2017/12/13 米国から学ぶ破壊的イノベーションと周回遅れの日本FA業界・オープンイノベーションによるビジネス創造
以下は 2017年11月29日のオートメーション新聞 第130号に掲載された寄稿記事です)

米国から学ぶ破壊的イノベーションと周回遅れの日本FA業界

ーー オープンイノベーションによるビジネス創造 ーー

■米国視察からの気づき
11月7日から10日間に渡り、当社アルファTKG主催の「国際交流視察」が行なわれた。参加企業は日本より12社13名。マレーシアや米国からの参加者も加え、総勢20名を超えた。

当社の社歴は4年と浅く、名実ともに駆け出しのベンチャー企業であるが、当社主催の国際交流視察は、お陰様で第3回目を迎え、年を追うごとに盛大になっている。参加者は中小製造業の社長・代表者であり、インダストリー4.0やIoTの国際社会での実態を肌感覚で学ぶことが目的のツアーである。

ツアーの中味は、現地の産学官の著名人を招聘したセミナー参加や、現地企業の視察、国際見本市Fabtecの視察である。今年の視察地は米国シカゴ・ロス、サンフランシスコ、サンノゼを回る強行軍であった。

ツアーは、シカゴで開催されたFabtecの視察から始まった。Fabtecは、板金加工を中心とする大規模な国際見本市であり、2年毎に米シカゴで開催される。Fabtecでは、歴史的に米国メーカーの存在感は薄く、日本と欧州のメーカが強さを示している。

遠く昔の20世紀には大いに幅を利かせていたご当地米国のメーカーは、この数十年間ずっと影を潜めている。ブース規模やプレゼン訴求力・集客力など全てに渡って日•欧が頂点に立ち、日本と欧州のTOPメーカ同士が、一位・二位を争っているのが恒例である。

今年の傾向でも、日・欧メーカーの存在が大きい事に変わりはないが、特筆すべきは米国と新興国の躍進である。米国メーカーは、人工知能搭載による機械の知能化とロボット化が急速に進化し、ツアーに参加した中小製造業経営者は、意外性を持って率直に驚き、そして強い興味を覚えたようである。

一方で、新興国の躍進といえば一般的に中国メーカーを思い浮かべるが、中国メーカーは米国の板金市場からすっかり姿を消してしまった。新興国躍進の担い手はトルコのメーカーである。日・欧のトップメーカーが苦手な超大型機もラインナップし、トルコの主要3社が揃って躍進しており、展示ブースも存在感を放っていた。

価格破壊の挑戦を挑んでいるのは、米国メーカーである。レーザー加工機などは、日欧メーカーの半額以下を打ち出し、米国メーカーはモジュール型の製造手法による価格破壊を戦略の全面に打ち出してきた。

この価格戦略が成功したら、レーザー加工機など工作機械まで、家電製品やパソコンのように日本を苦境に陥れる事も懸念される。

このように米国では、大きな時代の変化が起きているが、これを日本で知る事は難しい。
特に、中小製造業にとって至難の技である。世間では「IoT」が叫ばれ、日本の大手企業からも様々な提案が出ているが、中小製造業にとって「茹でカエル」にならないためにも「世界の情報を知る事」がとても重要であると痛感した。

◾️ Uber(ウーバー)体験談から知る日本との温度差
Uberを聞いたことがある方は多いと思うが、日本人にとってUberは無縁の存在である。
Uberを知っていても、「Uberは白タクだし、タクシーのが安全だ」と言った認識から、せっかく海外に行ってもUberを実際に使う人は少ない。

日本では国土交通省がUberは「白タク運転に当てはまる」として認可せず、Uberを使ってもハイヤーしか来ないので、使うメリットは何もなく普及していないので無理もない。

2009年に米国サンフランシスコで生まれたUberはイノベーションの代表的なケースである。Uberは従来のタクシー業界を破壊しながら、世界70ヶ国に広がる配車サービスであり、年間売上高は一兆5,000億円にのぼる。白タクの「うさん臭いイメージ」とは随分違う。

私は世界各国に良く出張するが、かつてはタクシーが悩みの種であった。時には「タクシーメーターを倒さず、法外な料金を請求し、ぼったくりタクシー」に出会う事もあった。英語の通じない運転手に困ったり、支払いに現地通貨の用意も必要。大体タクシーを呼ぶ事そのものが厄介であり、時として長い時間待たねばならない。Uberにはこのような心配が全くない。

今回のツアーは20名を超える大人数である。一台の車に乗れず分乗してレストランに行く場合も、二次会のクラブに出かける時も、どこからでも呼べるUberは本当に便利であった。

