2023/04/19 上智大学の惨状『不人気の外国語学部』ーー【欧米からアジアへ・開花する『第四次産業革命』】ーー
以下は 2023年4月19日のオートメーション新聞第324号に掲載された寄稿記事です)

上智大学の惨状『不人気の外国語学部』


欧米からアジアへ・開花する『第四次産業革命』




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筆者の事務所は東京・日本橋にある。コロナで傷ついた都心の姿も、徐々に回復している。外国人観光客も増え、ホテル満室率が上がり、宿泊代も急騰している。昼食時には、街中がサラリーマンであふれる光景が、都心が正常に戻っていることの証明である。ある日、昼食時のレストランで、隣に座ったサラリーマンとおぼしき熟年男性4人の会話が聞こえてきた。

『最近、街に外国人が増えてきたね』『白人が多いな』『白人で良かったよ。中国人には来てほしくない』と言っていた。『欧米人を歓迎する一方で、中国人や韓国人を避ける』という偏見は、よく聞かれる話である。ところが、これらの偏見は深く考えずに生じた場合が多い。政治衝突のテレビ報道やちょっとした外国人との出会いから、漠然と「好き嫌い」を決めつけていることが多く、熟考することで、国籍に偏見を持つ危険性に気がつくはずである。

ここに大変興味深い記事がある。雑誌「選択4月号」に、上智大学外国語学部の人気が急落している記事が載っている。上智大学外国語学部の人気凋落を具体的な数字を持って示し、欧州言語、特にドイツ語学科とフランス語学科、および英語学科の不人気を報じている。かつて「ソフア・イルージョン(上智幻影)」の象徴として、受験生に畏敬の念をもたせる特別性は、「欧米崇拝の消滅とともに衰退」との見方ができる。

記事中では「優位性の喪失と陳腐化」という強烈なタイトルをつけて上智大学外国語学部「衰退の惨状」を解説している。この記事は続けて、「欧州よりアジアの言語」との副題で、アジア言語も学科としてそろえる「神田外語大学」を例に取り上げ、英語・スペイン語・ポルトガル語の凋落、韓国語・中国語・タイ語・ベトナム語の人気上昇を指摘している。今や、全国の大学で第二外国語の一番人気は、圧倒的に韓国語と中国語である。

昭和時代に、第二外国語といえば、ドイツ語・フランス語が双璧であったが、今やドイツ語・フランス語の泡沫(うたかた)は顕著である。ここから見えるのは、『アジア時代の到来』を確信する若者たちの鋭い洞察力である。1990年代以降、日本経済はアジアを消費市場として急速開拓した。特に中国では、生産拠点の進出に加え、巨大な消費市場としての役割を担ってきた。

日本の製造業を取り巻く環境は、欧米中心時代からアジア中心時代にシフトしているのは明白である。欧米崇拝は古き日本人の象徴となりつつある。製造業では、10年前からドイツのインダストリー4.0が現代の黒船として日本に来航した。米国のインダストリアル・インターネットなども日本で紹介され、日本製造業のデジタル化への遅れが強く指摘され、インダストリー4.0崇拝、欧米崇拝が闊歩した。

2018年には経済産業省が、DXレポートを公表し、日本中に「DXブーム」が巻き起こっているが、話題だけで実践に欠けていると言わざるを得ない。ここで改めて、産業革命の歴史を振り返ってみたい。数百年前に大英帝国で始まった産業革命は、キャラコというインド産綿製品の機械化に成功した。人類初の「機械の誕生」である。

産業革命の勢いは、ドイツ・フランスに波及し、白人による世界支配、大英帝国による世界覇権も始まった。第二次産業革命は、米国で起きた「電気の誕生」で、大西洋を超えて世界に広がった。電気を使う製造工場の誕生である。生産性は飛躍的に向上し、世界覇権も大英帝国から米国に移った。第三次産業革命は、太平洋を渡り、わが日本につながる。自動化工場の開花である。

日本は『Japan as №1』と言われた黄金時代がやってきた。太平洋を中心に、世界の製造業におけるイノベーションが進展した。第四次産業革命は、どこの国で起きるのか? ドイツのインダストリー4.0、米国インダストリアル・インターネット、中国製造2025、日本のソサエティー5.0など、各国が製造業界の覇権を争う中、第四次産業革命は「インド洋周辺国」で開花すると見られている。

