2015/02/04 【インテリジェント工場】から【スマート工場】への意識改革
(以下は 2015年2月4日のオートメーション新聞 第26号に掲載された寄稿記事です)
【インテリジェント工場】から【スマート工場】への意識改革
1964年に IBM がメインフレーム System/360を発売してから半世紀が経過した。オペレーションシステムを搭載したこのマシンがキッカケでComputerが一般社会に台頭したが、当時の日本でのComputer概念は『電子計算機』であった。『電子計算機』は今日でも法律的に通用するComputerの和訳である。中国語社会では、これを『電脳機』と訳した。はるか昔にComputerを『電脳』とイメージした中国人の先見性はさすがである。電子計算機という単語のイメージでは、インテリジェント工場やスマート工場を理解することは難しい。
『Computer=電脳』のイメージを持ってインダストリー4.0(I4.0)の世界を理解していく必要がある。具体的に I4.0 が提唱する『スマート工場』を設計するには、用語の定義と理解が必要である。I4.0 に関する技術資料を含む多くの解説書で、Cyber(サイバー),Physical(フィジカル),Virtual(バーチャル),など多くの専門用語が使われているが、その用語の解説も少なく使い方もバラバラである。
『スマート工場』の呼称も、中国では『インテリジェント工場』と表現される場合が多い。両者は概ね同じ意味で使われているが、この表現の曖昧性も問題である。まず最初に『スマート工場』と『インテリジェント工場』のコンセプトを明確化する必要がある。
前回のコラムで、第一次産業革命で、”機械化”の一階建て。第2次産業革命で”機械と電気”の2階建。第3次産業革命で”機械と電気とPC/PLC”の3階建て。そして第4次産業革命は、仮想工業が増築される4階建て工場であることを提言した。
この3階建工場を『インテリジェント工場』。4階建工場を『スマート工場』と定義するのが分かりやすい。『インテリジェント工場』が増築され『スマート工場』に発展する。これからの目指す工場は、『スマート工場』である。
スマート工場の構築には、ベースとなる強力なインテリジェント工場が必須である。インテリジェント工場とは、電子計算機工場ではない。コンピュータによる知能化された電脳工場である。日本には秀でたインテリジェント工場が数多く存在している。
70年代から日本が世界をリードした第三次産業革命は、PC/PLCを融合したインテリジェント化/オートメーション化への挑戦であった。日本の工場では企業規模の大中小を問わず、CNC装置と融合した膨大な数のPC/PLCが稼働しており、今日も強い競争力を保有している。世界中どこを探しても日本ほど進化したインテリジェント工場の集積国家を探すことは出来ない。特に中小製造業におけるこの傾向は顕著である。
精密板金製造業界は中小製造業が主体であり、多くの熟練工を必要とする業界である。この業界では非常に早い時期から多品種少量生産が常態化し、段取り作業の増大や熟練工不足が問題となっていた。この解決のためにデジタル化が進行し、知能化が高度に進んでいる。たとえば、鉄板を曲げていくベンディングという作業工程では、以前の熟練工に変わって曲げ順序をコンピュータが決定する人工知能の活用がなされ、ロボットによる無人運転も実現している。大規模工場だけでなく、人々の生活する普通の街の一角にこのような電脳”町工場”が存在している国が日本である。
このように、日本で誕生したインテリジェント工場は、大別して4つの知能化(インテリジェント化)が実現した。知能化とは熟練工の仕事をコンピュータが変わって行うことである。4つの知能化とは, ①段取りの知能化 ②加工の知能化 ③操作の知能化 ④メンテナンス&フィードバックの知能化である。インテリジェント工場の実現により、PC/PLCを駆使し(熟練工に代わって)誰でも作業の出来る工場が誕生した。人をロボットにも変える事にも成功した。これが第三次産業革命と言われる所以の一端である。