スマホに行き先を入れるだけ。英語での交渉も要らず、現地通貨もチップも不要。到着地までスマホのナビが道順ガイド。着いたらただ降りればOK。登録したクレジットカードで自動決済され、領収書がメールに送られて来る。全て日本語表示。そして値段はタクシーの半分。

こんな便利なUberは、タクシー業界を敵に回し、すっかり市民生活に定着している。サンフランシスコではUberはタクシーの6倍に達しているそうである。高級ホテルでもタクシー配車業務に変わり、Uberを推奨している。こんな便利なサービスも日本では「白タク」と断じ、認可しない。

ガラパゴスと言われながらも、過去に執着しオープンイノベーションに難色を示す日本の姿勢は、製造業界に於ける大手企業の経営方針にも、随所に現れている。日本FA業界の大手企業は、世界から見たら「独自の閉鎖性に依然こだわっている」と言わざるを得ない。

CNCの象徴メーカーは、独自ネットワークを武器に賛助企業を募り、さまざまな機械に搭載された自社NCの「つながる」を推進している。一方PLCの大手メーカーは、国際的な企業間アライアンスを強化している。

これらの企業努力に対し「日本企業もオープン化に前向きになってきた」と評する声も多く、明るい話題ではあるが、世界のオープン化やイノベーションとは少し違う。

ABBがB&Rを買収し、総合ソリューションの幅を広げながら、オープン指向を強めている例を見るまでもなく、欧州FA連合は「ソフトオリエンテッドなソリューション」をベースにオープン化で世界を席巻しようとしている。ハードウェアオリエンテッドに固守する日本のFA業界に危惧を覚えるのは私だけだろうか?

◾️周回遅れの日本とAPIエコノミー
日本は自他共に認める製造大国であり、デジタル変革にも前向きで、M2Mネットワークも世界最高峰に達していることに疑いの余地はない。

しかし、世界はスマホを使ったイノベーションが急速に台頭し、進化を続けている。Uberやフィンテックなどはその代表事例であり、世界を歩くと日本の保守的な周回遅れにハッとさせられる事が多い。

日本を除く世界中で、破壊的イノベーションによる時代の進化とパラダイムシフトが起きているが、日本国内は依然として従来ビジネスの破壊を恐れ、真のイノベーションを封鎖しようとしている。

APIエコノミーとは、米国では常識となった概念であるが、日本ではあまり認識されていない。APIエコノミーとは、オープンイノベーションの象徴であり、Uberやフィンテックがこの代表事例である。

自前だけでは不可能な「企業と企業」「ビジネスとビジネス」がAPIエコノミーでつながり、新たな付加価値と新たな市場を生み出す「オープンイノベーションによるビジネス創造」は壮大である。このイノベーションは第3のプラットフォーム上で実現されている。

周知のごとく第3のプラットフォームとは、スマホ・ソーシャルネット・モバイルをベースとしたクラウドの世界の事であるが、日本の製造業界のソフト開発は、依然としてパソコンを主役とした第2のプラットフォームが主流となっており、閉鎖的思考から抜け出せていない。

Uberやフィンテックを「危険だ!」などと批判するのは簡単であるが、日本の閉鎖感覚から「新ビジネスは決して生まれない」という事実を、我々は認識しなければならない。

日本のものづくりは、素晴らしい従来技術とインフラを持ちながらも、次世代へのデジタルトランスフォーメーション(DX)に乗り遅れている実態は、海を渡り日本を直視すれば明白である。

昨今の好景気に支えられたFA業界であるが、業界を支える大手企業は特に、直近の業績に奢る事なく周回遅れの現実を直視して欲しいと切に願う。








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著者 高木俊郎




10:20 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2017/12/05 中小製造業「IoTの実践とは」・ものづくりPDM / ものづくりERP
以下は 2017年11月15日のオートメーション新聞 第128号に掲載された寄稿記事です)

中小製造業「IoTの実践とは」

ーー ものづくりPDM / ものづくりERP ーー

中小製造業の経営者にとってインダストリー4.0やIoTは悩みのネタである。第4次産業革命に関する数多くの報道に触れ,デジタル変革の必要性は十分に理解するものの、「具体的に何をしていいのかわからない」とおっしゃる経営者にお目にかかることが多い。

最近世間では、「インダストリー4.0は実効性に欠け、特に中小製造業では実現が難しいのでは?」といった論調が多く見受けられる。事実、多くの解説は概念論であり、取り上げられるテーマも、大手製造業の視点が多く、中小製造業にとっては「絵空事」である。

中小製造業の具体的な実践について報道される事は少ない。本場ドイツにおいても、インダストリー4.0に対し、否定的な感想を持っている中小製造業経営者は決して少なくない。日本のメディアや大手企業の中でも、このところインダストリー4.0との表現に距離を置きつつあるように感じる。キーワードを「IoT」に変えつつあり、「IoT」一色となっている。