「大西洋」から「太平洋」、そして「インド洋」へ……。「産業革命世界の旅」は、これまでの歴史が物語るように、次なる展開を迎えることになるだろう。インド洋周辺国は、インドを始め、オーストラリア・ニュージーランドから中東、アフリカ諸国、東南アジア各国など若いエネルギーに満ちあふれている。

勿論、欧州文化や日本文化、そして米国の強烈なパワーが消滅することはないが、インド洋周辺国の国際進出は、今後ますます加速することが予想される。日本が取るべき道は、欧米崇拝に偏りすぎず、偏見をなくし、世界中の若いエネルギーと協力し、新しい時代に対応することである。これが、日本を成長軌道に乗せるための唯一の道だと考える。












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著者 高木俊郎
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2023/03/29 アジア急速発展企業の衝撃『日本は製造先進国?』ーー【このパラダイムが崩れるとき】ーー
以下は 2023年3月29日のオートメーション新聞第321号に掲載された寄稿記事です)

アジア急速発展企業の衝撃『日本は製造先進国?』

このパラダイムが崩れるとき




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今年の日本の製造業を総合的に見ると、円安効果やコロナ終息に伴う影響もあり、国内の生産高は増加傾向にある。しかし、鋼材価格や電気代の高騰、人材不足により日本の中小製造業は盛り上がりに欠けている。また、中小製造業のDX化による成長エンジンが本格点火しているとは言い難い。

筆者は、昨年から今年にかけてタイ・インドネシアなどアジア諸国を歴訪し、衝撃的な成長企業の存在を知り驚愕した。日本では想像し難い「アジアの急成長企業」見聞の一端をご紹介したい。具体的な見聞ご報告の前に、グローバル製造環境の変化と、日本の中小製造業の課題を再点検してみたい。

日本の中小製造業は、戦後創業の企業が多い。創業時点では技術的に欧米より遅れをとっていたが、日本独特の「すり合わせ型ものづくリ」により、欧米に追いつき追い越し、日本のものづくりは世界を席巻し、Japan as №1と呼ばれた1970年代・80年代の黄金時代を迎えている。

70年代に台頭した国産の数値制御機械(NC機)が大きく貢献しており、『最新機械を導入すれば儲かった』そんな時代でもある。ところが、85年プラザ合意以降の円高影響で、日本の完成品メーカーの国際競争力は低下し、日本は失われた30年に突入。日本に代わって中国や韓国の黄金時代が始まった。

2020年からの世界的パンデミックにより、国際的ものづくり環境は再び大変化した。コロナ禍の最中に勃発したウクライナでの戦争も、国際社会に劇的な影響を与えている。欧州ではエネルギーコストが暴騰し、製造業に致命的な打撃を与える一方で、ドル高が急速に進み、グローバルのパワーバランスに大きな変化が生じている。

順調であった中国も、コロナ施策や米中摩擦の影響により、中国経済は疲弊している。日本の製造業は、円安による国内製造メリットが生まれているが、なぜか明るい話題は少ない。アジアの製造業も、金利高やコストプッシュインフレの影響で、バラ色環境とは言い難いが、特筆すべきは、『日本では想像し難い急発展企業』が台頭している。


筆者が最近訪問した企業から、3社の驚異的成長企業を紹介する。はじめにタイのジンパオ社。従業員1000人を擁する精密板金製造業の会社である。コロナ禍の間に、米国アマゾン社のサーバーラック製造やデルタ社の搬送機器製造を一括受注し、この仕事をこなすために大規模工場に拡張して塗装ラインを増設。

加工設備は、中国製の汎用ロボットを百台以上導入し、プレス機に装着した自動化システムを独自設計してすでに運用している。工場全体のデジタル化・DX化はほぼ完了しており、作業員一人一人の作業実績が見える化され、給与の評価システムにも連携している。コロナ禍の間に実行した施策の成果により、売り上げ・利益とも創業以来のレコードを更新している。

ジンパオ社の社長であるジョン氏は『コロナ禍は、弱い企業をますます弱くし、強い企業をますます強くした』と語っている。今後の方針は『徹底的な自動化とDX化。どこにも負けないスピードで徹底投資を続けていく』と語っている。次にインドネシアでトラックなどのブラケットを製造する大熊製作所。埼玉県に本社を構える日系現地工場である。