インテリジェント化による経営的効果は、段取り時間の大幅削減、不良削減、大きな生産性向上が実現した。またオートメーション化による人員削減効果も絶大であったが、このイノベーションにより得られた最大の進化は技術・技能伝承の観点である。かつては徒弟制度により、親方から弟子に伝承された技術・技能は、熟練工からコンピュターに伝承する事が可能であることが証明された。技術伝承は差別化の源泉である。このイノベーションが(ビックデータの時代を迎え)スマート工場で極めて重要になってくる。
インテリジェント化の革新は未来永劫も続くのだが、ここで今回の本論である”インテリジェント工場とスマート工場との違い”を考察してみたい。
結論から言うと、スマート工場とは人間(熟練工)を超越し、人間の能力を超える予知・予見を可能とする工場である。シミュレーションとネットワークが真髄であり、増築される4階と屋上の役割がここにある。優れた熟練工の能力を超越し、人の能力では実現不可能な最適化を実現する4階建て工場が『スマート工場』である。インテリジェント工場が、熟練工の能力を超えなかった事と大きな違いがここにある。スマート工場実現の手段として、大企業では I4.0 の新規設備工場として進めることも可能であるが、中小製造業では、現在まで投資してきた設備を大切にして、段階的に設備拡充することが現実的である。イメージとして現在保有する設備(3階建工場)をベースに、4階に『仮想工場』、屋上にクラウドと世界に扉を開く『情報国際空港』を増築することである。
4階に増築する仮想工場とは、サイバー空間に作られるバーチャルな工場である。バーチャル工場と現実工場の最大の違いは、時間の概念である。仮想工場では時間を縮めたり伸ばしたり自由自在。何回でもトライすることが可能である。数時間かかる作業をほんの瞬間に行うこともできる。これがシミュレーションであり、シミュレーションとは、最適な答えを出すために何回でも時には何億回でも実行し、最適な答えを導き出すことである。この答えに従って、3階以下の現実工場で実際の作業を行う。これが、I4.0で提唱されるCPS(Cyber Phsycal System)の概念である。
次回はCPSを深堀りし、更なる詳細設計概念の提言をおこなう。

著者 高木俊郎
【インテリジェント工場】から【スマート工場】への意識改革
1964年に IBM がメインフレーム System/360を発売してから半世紀が経過した。オペレーションシステムを搭載したこのマシンがキッカケでComputerが一般社会に台頭したが、当時の日本でのComputer概念は『電子計算機』であった。『電子計算機』は今日でも法律的に通用するComputerの和訳である。中国語社会では、これを『電脳機』と訳した。はるか昔にComputerを『電脳』とイメージした中国人の先見性はさすがである。電子計算機という単語のイメージでは、インテリジェント工場やスマート工場を理解することは難しい。
『Computer=電脳』のイメージを持ってインダストリー4.0(I4.0)の世界を理解していく必要がある。具体的に I4.0 が提唱する『スマート工場』を設計するには、用語の定義と理解が必要である。I4.0 に関する技術資料を含む多くの解説書で、Cyber(サイバー),Physical(フィジカル),Virtual(バーチャル),など多くの専門用語が使われているが、その用語の解説も少なく使い方もバラバラである。
『スマート工場』の呼称も、中国では『インテリジェント工場』と表現される場合が多い。両者は概ね同じ意味で使われているが、この表現の曖昧性も問題である。まず最初に『スマート工場』と『インテリジェント工場』のコンセプトを明確化する必要がある。
前回のコラムで、第一次産業革命で、”機械化”の一階建て。第2次産業革命で”機械と電気”の2階建。第3次産業革命で”機械と電気とPC/PLC”の3階建て。そして第4次産業革命は、仮想工業が増築される4階建て工場であることを提言した。
この3階建工場を『インテリジェント工場』。4階建工場を『スマート工場』と定義するのが分かりやすい。『インテリジェント工場』が増築され『スマート工場』に発展する。これからの目指す工場は、『スマート工場』である。
