2015/01/31 『ローカル企業の再起動』はデジタル化によるインテグレーション
(以下は 2014年12月3日のオートメーション新聞 第20号に掲載された寄稿記事です)

『ローカル企業の再起動』はデジタル化によるインテグレーション

インターネット時代の今日、スマートフォン(スマホ)の普及に想像を絶する”破壊的イノベーション”を感じるのは私だけではないはずである。スマホで急成長を遂げている中国の「小米科技(シャオミ)」を知らない人は少ない。2010年創業の新興企業(シャミオ)がアップル、サムソンに次ぐ世界第3位のスマホメーカーに踊りでた。創業4年たらずで一兆円企業になろうとしている。品質も高く、巨大企業を震え上がらせる価格戦略。SNS戦略を徹底し広告費を全く使わず、中国版ツイッター「微博」などの口コミ中心に、10月の新製品「Xiaomi Mi3」は用意した10万台を販売開始からわずか1分26秒で完売したと伝えられている。1年で1機種しか販売せず、しかも中国大陸市場だけで、ここまで成長するシャオミは、商品力もビジネスモデルも”破壊的イノベーション”の代表例である。
スマホが世に現れ、世界の景色が一変した。駅のホームでは電車を待つ多くの老若男女がスマホ操作に興じている。この景色は今や世界共通風景である。パソコンですらその地位をスマホに奪われようとしている。20年ほど前、国際線ラウンジや飛行中の機内で得意気にパソコンを開いている米国人の姿に ”IT時代の象徴” を感じたものだが、今やパソコン米国人もスマホ人間に変わってしまった。世界の洋の東西も温度差が薄まり、今はどこもスマホ社会、デジタル社会である。
一般社会がスマホによる劇的な変化が起きている一方で、製造業界の変化はどうなのか?IoT/M2Mやインダストリー4.0など製造業の未来が解説されているが、中小製造業にも当てはまるのか?今回は精密板金加工業界に焦点を当てて、ローカル製造業の再起動を考察する。

精密板金加工業界はニッチな業界である。加工された製品は、配電盤/制御盤、医療機器、工作機械カバーなど非常に広範囲な製品に使われるが、目立たない業界である。日本全体で年間4兆円程度の生産規模の業界に15000社以上の企業が存在する。従業員規模30名以下の企業が大半で、代表的なローカル企業が集積する業界である。この業界の特徴は変種変量生産で短納期が常態化しており、製造現場には卓越した熟練工がいる。個々の企業規模が小さいので、精密板金加工業界が話題になることは少ないが、この業界は20年以上前から最先端高性能マシンの普及と伴に ソフトウェアプログラム制御中心の“デジタル化” が普及した稀有な業界である。製造現場を視察すると一目瞭然であるが、町工場のなかでデジタル化やオートメーション化が非常に高い次元で実現している事に驚くはずである。変種変量生産のオートメーション化は決して容易ではないが、1日22時間以上7日間連続で稼働する機械も存在する。優れた熟練工も多くいるので、日本の精密板金加工は品質納期に於いてダントツの世界一水準である。
精密板金加工業界のデジタル化オートメーション化は、数十年前から始まった。パソコンとシーケンサの結婚。WindowsNTも板金加工業界に劇的な革新を与えた。製造現場には,(WindowsNTの)サーバや現場端末が活躍し, 多くの機械がネットワークで接続され、工場全体のネットワークも既に敷設されている。20世紀から粛々と進めてきた精密板金加工業界のデジタル化オートメーション化は、今後どこに向かったら良いのか?デジタル化での自社の差別化は?など、多くの成功した経営者も、疑問と不安で夜眠れないでいる。
その理由は、精密板金加工業界の現状に則した将来ビジョンを明確に提示する企業が少ないことが起因する。3DCAD/CAM、3D-pdf, インターネット、ロボット、センサー、スマホ、近距離無線, 等々 精密板金加工業界(特に中小製造業)を根底から支える有益新技術が山のように台頭しているにもかかわらず、これらの要素技術をどう活用したら良いか? が分からないのである。IoT/M2Mやインダストリー4.0の概念も抽象的であり、現状認識に即した提案は殆ど無い。
中小製造業の経営者にとって、今日まで投資した設備はすべて自社の「財産」である。日本精密板金加工業界15000社に10万台のパソコンと1万台以上のオートメーション用PLCが導入されている。NCも10万台近く設備され稼働している。これらのハード設備に加え展開図などリピート加工に必要な情報も総数で一億以上の電子データとして各社のパソコンのサーバーに保管されている。これらが全て財産である。絶対に捨てられない財産である。

今回は、精密板金加工業界を例にあげてきたが、各業界ごと特有の歴史や経緯と現状が存在する。今後の新たなるイノベーションには、現状と将来技術との【インテグレーション】が必須である。各業界に精通した丁寧なインテグレーションが無くては中小製造業の将来像を描くことは出来ない。
各業界に共通する”製造業再起動の絶対条件の一つは、『徹底したデジタル化オートメーション化の推進』。これがグローバルな【成長エンジン】であることに疑問の余地はない。しかし、中小ローカル製造業再起動には、【成長エンジン】と同時に【差別化エンジン】が必要である。各社が保有する現状の財産が【差別化エンジン】となることを忘れてはいけない。
イノベーションとは時として”破壊的”である。技術革新によって過去や今日が破壊される例は枚挙にいとまがない。スマホの台頭も破壊的イノベーションである。
ローカル企業の再起動には、『破壊的イノベーション』は極めて危険である。現在保有する設備やデータや製造ノウハウを【差別化エンジン】として大切にし、【成長エンジン】としての”グローバル新技術”をデジタル的にインテグレーションし、現状の問題の解決するアップグレードを繰り返しながら、結果として世界的競争力を持つ『真のスマート工場』を実現する事がローカル製造業再起動への道のりである。