この会社の経営方針は現地化。『現地で受注し、現地で作る』をモットーにしているが、経営陣の判断で大きな加工のできる工場に移転。他社のできない大型部品を中心に受注を広げ、毎年20%~30%の成長を実現し、売り上げ規模も年商20億円に迫っている。社長のコメントは『日本のやり方を押し付けない事』。現地化されたDX化にも積極的に挑戦し、急成長を果たしている。

最後にインドのヘミエール社。クリーンルームなどを設計製造する会社である。私が以前訪問したのは19年で今年久しぶりに訪問したが、企業は急拡大。3年前に400人程度の会社がたった3年で、従業員数が2倍になっている。新規顧客もどんどん増えており、成長スピードが止まらない。3次元設計をベースに高度なDX化を推進している。社長のラオ氏は、『インド経済は勢いがついてきた。

当社のこれからの3年は、以前の数倍のスピードで成長するだろう』と力強いコメントをしている。コロナ禍の3年間でグローバル環境は激変している。アジアの驚異的な発展企業を目の当たりにし、衝撃を覚えると同時に、日本の中小製造業も真のDX戦略を実践し、ものづくり国家の威信を取り戻す必要性を痛感する。日本が先進国でアジアは新興国。このパラダイムの逆転を考えたくないが、そのリスクが確実に存在することを、私達は認識しなければならない。










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著者 高木俊郎

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2023/02/22 中小製造業の『茹でガエル』ーー『ChatGPTの驚異』ーー
以下は 2023年2月22日のオートメーション新聞第318に掲載された寄稿記事です)

中小製造業の『茹でガエル』





『ChatGPTの驚異』」






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「二極化」という言葉が流行語となった時代がある。「勝ち組・負け組」と呼ばれ、業界構造を表現した言葉であるが、今はそんな甘い時代ではない。2023年は、中小製造業にとって「消滅か? 発展か?」を決める分水嶺(ぶんすいれい)の年である。分水嶺とは、山で降った雨が日本海に行くか、太平洋に行くかの分岐点となる場所のことをいうが、中小製造業にとって、23年は将来の行末を決める年となる。

今年が分水嶺である理由は、世間では極端な人材不足が常態化しており、この対応を間違えれば、どんなに設備投資が進んだ企業においても、消滅は必至である。人材不足の対応に、外国人労働者、技能実習生の活用を重視する中小製造業の経営者は多い。経営者に限らず、政治家や政府関係者でも外国人労働者の導入に積極的な考えを持つ人は非常に多く、大企業や経団連も外国人依存を望んでいる。

この背景には、メディアをはじめ共通価値観として「現場労働者がいない」「現場労働者が採用できない」といった現実に焦点があたっている。もちろんこれも正しい現実ではあるが、中小製造業を襲う人手不足は現場の作業員のみならず、ホワイトカラーの人材不足が企業存続の危機的レベルに到達している。

ホワイトカラーとは、社長・経理担当の奥さまやプログラマーや工場長レベルのエキスパート(米国ではフォアマンと呼ぶ)が対象であるが、日本の中小製造業では、この点が軽視され「人材不足=現場作業者」との一辺倒な価値観に支配されているのは悲劇である。筆者のホームグランドである精密板金業界では、この傾向が一段と強く、後継者がいない企業が半数を超えているという現実がある。

また、奥さまに代表される身内で固められた事務所作業(受発注業務や経理業務など)は、(受注増加で)混迷を極めている企業が多く存在する。この現実を直視し「中小製造業の輝かしい発展」を模索すると、AI(人工知能)、RPA(ソフトロボット)などの最新技術を活用した「ホワイトカラー・アシスタント」導入の重要性が見えてくる。

ところが、多くの中小製造業では、30年以上前の『最新機械を買えば儲かる』という、パラダイム(一般常識)に支配され「人の希少化」に対応できない経営者が多く存在する。『茹でガエル』とは、外部環境の変化を感じることができずに、死んでしまう『カエル』のことを表現しているが、不幸なことに中小製造業の経営者の多くに『茹でガエル』の危険が忍び寄っている。