しかし、キーワードがどう変化しようと、インダストリー⒋0/第4次産業革命は中小製造業の明暗を分ける最重要テーマであり、中小製造業にとって最もメリットがある大革命である。しかし残念ながら、中小製造業の輝かしい未来を取り上げる報道はほとんどない。

水蒸気の発明・電気の発明・コンピュータの発明による産業革命の進化は、人類に甚大な影響を及ぼす壮大な歴史事実であり、技術的なイノベーションの象徴であった。また、経済的にも膨大な投資の象徴でもあった事に疑う余地は無い。

そのため、 産業革命は膨大な資本を背景に、国や大企業が推進役となってその主導権を握ってきた。裏返せば、膨大な資金を有する大企業のみがイノベーションの頂点に立ち、差別化を享受してきた。

しかしこれから本格的に始まる第4次産業革命のイノベーションには膨大な投資は不要である。過去にしがらみがなく、「小回りの利く中小製造業が競争優位である」といっても過言ではない。大手製造業に先んじて未来を掴み取る最大のチャンスが、中小製造業に訪れている。

「すべて大企業が中心」と言ったパラダイスが崩壊しているのである。中小製造業がイノベーションの先頭に立つと言う事は、過去の歴史にないパラダイムシフトであるが、既に成功裏に実証している中小製造業も現れており、親会社からも注目の的となっている。

今回は、これらの成功企業の実態をベースに、中小製造業「IoT実践とは」を考察してみたい。

まず初めに特筆すべきは、成功している中小製造業に共通する点は、経営者自らが IoTに関する研鑽と勉強を重ね、社員の先頭に立って旗振りを行っているという点である。IT投資は、機械などのハードウェア投資と異なり、目に見えない部分が多く、経営者のビジョンや判断によって大きく方針が分かれる投資であり、経営者の力強い推進無くして成功はありえない

また、IoT成功企業の共通点は、経営者が明確な(IoT導入の)目的意識を持っている事である。世間に蔓延するIoTの解説は、「あらゆるデータがインターネットに繋がる事」との論調が多く、目的が不明確で手段やデータ収集の方法論のみが語られる事が多い。時には現状を無視し、理想の押し付けに終始する論調も散見されるが、中小製造業で実行する事は不可能である。

最近の中小製造業を取り巻く環境は、好調な受注背景から生産量が拡大しており、ボトルネック 工程が変化している。課題を明確にして、これを解決する目的を社員全員が共有し、社員各自の役割を明確にしながら、現状をいきなり変えようとせず「一歩一歩、小さな成果を積み上げていく」そんな企業がIoT成功企業である。

各社ごとの課題はまちまちではあるが、共通する成功プロセスには一定の共通点がある。
最初のアプローチは、デジタル変革1丁目の1番地と言うべき「情報の5S化」から始まる。「情報の5S化」とは、工場に存在するバラバラな情報を一元管理し、これを整理整頓し、情報価値の増大を図ることである。

大手製造業中心の観点では見落としがちではあるが、中小製造業の製造現場には、CAD/CAMや生産管理などの「コンピュータ情報」のみならず、たくさんのプリントアウトした「ペーパー情報」や現場で記載された「保管情報」、そして熟練工の持つ「ノウハウ」など様々な情報がバラバラに存在している。

これらの情報を「一元管理」し、見えない情報を「見える化」し、情報同士を「紐付け」して、使える情報に変革することを「情報の5S化」と呼ぶ。この「情報の5S化」なくしては、IoT・デジタル変革の実現は不可能である。

大手製造業で普及している「PDM(製品に関するデータ管理 : Product Data Management)」や、「ERP(基幹系情報システム : Enterprise Resource Planning )」などの仕組みは「情報一元管理」の有効手段であるが、残念ながら中小製造業においては全く普及していない。

設計部門や本社事務部門の情報一元管理を目的に開発された「PDM/ERP」は、ものづくりを生業とする中小製造業には不向きである事が普及しない理由である。

IoT成功企業は、「PDM/ERP」の重要性を認識し、それを自社に取り入れるために、製造現場に視点を置いた「ものづくりの一元管理」と「情報の5S化」を徹底的に推進している。

「ものづくりPDM/ものづくりERP」このキーワードこそが、中小製造業IoT成功の羅針盤である。 羅針盤の示す航路にしたがって、まずは「情報の5S化」。ここに一歩一歩の成果を出していくことが、中小製造業の「IoT実践編」である事は、成功企業の事例から明白である。








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著者 高木俊郎

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