次回は、真のスマート工場実現への足がかりとして、ドイツの提唱するインダストリー4.0が示す『サイバーフィジカルシステム (CPS)』を解析し、中小製造業での具体的実践について触れる。

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著者 高木俊郎
13:37 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2015/01/21 【差別化】【成長】の両エンジンでローカル企業再起動
昨年より、オートメーション新聞に記事を寄稿しています。
当ブログを参照して頂いている方々にも記事内容をお伝えしたいと思い、今後、寄稿する都度ブログ記事としてアップさせて頂きます。

(以下は 2014年11月12日のオートメーション新聞 第17号に掲載された寄稿記事です)

【差別化】【成長】の両エンジンでローカル企業再起動

去る10月21日から10月25日まで、ドイツのハノーバーで第23回国際板金加工見本市 ”EuroBLECH(ユーロブレッヒ)”が開催された。この見本市は、板金加工業界対象の世界最大級の見本市であり、今年も大盛況で閉幕。入場者数は6万人を超え、今年はドイツ国外からの来場者がかなり増加した模様である。

今、欧州での最大トレンドは、Industry 4.0であり、今年のEuroBLECHは欧州メーカーのIndustry4.0にかける熱意と具体的な実現を十分に感じた見本市であった。
特に欧州の主力機械メーカのブースでは機械の展示のみならずソフトウェアを駆使し ”大画面を使ったプロセス改善の提案”に力が入っていた。Industrial4.0の具体的提案であり、来場者から大きな反響を呼んだ。

ドイツ発のこのような最新トレンドを意識しつつ、日本の製造業に視点を移したい。
日本においても、IoT/M2Mの技術革新の話題は、日々取り上げられ非常に注目度の高いものとなっている。IoT/M2Mをイノベーションの中核に捉え最新技術の開発や実行に取り組む企業も数多く存在する。勿論ロボット大国として、工場のオートメーション化の推進にも日本は世界の最先端を進んでいるし、優れた技術者も多く存在する。
過去においても、日本の製造業のデジタル化やオートメーション化は世界で一番先行し、ドイツ、欧州各国は日本よりかなり遅れていたのも事実である。

しかし、残念ながら今日の日本製造業は少し元気がない。ドイツに優っているとは言いがたく、製造業ドイツ一人勝ちの雰囲気が世界を支配している。

何故であろうか?
ドイツのIndustrial4.0はドイツ官民一体の総合力の強さなので、このままでは「日本はドイツに勝てない」という危機感を聞くことも多い。またEUが統一された事でドイツは為替変動に左右されず周辺国への輸出に有利な事もドイツの強さとして指摘されている。
円高による輸出競争力低下で日本の企業体力が奪われたことも間違いのない事実である。
しかし、このような理由をいくら並べても、日本製造本格復活の出口は見つからない。

どうしたら日本の製造が復活するのか? 再び明るい未来に向かう道筋を考えてみたい。

結論から言うと、日本製造業復活には中小企業の再起動が鍵となる。
もう少し正確にいうと、ローカル企業の再起動である。大企業と中小企業そして零細企業というカテゴリー分けが当たり前のようになっているが、グローバル企業とローカル企業に分けたほうが、戦略が整理しやすい。
ローカル企業が”グローバルニッチトップ”(最近政府が提唱している)を目指すことが、日本製造業復活の戦略である。
すなわち、中小・零細と呼ばれるローカル企業が自社の持つ熟練工の技術=アナログ技術を武器に、最新技術によるデジタル化やオートメーション化を導入し、世界に扉を開くこと(海外に工場進出することではない)である。
日本お家芸の熟練工のアナログ技術が「差別化エンジン」であり、世界に通じるデジタル技術での世界市場進出が「成長エンジン」となる。「差別化」と「成長」の両翼エンジンが、ローカル企業再起動の青写真である。
ローカル企業は、いままで大企業から仕事をいただく(いわゆる系列)で成り立ってきたので、技術はあっても営業に弱いのが現実である。
ローカル企業の再起動には、国際商人(あきんど)の要素を付加しなければならない。

大企業は、今後もグローバル企業として世界で戦い、勝ち続けなければ生きてはいけない。これは、グローバル企業の宿命である。新興国においても中国や韓国のメーカと戦わなくてはならない。今の日本は、史上最高の利益を吐き出す大企業もあるが、負け戦のグローバル企業もあるので、日本国中に閉塞感が漂ってしまう。日本中のローカル企業が、負け企業に寄りかかっていたら、皆総崩れとなってしまう。

ローカル企業は、グローバル企業と違い世界市場で戦う必要はない。
ローカル企業は、ローカルの特性を活かし再起動することで、世界中の企業に必要とされる企業に変身できる。
日本の優れたローカル企業が、再起動により新たな成長エンジンを手にする事こそ、日本製造業の再復活であると確信する。

次回より、再起動をテーマを更に深堀していきたい。

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著者 高木俊郎
10:54 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
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