具体的に『茹でガエル危機』をはらむ経営者を紹介しよう。過去の成功体験を前提に「RPAやAIの活用を疑う人」……このような経営者が重度な『茹でガエル』と診断できる。「DXの導入決定を優柔不断で決断できず、現場作業者に(導入判断を)任せる経営者」も『茹でガエル』。消滅軌道を歩む代表例な経営者である。

AIやRPAの進化は目覚ましく、3~5年後の未来になっても、AIやRPA、そしてクラウドを使用しない企業が消滅するのは当然の成り行きである。今年のお正月早々に、人工知能の応用例を示した世界的大事件が起きた。『ChatGPT(チャットGPT)』である。ChatGPTとは、米国のOpenAI社が開発した新たな人工知能エンジンである。

Googleなどの現状AIとは水準が違い、人工知能が知見を持った会話に応じてくれるので、驚きの話題になっている。無償で全世界に提供し、何百万ダウンロードの大反響となっている。『茹でガエル』を避けようと思う読者の皆さまには、ChatGPTをダウンロードして、自らが体験し、人工知能の現実と未来社会を想像することをお薦めする。

ChatGTPの詳しい解説は、インターネットなどで多くの情報が得られるので、この紙面では省略するが、この流れを知らない経営者は『茹でガエル』必至である。中小製造業のホワイトカラー人材不足に外国人労働者は無力であるが、ChatGPTなどAIの先端技術がこの課題解決を実現する可能性を秘めている。

当社アルファTKGにおいても、インド・チェンナイにある開発センターにおいて、ChatGPTの人工知能エンジンを活用し、見積もり作業や工程設計など難易度の高い業務をアシストするシステムを開発し、商品化の準備を進めている。ベテラン技術者(エキスパート)の知見を基にした支援システムであり、驚くほどの成果が期待できると予想される。

ホワイトカラーの人材不足に対応する打ち手として、AIやRPAが絶大な効力を発揮することに疑いの余地はない。この最新技術を導入する企業が勝利を勝ち取るのは当然のことである。分水嶺にあって、どちらの道を歩むかは経営者の『茹でガエル指数』にかかっている。















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著者 高木俊郎
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2023/01/25 2023年中小製造業の吉凶ーー【『天気晴朗なれども波高し』DXが貢献する事実物語】ーー
以下は 2023年1月25日のオートメーション新聞第315に掲載された寄稿記事です)

​​2023年中小製造業の吉凶


『天気晴朗なれども波高し』DXが貢献する事実物語』



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あけましておめでとうございます。世界的にコロナ禍は終息に向かっており、昨年の年明けと比較すると、世の中のコロナに対する警戒心には雲泥の差がある。やっと活況を取り戻しつつある良い雰囲気のお正月である。久方ぶりに開催の賀詞交歓会も盛り上がりを見せており、筆者も多くの方々と賀詞交歓会でお会いし、勇気づけられるコメントを多数頂いた。

今回は、製造業界の内外環境を踏まえ、中小製造業界の予測を立てつつ、今年の中小製造業の吉凶を占ってみたい。2023年のキーワードは『天気晴朗なれども波高し』である。今年は総じて受注環境は晴天である。『天気晴朗』、多くの中小製造業は過去にない受注に見舞われるであろう。

自動車のEVシフトによる自動車エンジンの製造衰退など、悲観的な報道も目につくが、円安基調を背景とした「リショアリング(製造の日本回帰)」などにより、中国はじめ諸外国から膨大な仕事が日本に回帰するので、中小製造業には有史以来の膨大な受注が舞い込んで来るのは明白である。

ところが『天気晴朗』といって浮かれているのは危険である。「人手不足」という深刻な課題が存在し、多くの中小製造業がこの課題に直面すると思われる。昨年22年、突然の円安に襲われた。諸物価高騰など、生活圧迫が連日のごとく報じられる一方で、完成品メーカー・大企業は好決算に沸いている。

円安はメディア報道の通り、電気・ガスなどの値上げによる「コストプッシュ・インフレ」により庶民の生活を圧迫する悪影響を否定できないが、1985年のプラザ合意以降、30年以上にわたり苦しめられた円高が、突然霧が晴れるように消滅したことの意義は極めて大きい。今年は、海外に流出した仕事が日本に本格還流する元年となる。

特に中国は、すでに国際的サプライチェーンの製造立国としての地位を失っており、日本企業の中国撤退や日本への製造回帰は必須となった。この傾向は昨年から始まっており、多くの中小製造業はこの流れを察し、国内生産の強化を経営方針とし、国内工場の生産性向上への打ち手を講じている。

