2018/04/23 中国の脅威と米中貿易戦争勃発・日本中小製造業の生き残り
以下は 2018年4月18日のオートメーション新聞 第144号に掲載された寄稿記事です)

中国の脅威と米中貿易戦争勃発

ーー 日本中小製造業の生き残り ーー

トランプ大統領は中国に対し、情報通信、航空宇宙やロボット分野などを対象に500億ドル(5兆円超)の制裁関税を発表した。この米国の発動は、明らかに先端成長分野における『製造覇権の奪い合い』であり、制裁分野がすべて「中国製造2025」の関連業種であることからも明白である。

「中国製造2025」とは、ドイツのインダストリー4.0や米国GEのインダストリアル・インターネットなどと並び、IoTを駆使した中国の国家戦略であり、習近平政権が推し進める製造業の振興策である。特に先端成長の10分野の製品を、全て国産で製造する事を目指している。

トランプ大統領の『貿易赤字削減』は表向きの理由であるが、米国の本音は台頭する中国製造業への牽制であり、今後の成長分野は全て中国が支配するという中国の思惑に待ったをかけ、IoT/第4次産業革命によって訪れる『次世代の世界王者』を中国に奪われる事を阻止する事が目的である。

「インダストリー4.0」・「インダストリアル・インターネット」そして「中国製造2025」は、各国ごとにスローガンは違うが、国家戦略の重要テーマとしてIoTを武器とした製造業強化による世界覇権競争の象徴である。

米国では、空洞化している製造業の国内回帰を推進し、IoTによる顧客志向のものづくり大構想をぶち上げているが、今の所それほどの大きな成果にはつながっていない。

一方、中国は「中国製造2025」を背景に、政府の国内企業への補助金などが成果を上げ、最近の中国製造業は飛躍している。IoT化や自動化も急ピッチで進んでいる。日本にいると中国製造業の躍進は分かりづらいが、アジアでは深刻な脅威となっている。

タイ・バンコクに住む華僑の製造業経営者の話によると、彼らの最大の悩みは中国からの新規進出企業だそうである。昔からタイの製造業を支配した華僑は、長年に渡る成功と繁栄を享受してきたが、最近中国から強力なアジアへの進出企業の出現に当惑している。

「中国製造2025」による中国政府やVC(ベンチャーキャピタル)の大資本支援をバックに、徹底的なIoT化・自動化に加え、大規模投資による圧倒的な競争力をもって進出するので、全く勝ち目がない、と深刻に悩んでいる。

華僑である古くからのアジア中国人は、新しいアジア進出中国人を最も恐れているのである。残念ながら、日本企業は相手にもされず、蚊帳の外である。

米国が制裁関税で中国を牽制したい背景には、このように着実に発展する『中国製造業』への脅威があり、このまま行けば将来の成長分野の製造は、すべて中国に握られてしまう不安が背景にある。

一方日本では、中国製造業に対し『製造コスト』への脅威論はあるものの、精密で先端的な成長分野の製造が中国に握られることを心配する日本人はあまり多くはない。また、中国製造が徹底的なIoT化と自動化を指向し、実績を積み上げている事実もあまり知られてはいない。

日本は『ロボット大国、日本』を自負しているが、日本の技術を吸い取りながら日本を既に追い越し発展する『中国製造業』の実態は、真の驚異であり、明日の競合となるのは避けられないだろう。

日本国内に目を転じると、中小製造業は深刻な人材不足と好景気が重なり、外国人労働者に依存する中小製造業が激増している。『アジアの新興国の労働者は、安くて優秀だ。助かっている』といった声も多く聞かれる。

外国人労働者の活用も有効な対応策の一つではあるが、『技能・技術の流失』という後遺症を伴い、世界的に見ても『周回遅れの施策』といったマイナス側面も無視できない。また、好むと好まざるとにかかわらず、近い将来アジアから日本に来る労働者数は減少するだろう。

発展する中国経済は着実にアジアを飲み込み、アジアも大きく経済成長していく。膨大な労働力を吸収するアジアの大都市の発展により、アジア域内での雇用は増え続け、日本の地方都市までわざわざ出稼ぎに行く労働者は激減する。

もちろんアジア以外からの労働者依存も考えられるが、どんなに外国人労働者を集めても、人海戦術依存の工場存続は難しいだろう。

世界は、明らかに『IoT化・自動化』の勝負である。日本の中小製造業の活路にも、徹底的なIoT化・デジタル革命が必須である。日本の中小製造業には、優れた熟練工と加工のノウハウが存在する。これをベースに人工知能化を実現し、第4次産業革命が花開く条件は全て整っているが、中小製造業で完全無人工場の構築は不可能であり、依然として人材確保は大きな課題である。

日本の就業労働人口減少は避けられないが、短絡的に『人手不足=外国人労働者』と限定せず、足元に温存されている『高齢者や女性労働力』の未開拓領域にも注目すべきである。

ローカルの中小製造業経営者が、この豊富な労働力活用に着手することで、明るい未来が見えてくる。

第4次産業革命の最新技術は、これらの未経験者を戦力化する魔力を持っている。IoTや人工知能そしてロボットで自動化武装された未来工場は、高齢者や女性に優しい工場であり、世界中で唯一、職住近接で交通費や住居費が殆どかからない『効率の良いスマート工場』が、日本の津々浦々で花開く。

『高齢者&女性 ➕人工知能&ロボット➕若者エンジニア』=日本の中小製造業。
こんな未来工場が素敵ではないだろうか?