スマート工場の構築には、ベースとなる強力なインテリジェント工場が必須である。インテリジェント工場とは、電子計算機工場ではない。コンピュータによる知能化された電脳工場である。日本には秀でたインテリジェント工場が数多く存在している。
70年代から日本が世界をリードした第三次産業革命は、PC/PLCを融合したインテリジェント化/オートメーション化への挑戦であった。日本の工場では企業規模の大中小を問わず、CNC装置と融合した膨大な数のPC/PLCが稼働しており、今日も強い競争力を保有している。世界中どこを探しても日本ほど進化したインテリジェント工場の集積国家を探すことは出来ない。特に中小製造業におけるこの傾向は顕著である。
精密板金製造業界は中小製造業が主体であり、多くの熟練工を必要とする業界である。この業界では非常に早い時期から多品種少量生産が常態化し、段取り作業の増大や熟練工不足が問題となっていた。この解決のためにデジタル化が進行し、知能化が高度に進んでいる。たとえば、鉄板を曲げていくベンディングという作業工程では、以前の熟練工に変わって曲げ順序をコンピュータが決定する人工知能の活用がなされ、ロボットによる無人運転も実現している。大規模工場だけでなく、人々の生活する普通の街の一角にこのような電脳”町工場”が存在している国が日本である。
このように、日本で誕生したインテリジェント工場は、大別して4つの知能化(インテリジェント化)が実現した。知能化とは熟練工の仕事をコンピュータが変わって行うことである。4つの知能化とは, ①段取りの知能化 ②加工の知能化 ③操作の知能化 ④メンテナンス&フィードバックの知能化である。インテリジェント工場の実現により、PC/PLCを駆使し(熟練工に代わって)誰でも作業の出来る工場が誕生した。人をロボットにも変える事にも成功した。これが第三次産業革命と言われる所以の一端である。
インテリジェント化による経営的効果は、段取り時間の大幅削減、不良削減、大きな生産性向上が実現した。またオートメーション化による人員削減効果も絶大であったが、このイノベーションにより得られた最大の進化は技術・技能伝承の観点である。かつては徒弟制度により、親方から弟子に伝承された技術・技能は、熟練工からコンピュターに伝承する事が可能であることが証明された。技術伝承は差別化の源泉である。このイノベーションが(ビックデータの時代を迎え)スマート工場で極めて重要になってくる。
インテリジェント化の革新は未来永劫も続くのだが、ここで今回の本論である”インテリジェント工場とスマート工場との違い”を考察してみたい。
結論から言うと、スマート工場とは人間(熟練工)を超越し、人間の能力を超える予知・予見を可能とする工場である。シミュレーションとネットワークが真髄であり、増築される4階と屋上の役割がここにある。優れた熟練工の能力を超越し、人の能力では実現不可能な最適化を実現する4階建て工場が『スマート工場』である。インテリジェント工場が、熟練工の能力を超えなかった事と大きな違いがここにある。スマート工場実現の手段として、大企業では I4.0 の新規設備工場として進めることも可能であるが、中小製造業では、現在まで投資してきた設備を大切にして、段階的に設備拡充することが現実的である。イメージとして現在保有する設備(3階建工場)をベースに、4階に『仮想工場』、屋上にクラウドと世界に扉を開く『情報国際空港』を増築することである。
4階に増築する仮想工場とは、サイバー空間に作られるバーチャルな工場である。バーチャル工場と現実工場の最大の違いは、時間の概念である。仮想工場では時間を縮めたり伸ばしたり自由自在。何回でもトライすることが可能である。数時間かかる作業をほんの瞬間に行うこともできる。これがシミュレーションであり、シミュレーションとは、最適な答えを出すために何回でも時には何億回でも実行し、最適な答えを導き出すことである。この答えに従って、3階以下の現実工場で実際の作業を行う。これが、I4.0で提唱されるCPS(Cyber Phsycal System)の概念である。
次回はCPSを深堀りし、更なる詳細設計概念の提言をおこなう。