この事実を裏付ける興味深い事実がある。日本鍛圧機械工業会は、22年の鍛圧機械の受注実績は、『前年比12.5%増と2年連続増加となり、(過去最高額の)18年に匹敵する高いレベル』と発表した。日刊工業新聞はこの発表をうけて、『コロナ禍からの回復鮮明』『鍛圧機械受注最高額に匹敵』と大々的に報道。補助金での押し上げ効果にも言及しつつ、今後の動向にも楽観的な報道をしている。

昨今の日本には、なんとなく不景気ムードがある中で、昨年『過去最高水準の設備導入が行われた』という発表に驚愕し、イメージとの違いに当惑される御仁も多いと思うが、これが事実である。では日本の中小製造業は、最新マシンの導入で明るい未来が待っているのか? と問えば、その答えはNOである。

『最新マシンを導入すれば経営は安泰』など、そう簡単に問屋は卸さない。少子高齢化により、労働人口の減少は顕著であり、中小製造業の「人手不足」は深刻である。どんなに受注が増えても、最新マシンを導入しても人材なくして成り立たない。人材不足の『波高し』である。数年前、移民法改正を背景に外国人労働者の活用が話題となり、『積極的に外国人労働者を活用しよう』とする風潮が中小製造業に蔓延したことがある。

このトレンドはコロナ禍によって下火となったが、冷静に考えれば、今日の中小製造業の人手不足は外国人労働者で解決できるほど簡単な問題ではない。ここで、筆者が直近で出会った事実を紹介する。静岡県のM社。社長と奥さまに将来の後継者の息子が経営する家族的中小製造業。従業員30人の金属加工の会社である。

昨年はコロナや鋼材価格の高騰で苦しめられたが、近隣の発注元から大量の受注案件が舞い込んだ。とてもうれしい悲鳴であるが、社長の奥さまが仕切っている事務所が大パニックに陥り、工場操業が悪化した。この苦境をDXにより克服した物語を紹介する。事務所では、受注処理や工場への指示書の発行から売上処理と請求書発行・経理処理など、広範囲にわたる仕事をこなしているが、従来のキャパシティーを超える業務が増え、残業が常態化する事態となっており、人材採用を試みても結果は採用ゼロ。

事務所はギリギリの状態で仕事をこなしていた。さらに大量の新規案件が舞い込んだ直後、不幸にして奥さまがコロナに罹患した。事務所は大パニックとなり、工場への指示書も発行できず、工場が稼働できなくなった。事務所の人手不足が招いた災難である。しかしM社では、現在RPA(ソフトロボット)を活用し、事務所工程の大幅省人化を推進し、大成功を収めている。23年の『波高し』の克服は、RPAなどの最新技術活用におけるDX化に実現に尽きる。DX化とは、まさにベテラン人材のアシスタントを、担う仕組みの構築である。













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著者 高木俊郎
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2023/01/12 新年特別寄稿 中小製造業の再起動ーー【チャンスを活かす2023年 『天気晴朗なれども波高し』】ーー
(以下は 2023年1月11日のオートメーション新聞 新年特別号に掲載された寄稿記事です)

新年特別寄稿 中小製造業の再起動




ーーチャンスを活かす2023年
『天気晴朗なれども波高し』ーー


序文・・日露戦争の教訓

ロシアのウクライナ侵攻が世間を騒がせている。実態は、米国・ロシアとの代理戦争との声も多いが、約120年前にも似たようなことが起きている。日本が当事者となった「日露戦争」である。日本はロシアとの死闘を演じたが、裏に控えていたのは米英である。時代は明治の後半。対馬沖の日本海で、日本とロシアの海戦「日本海海戦」が勃発し、日本連合艦隊が勝利した。

歴史をひもとくと、当時のロシア・バルチック艦隊は、戦艦11隻と巡洋艦など計38隻の巨大艦隊で ある。向かう日本連合艦隊はたったの戦艦4隻。日本の勝利を予想する国はどこにもなかったが、結果はバルチック艦隊は全滅。半面、日本連合艦隊はほぼ無傷、という驚愕の結果が世界の歴史に刻まれた。