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著者 高木俊郎

09:19 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2018/04/10 品質偽装で日本神話崩壊・ 中小製造業「ISO9001とIoT」に活路
以下は 2018年3月23日のオートメーション新聞 第141号に掲載された寄稿記事です)

品質偽装で日本神話崩壊

ーー 中小製造業「ISO9001とIoT」に活路 ーー

超有名企業による「粉飾決算による損失飛ばし事件」も束の間、大企業の「品質偽装」が世の話題をさらった。直近では、財務省の文章改ざん問題が話題の中心となり、政権転覆まで噂される緊急事態となっている。

日本全体に、信頼が失墜する『神話崩壊』が蔓延し始めている。品質偽装問題は、日本のものづくりの根幹を揺るがしている。

QCD(品質・コスト・納期)はものづくり企業での競争力源泉であり、優れた日本品質は常に世界をリードしてきた。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)と熟練工の魂の入ったものづくりは、日本の誇りである。

この日本品質が、品質偽装によって国際的信頼の失墜につながった事は、日本の悲劇と言わざるを得ない。

しかし筆者は、大手企業の品質偽装を擁護するつもりはないが、本来の品質対策を超越した『過剰な品質義務』が、不幸な事件に発展してしまった側面も無視できないと感じている。

この品質問題は中小製造業にとっても大きな転換を余儀なくされるだろう。大手製造業各社は、品質偽装に神経質になっており、中小製造業にも様々な要求を突きつけてくるだろう。『良いものを作ろう!』といった品質要求だけでなく、『品質のマニュアル化』に重点がおかれた要求が強くなると思われる。

中小製造業は依然として受注好調の好景気状態が続いており、人手不足は深刻化を極め、機械増設による生産増強を計画しても、それを運転する人材が確保ができず、成長の大きな阻害要因となっているが、品質のマニュアル作成と運用にますます人手がかかる危険が増している。

マニュアル化、人手不足、生産性向上、が中小製造業の喫緊の課題といっても過言ではない。

今回は、中小製造業『品質のマニュアル化』に焦点を当てつつ、人手不足と生産性向上への具体的アプローチとしての ISO9001の意義とデジタル化・IoTの重要性について掘り下げていきたい。

ISO9001の歴史は長く世界中で受け入れられているが、日本の中小製造業において、ISO9001はすこぶる評判が悪い。大手の過剰な品質管理義務と同様、ISO9001で要求される数々が、中小製造業にとって過剰な要求であり『面倒くさい』と認識されているからである。

最近では、ISO9001の認証維持に必要な維持審査(サーベランス)にかかる人材と時間、そしてその費用に疲弊する中小製造業が数多く存在し、根深い問題になっている。

ISO9001の品質マネージメントモデルの導入は、不良率の減少、コスト低減や返品率の低下など、経営に直結する効果があり、そのメリットは大きいが、その反面で導入への膨大な工数と、膨大な紙に埋もれた運営が余儀なくされ、ただでさえ低い労働生産性を更に悪化させるデメリットが存在しているのも事実である。

また実際のところ、苦労してISO9001認証をとっても、ビジネスにはあまり有効ではない。もちろん、海外の自動車メーカから仕事を取りたい・・・などの経営判断があれば、ISO9001に加え IATFなどの認証が必要であるが、通常のビジネスではISO認証は必ずしも必要では無い場合が多い。従って『ISO9001が形骸化している』と感じる経営者が数多く存在するのも事実である。

しかし日本の中小製造業にとって、ISO9001を軽視することは得策ではない。ISO9001導入のメリットは「マニュアル化の構築」であり、この仕組みを導入することで熟練工依存の体質から脱皮する大きなきっかけとなる。

しかし不幸な事に ISO9000は、日本の中小製造業にとって決して馴染みやすいものではない。特に「QC工程表」や「標準作業手順書」を作成し、膨大な紙のマニュアルを管理・運営することの難易度は、熟練工依存の中小製造業に於いては『現実離れ』である。

「短納期・多品種小量生産」が進行する現状において、マニュアル化のための作業工数は膨大で、かえって生産性向上の足を引っ張る危険もある。

このように、導入には様々な困難がつきまとうが、これを導入することが結果的に人手不足と生産性向上の対応策となる。日本のものづくりは少子高齢化によって熟練工が減少し、将来的には外国人労働者に依存することも十分有り得る。『マニュアル化の実現なくして未来なし』が、中小製造業の現実である。

ISO9001を積極策に導入する経営判断が必須であるが、様々な困難を打破し、積極的な導入を実現するためには、デジタル技術の活用・IoT推進の道を避けては通れない。人海戦術に依存せず「QC工程表」や「標準作業手順書」などを、自動もしくは簡易操作で作成し運用する仕組みの導入が、中小製造業の勝ち残りに必要な戦略である。

経営者自らが、ISO9001とIoT推進の旗を振り続けることが、中小製造業の未来を切り開く鍵である。








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著者 高木俊郎

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