著者 高木俊郎
2015/02/03 【4階建スマート工場】の真髄は、シミュレーションとネットワーク
(以下は 2015年1月14日のオートメーション新聞 第24号に掲載された寄稿記事です)
【4階建スマート工場】の真髄は、シミュレーションとネットワーク
あけましておめでとうございます。
本年が日本製造業にとって『本格的な製造業復活の年』となることを心より祈願し、その具体的道筋を探求していきたい。
昨年に製造業界のイノベーションとして注目された話題は、第4次産業革命『インダストリー4.0 ( I4.0)』であった。専門紙や業界雑誌の記事に加え、欧州メーカの宣伝報道も積極的であり、インターネット上でも盛んに取り上げられた。経済産業省の産業構造審議会が小委員会を開き I4.0を取り上げたり、一般紙や経済誌も取材報道したことにより、業界の内外で注目されつつある話題となっている。本年も引き続きI4.0はIoTやM2Mのテーマと併せ、製造業での重要イノベーションとして進化していくことに疑いの余地はない。
しかし改めて I4.0 に関する報道や解説を読み返してみると、その内容が難しい技術的解説が中心であったり、提唱しているドイツの観点での解説が多く、実際に製造業を経営する日本の経営者にとって ”そのメリットと将来戦略につながる本質” を理解するのは容易ではない。
今回は、誤解を恐れず”ドイツ人の観点”ではなく “日本人の観点”で産業革命から始まる今日までの工業化の歴史を紐解き、ドイツの提唱するインダストリー4.0が示す 【サイバーフィジカルシステム (CPS)】を探求し、中小製造業『再起動』の道筋を提言したい。
I4.0は、第4次産業革命と呼ばれている。200年以上に渡る世界中の”工業化”の歴史を背景に、第4次の”革命”という大それた言葉で表現しているが、人類が歩んだ工業化の歴史を『何が革命であったか?』の観点で振り返ってみたい。
人類最初の工業化は18世紀の終わり頃、イギリスで始まった。歴史で学んだ”産業革命”である。水と水蒸気を動力に使った”機械”が開発され、人類初めての『機械化された工場』が誕生した。工業化の幕開けであり、これが第1次産業革命である。この革命によりイギリスを中心とする欧州は、100年に及ぶ繁栄と世界の覇権を手にする。
20世紀を目前にアメリカが急速に力をつける。動力源に”電気”を活用した工業化イノベーションに成功し、『機械と電気』が融合した。この工業化革命により『大量生産工場』が誕生する。20世紀前半50年以上に渡る”アメリカ工業化時代”の到来である。これを第2次産業革命と呼んでいる。
第3次産業革命は、戦後の日本で実現したオートメーション工場の誕生である。欧米の機械技術と電気技術のすべてを学んだ日本の技術者は、1970年代から台頭したNC(CNC)装置にPLC(プログラマブルロジック・コントローラ)やコンピュータなどの最新電子技術を融合し、先端的なデジタル工場、オートメーション工場を創造した。電子立国=日本の工業化革命により,『CNC装置とPLCとPC』が融合した。日本は世界の工場となり、日本製の工業製品は世界を席巻した。変種変量生産のオートメーションは今でも日本のお家芸である。この工業化革命が日本で花開いたことに誇りを持って、ドイツの提唱する第4次産業革命の本質論を理解していきたい。
第1次産業革命で”機械化”の1階建て。第2次産業革命で”機械と電気”の2階建。第3次産業革命で”機械と電気とPLC/PC”の3階建て。となった。歯車やギヤなどで動く機械は、2階建で ”0”と”1”の命令で動くビットコントロールに進化し、さらに3階建でプログラマブルな言語・文字や図形の命令で動く機械に進化した。工業化の進化は”機械の自由度向上”の歴史でもある。200年の歴史を経て””機械の自由度は何千倍にも増した。