この戦争結果は偶然ではなく、緻密に練られた日本連合艦隊の戦術的成果である。その詳細は割愛するが、その要因は『個々の力ではなく総合力』の勝利であり、『最新電子技術の活用』の力であることが、歴史上の史実として解説されている。日本連合艦隊の勝利には、中小製造業のこれからの経営に通じる貴重な教訓が潜んでいる。

今回は、2023年の新年特別号としてこの教訓をベースに中小製造業の勝ち残りの『戦略・戦術』を論じていきたい。大型戦艦は大企業に例えることができる。戦艦の周りを囲む巡洋艦などの小型艦が中小企業である。巨大な大企業と言うべき大型戦艦は、すごい攻撃力と防衛力を有する半面で動きが鈍く、大砲を一発打つにも時間がかかる。

ところが、小型艦は動きが速い。戦艦で劣る日本連合艦隊は、巡洋艦の早期建造に着手した。防衛力は弱いが建造までの時間を優先し、日本郵便の船を改造し、数をそろえることを優先した。その結果、高速巡洋艦などを加えた小型艦の数がそろい、素早い動きができる日本連合艦隊が形成された。

日本連合艦隊は、大企業を頂点とするピラミッド構造の「系列」によく似ている。日本連合艦隊はなぜ強かったのか?この理由に、中小製造業の経営に必須となる教訓がある。

明治時代のDX

その答えは、『日本連合艦隊は、最新技術を駆使した唯一の艦隊であった』という事実である。現代用語で言えば『DX艦隊』である。日本連合艦隊は無線通信技術によるDX化の実現で、艦隊としての『つながる』の実現し、無駄のない攻撃を繰り返す『総合力』によって勝利した。日本艦隊は世界で最初の『DX艦隊』である。

当時、どの海軍でも無線通信装置を積んではいなかったが、日本連合艦隊は、駆逐艦以上の全艦船に国産の「三六式(さんろくしき)無線通信機」を搭載し、連携を取りながら戦いを遂行した。無線通信技術は、当時の最先端技術である。マルコーニが大西洋横断無線通信に成功したのは、この海戦の4年前。

たった4年間の間に、国産の「三六式無線通信機」の開発・量産に成功し、日本海海戦時にはすでに各艦船に装備し運用されていた。世界的に驚愕する事実である。現在の中小製造業も、DXなくして勝てるはずがない。

天気晴朗なれども波高し

『天気晴朗なれども波高し』は、日本海海戦前夜の気象予測である。この予想をもとに、高い波を生かした小型艦活用戦術を練って海戦にのぞんだ。明治時代の中央気象台のレベルの高さにも驚くが、気象という外部環境を的確に予測し、小型艦の優位性を最大限に発揮する『丁字戦法』を決断し実行した、日本海軍の実行力には脱帽である。波が高いと、動きの鈍い巨大戦艦より、動きが速い小型艦が有利。

巨大戦艦は、巨大砲を打って修正するのに時間がかかり、高い波では威力が発揮しづらい。半面、日本連合艦隊は小型艦での高速連続掃射の戦術で勝利を得ている。外部環境を予測し対応することの重要性をあらためて認識させられる歴史的事実である。激動する23年において、中小製造業の経営判断にも、外部環境を的確に捉える目が必要である。ここからは、外部環境を俯瞰(ふかん)的に捉え、中小製造業の23年トレンドを予測する。

2023トレンド予測①
『天気晴朗』
※再起動の絶好のチャンス到来

23年の日本の製造業を取り巻く環境は、明らかに『天気晴朗なれども波高し』である。中小製造業には再起動のチャンス到来である。40年近くの月日を経て、日本には超円高不安が一掃された。コストプッシュによるインフレ加速など、庶民生活を直撃する悪弊はあるものの、輸出構造をもつ完成品メーカーは、円安差益による恩恵で好決算が続いている。

23年は、米中の景気悪化で国際経済にはブレーキがかかるものの、日本国内ではさらに需要が増大するだろう。円安によりプラザ合意以降40年近く続いた「製造の海外移転」の巻き戻しが始まっている。リショアリング(製造業の国内回帰)の本格化である。また完成品メーカーは、半導体などの調達問題で、製造できず多くの受注残を抱えている。23年は、国内製造の需要が増大し、高水準の受注環境が続く年となる。『天気晴朗』に疑いの余地はない。

