアジアで急速発展する中堅・中小製造業での変化を目の当たりにすると、日本の将来に強い危惧を覚えるのは筆者だけではないはずである。
日本では、40歳代−50歳代の働き盛りの人々を『オレンジ世代』と呼ぶ事がある。『オレンジ世代』の明確な定義はないが、一説によるとスマホが台頭する昔、夕方の通勤電車でオレンジ色の『夕刊フジ』を読んでいた若者の世代を総称するらしい。
今や『オレンジ世代』は、各企業の幹部社員として屋台骨を支えている年代である。『オレンジ世代の活躍が、日本の明るい未来を切り開く』と言っても過言ではない。今回は、オレンジ世代に焦点を当て、特に製造業に於ける課題と対策を論じていきたい。
先に結論から述べると、オレンジ世代は戦後日本社会が経験したことがない、重大な問題を抱えている。中国やアジア各国の製造業進出や、第4次産業革命が進行で『風雲急を告げる』状況の日本の製造業にとって、『IoT化は待ったなし』であり、オレンジ世代の強力な指導力が必須である。
しかし残念なことに、この使命に立ち向かうオレンジ世代の力強さはあまり感じない。特に大企業に働くオレンジ世代のサラリーマンは、国際社会・IoT社会を激しく生き抜くエネルギーが徐々に消滅しつつある。
半面、アジア各国の40−50代の幹部社員は非常に優秀でエネルギッシュな人材が多い。日本のオレンジ世代と比較し象徴的な違いの一つに、英語によるコミュニケーション力の違いが指摘できる。
アジアの大企業で、英語の不自由な幹部社員は殆ど見当たらない。台湾やタイなど比較的英語力の低い国でも、アジア大企業の幹部社員が欧米人と対等に会話し、エネルギッシュに情報交換しながら、インダストリー4.0やIoTの国際潮流を理解し、先頭に立って推進する姿を多く目にするが、日本のオレンジ世代は英語が不得意。
英語試験の成績優秀者もコミュニケーションはとっても不得意。企業内に閉じこもり、内向思想で鎖国状態そのもの。押し寄せるイノベーションを知らない『茹でガエル』の一因となっている。
また、人生ステージに関する共通概念・・すなわち、①大学まで「教育を受ける」ステージ ②会社に入社し「仕事をする」ステージ ③定年になり「引退する」ステージ、といった『皆と同じ決められたステージを歩むことがサラリーマンの人生である』と皆がを信じ切っているが、これが既に通用しなくなっている事に気が付かず、オレンジ世代のサラリーマンもこの概念に洗脳されたままである。
「教育を受ける」「仕事をする」「引退する」といった人生ステージは、『就職を目的に大学に進学し、引退を目的に仕事をする』という価値観を醸造し、『労働対価は権利、年金も権利』という生産性のない概念が一般化するので、国際競争からは脱落し、IoT社会の人生設計には通用しなくなる。オレンジ世代のサラリーマンが受けている洗脳を解かねばならない。
平均寿命が100歳時代を迎えようとしている今日、新たな人生ステージの設計と実行が必要であが、残念なことに、洗脳により『引退と年金生活を待ち望む50歳代の若きサラリーマン』が増殖しているのが現実である。
オレンジ世代は、経験豊富な貴重な人材であるにもかかわらず、引退を待ち望び、何もせず無気力のまま労働報酬を得ようとするオレンジ世代サラリーマンも多く存在する。国際競争力を失っていく日本企業の悲観的実態であるし、引退後がバラ色でないことを知っているオレンジ世代サラリーマン自身の悲劇でもある。
オレンジ世代のもう一つの課題は、「学び」「自己研鑽」の欠如である。海外では、自己研鑽には大変熱心である。欧米社会で定着した『リカレント教育』とは、キャリアアップのために生涯に渡って就労しながら教育を受けていく事であるが、日本では教育は人生の最初のステージのみ。
『勉強は学生時代の事さ・・』と、すっかり自己研鑽を忘れ、学びを忘れたオレンジ世代が、国際社会やIoT社会を生き延びることは出来ないのは当然である。
世界の構造がIoTで激変する今日、日本の製造業が国際的競争力を持ち、明るい未来を開くための『オレンジ世代』の役割は非常に大きく、オレンジ世代の活躍に依存しなければならない。
では、オレンジ世代が活躍し、輝かしい日本製造業の未来を創り出す戦略はなにか?オレンジ世代はどう変わり、何を担えば良いのか?・・ここに一つの答えがある。
その一つは、『兼業のすすめ』である。サラリーマンとしての仕事を持ちつつ、定年のない兼業を同時に行うことである。社内規約や法的解釈も優位な方向に変更され、この環境が整いつつあるが、今からやらないと間に合わない。
業種の違う中小企業のIoT化を推進する仕事などを積極的に探し、週一定時間以上のもう一つの仕事を同時にこなすことで、学びと自己研鑽が生まれる。猛烈社員に一変するが、これが引退のない明るい未来の構築条件である。
2つ目は、ボトムアップIoTの橋渡しを担うことである。ボトムアップIoTとは、インダストリー4.0のように上流から破壊的に革命を起こそうとする『トップダウンIoT』ではなく、製造現場の現状・ノウハウをベースにIoT化を推進する考えであり、日本に最もマッチした仕組みである。
日本には古参技能者による製造ノウハウの宝庫というべき財産がある。オレンジ世代は、『古き60歳代以上のアナログ世代』と『若き30歳代以下のデジタル世代)の中間世代であり、『アナログとデジタルの融合世代』がオレンジ世代と言っても過言ではない。
オレンジ世代は、ボトムアップIoTを実践する最良の環境にいる。
私の良く知っているオレンジ世代の一人は、大企業で30年以上働いてきたが夢も未来もない。彼は今、家の近くの中小製造業に請われボトムアップIoTの推進を担っている。
中小製造業の業績は急成長。彼も引退のない生涯のやりがいを得た。
これが日本の中小製造業再起動の切り札のひとつであると思う。

著者 高木俊郎