第4次産業革命は、4階建てである。現在の3階建て工場の上に、インターネット技術をベースに仮想工場(サイバー)が増築される。”機械と電気とPLC/PCと仮想工場”の4階建て工場。これを【スマート工場】と呼ぶ。スマート工場の真髄は、シミュレーションとネットワークである。実生産の前に、仮想工場でCG動画や人工頭脳を駆使したシミュレーションが実施される。この結果に従い現実工場が生産を実施することにより、最高の生産性と究極の自由度を持った工場が誕生する。この4階建スマート工場では、ダイナミックセル生産も可能となる。変種変量生産における究極のオートメーション工場が誕生し、世界の覇権を握る製造業を自国に取り組むことが可能となる。ドイツ政府の狙いがここにある。
日本にも多くのチャンスがある。ドイツ提唱の第4次産業革命(I4.0)は、日本で成功する可能性が高い。日本の製造業は大企業から中小企業を問わず3階建てまでのデジタル化やオートメーション化が極めて進化しており、今日も世界の最先端にいる。また製造ノウハウなど現場のアナログ力は世界に秀でており、これらの優位性が今後の競争力の源泉になることは疑いの余地はない。この優位性を強力な武器とし、4階建への増築を実行することによって、日本は世界に先駆けスマート工場の実現を手中に出来る。製造業再起動の戦略がここにある。スマート工場実現には、I4.0の示す【サイバーフィジカルシステム(CPS)】が必須条件となる。
留意すべき点は、日本の製造業復活は中小製造業が鍵を握っているという事実である。I4.0の推進を革命の名のもとで破壊的に進めるのではなく、3階までの現有資産を大切にして4階への増築を段階的に実行しながら””4階建てスマート工場”を実現しなければならない。
補足になるが、スマート工場の実現はグローバル化も同時に実現する。その理由は仮想工場はインターネットを活用した”完全オープンシステム”で構成され、世界と共通言語で情報伝達を可能にする。具体的には、世界の発注元や協力会社あるいは遠隔地の自社工場との間で、動画/CAD/テキストなどあらゆるマルチメディア情報が双方向で接続可能となる。4階建ての屋上から、クラウドや世界が拓けるのである。
世界に発注元を求め、成長するアジア各国の企業と提携を結び、世界に羽ばたく新世代の企業展開を可能にするためにも、スマート工場の実現が不可欠である。
次回より【サイバーフィジカルシステム(CPS)】に焦点を当てて、屋上付き4階建てスマート工場の設計図を、提言していく。

著者 高木俊郎
【4階建スマート工場】の真髄は、シミュレーションとネットワーク
あけましておめでとうございます。
本年が日本製造業にとって『本格的な製造業復活の年』となることを心より祈願し、その具体的道筋を探求していきたい。
昨年に製造業界のイノベーションとして注目された話題は、第4次産業革命『インダストリー4.0 ( I4.0)』であった。専門紙や業界雑誌の記事に加え、欧州メーカの宣伝報道も積極的であり、インターネット上でも盛んに取り上げられた。経済産業省の産業構造審議会が小委員会を開き I4.0を取り上げたり、一般紙や経済誌も取材報道したことにより、業界の内外で注目されつつある話題となっている。本年も引き続きI4.0はIoTやM2Mのテーマと併せ、製造業での重要イノベーションとして進化していくことに疑いの余地はない。
しかし改めて I4.0 に関する報道や解説を読み返してみると、その内容が難しい技術的解説が中心であったり、提唱しているドイツの観点での解説が多く、実際に製造業を経営する日本の経営者にとって ”そのメリットと将来戦略につながる本質” を理解するのは容易ではない。
今回は、誤解を恐れず”ドイツ人の観点”ではなく “日本人の観点”で産業革命から始まる今日までの工業化の歴史を紐解き、ドイツの提唱するインダストリー4.0が示す 【サイバーフィジカルシステム (CPS)】を探求し、中小製造業『再起動』の道筋を提言したい。
I4.0は、第4次産業革命と呼ばれている。200年以上に渡る世界中の”工業化”の歴史を背景に、第4次の”革命”という大それた言葉で表現しているが、人類が歩んだ工業化の歴史を『何が革命であったか?』の観点で振り返ってみたい。
人類最初の工業化は18世紀の終わり頃、イギリスで始まった。歴史で学んだ”産業革命”である。水と水蒸気を動力に使った”機械”が開発され、人類初めての『機械化された工場』が誕生した。工業化の幕開けであり、これが第1次産業革命である。この革命によりイギリスを中心とする欧州は、100年に及ぶ繁栄と世界の覇権を手にする。
20世紀を目前にアメリカが急速に力をつける。動力源に”電気”を活用した工業化イノベーションに成功し、『機械と電気』が融合した。この工業化革命により『大量生産工場』が誕生する。20世紀前半50年以上に渡る”アメリカ工業化時代”の到来である。これを第2次産業革命と呼んでいる。
第3次産業革命は、戦後の日本で実現したオートメーション工場の誕生である。欧米の機械技術と電気技術のすべてを学んだ日本の技術者は、1970年代から台頭したNC(CNC)装置にPLC(プログラマブルロジック・コントローラ)やコンピュータなどの最新電子技術を融合し、先端的なデジタル工場、オートメーション工場を創造した。電子立国=日本の工業化革命により,『CNC装置とPLCとPC』が融合した。日本は世界の工場となり、日本製の工業製品は世界を席巻した。変種変量生産のオートメーションは今でも日本のお家芸である。この工業化革命が日本で花開いたことに誇りを持って、ドイツの提唱する第4次産業革命の本質論を理解していきたい。
第1次産業革命で”機械化”の1階建て。第2次産業革命で”機械と電気”の2階建。第3次産業革命で”機械と電気とPLC/PC”の3階建て。となった。歯車やギヤなどで動く機械は、2階建で ”0”と”1”の命令で動くビットコントロールに進化し、さらに3階建でプログラマブルな言語・文字や図形の命令で動く機械に進化した。工業化の進化は”機械の自由度向上”の歴史でもある。200年の歴史を経て””機械の自由度は何千倍にも増した。
第4次産業革命は、4階建てである。現在の3階建て工場の上に、インターネット技術をベースに仮想工場(サイバー)が増築される。”機械と電気とPLC/PCと仮想工場”の4階建て工場。これを【スマート工場】と呼ぶ。スマート工場の真髄は、シミュレーションとネットワークである。実生産の前に、仮想工場でCG動画や人工頭脳を駆使したシミュレーションが実施される。この結果に従い現実工場が生産を実施することにより、最高の生産性と究極の自由度を持った工場が誕生する。この4階建スマート工場では、ダイナミックセル生産も可能となる。変種変量生産における究極のオートメーション工場が誕生し、世界の覇権を握る製造業を自国に取り組むことが可能となる。ドイツ政府の狙いがここにある。
日本にも多くのチャンスがある。ドイツ提唱の第4次産業革命(I4.0)は、日本で成功する可能性が高い。日本の製造業は大企業から中小企業を問わず3階建てまでのデジタル化やオートメーション化が極めて進化しており、今日も世界の最先端にいる。また製造ノウハウなど現場のアナログ力は世界に秀でており、これらの優位性が今後の競争力の源泉になることは疑いの余地はない。この優位性を強力な武器とし、4階建への増築を実行することによって、日本は世界に先駆けスマート工場の実現を手中に出来る。製造業再起動の戦略がここにある。スマート工場実現には、I4.0の示す【サイバーフィジカルシステム(CPS)】が必須条件となる。
留意すべき点は、日本の製造業復活は中小製造業が鍵を握っているという事実である。I4.0の推進を革命の名のもとで破壊的に進めるのではなく、3階までの現有資産を大切にして4階への増築を段階的に実行しながら””4階建てスマート工場”を実現しなければならない。
補足になるが、スマート工場の実現はグローバル化も同時に実現する。その理由は仮想工場はインターネットを活用した”完全オープンシステム”で構成され、世界と共通言語で情報伝達を可能にする。具体的には、世界の発注元や協力会社あるいは遠隔地の自社工場との間で、動画/CAD/テキストなどあらゆるマルチメディア情報が双方向で接続可能となる。4階建ての屋上から、クラウドや世界が拓けるのである。
世界に発注元を求め、成長するアジア各国の企業と提携を結び、世界に羽ばたく新世代の企業展開を可能にするためにも、スマート工場の実現が不可欠である。
次回より【サイバーフィジカルシステム(CPS)】に焦点を当てて、屋上付き4階建てスマート工場の設計図を、提言していく。

著者 高木俊郎