2023トレンド予測②
『波高し』
※変化の津波・パラダイムシフト

「天気晴朗」を手放しで喜ぶのは早計であり、「波高し」の危機がある。昭和の高度成長時代は、「天気晴朗・波低し」であった。受注量が増え『最新マシンを買えばもうかった』時代であるが、そんな時代はとっくに消滅している。『仕事が増えたら機械を買えば良い。それでもうかる』という『かつての常識』は、今は通用しない。


変化の津波をパラダイムシフトと表現しても良いが、その最大の要因は「人手不足」である。熟練工人口は急速に減ってくる。熟練工に依存した「ものづくり」は終焉する。昭和は『機械が希少価値』、そして今は『人が希少価値』である。

2023トレンド予測③
『外国人労働者の危機』
※大量退職に悩む社長様

深刻な人手不足は、外国人労働者では解決しない。人手不足の現象は今日(こんにち)も起きているが、23年からはさらに深刻な課題となる。米国の製造業にはフォアマン(foreman)と呼ぶ専門職が必ずいる。企業によっては、スーパーバイザー(superviser)と呼ぶ場合があるが、日本では作業現場の管理を行う班長さんと同じポジションであるが、職務分掌が全く違う。

米国のフォアマンは、(素人の)作業者が仕事のできる環境を作る役割であり、移民労働者などを2シフト、3シフトで働かせる環境を作り出すのが仕事である。作業段取りを工夫し、実際に段取り作業を行う。加工の実作業をするのは、あくまで作業者であり、フォアマンは「段取り」だけ行う。ところが日本では、班長さん・ベテラン社員から新入社員、そしてアルバイト・外国人労働者まで皆が実作業に従事する。

社長や工場長が現場の実作業を行う企業も不思議ではない。この仕組みでは、これから人手不足がますます深刻化する。日本は単純労働者(素人)を使って製造現場を運営する環境がない。長年続いた日本の中小製造業の労働形態はすでに崩壊している。これを解決しない限り、ある時に「大量退職」、そして新規採用も絶望。23年にはこれに悩む社長様が増殖する。

2023トレンド予測④
『機械イノベーションの終焉』
※最新機械を買っても
もうからない企業が続出

機械の進化トレンドに触れてみたい。精密板金業界では1970年初頭にアマダでNCタレットパンチプレス(通称タレパン)が開発され、70年代・80年代に爆発的に売れ、タレパンが市場に定着した。この機械の生産性向上は驚異的で、従来比の10倍以上を誇っていた。当然導入した企業の生産性は急上昇し、もうかる機械として市場に大いに貢献した。以降90年代に入って、レーザ加工機のイノベーションが本格化し、現在に至っている。

ところが近年、マシンのイノベーションが足踏み状態である。旧型機の入れ替え需要は活発であるが、古くなってメンテナンスができないので入れ替えるといった非積極的な理由が多く、機械を入れ替えても大きな生産性向上に貢献しなくなった。機械のイノベーションが足踏み状態なので、機械の入れ替え・増設では企業発展は望めない。

2023トレンド予測⑤
『量産・大型化の潮流』
※多品種少量・短納期だけでは通用せず

今日まで、日本の中小製造業は「多品種少量生産・短納期」を旗印に、徹底したQCDを実施してきた。『Just In Time』は日本のお家芸として、自他ともに誇りを持って発展したのも事実であるが、その後遺症として「量産」に対応できない中小製造業が多く存在する。23年は、リショアリングを背景に、海外で生産していた「量産」まで日本に戻ってくると思われる。

QCDの、Q(品質)とD(納期)に心血を注いできた日本のものづくり遺伝子は、今後の差別化の要因ではあるが、C(コスト)を意識した「量産」の仕事が増大するトレンドがある。また、半導体製造装置を代表に、製品の大型化が進んでおり、中小製造業に委託される仕事も大型化のトレンドが起きている。

2023トレンド予測⑥
『見積パニック』
※転注の横行

大手完成品メーカーは、大なり小なり海外依存度があるので、22年の円安差益の影響を受けて、史上空前の好決算に湧いている。ところが、新製品や新規市場の開拓など企業努力でつかんだ好決算ではないので、企業体質は変わっていない。にもかかわらず、新規の見積もりが増大している。その背景は、鋼材や原材料の高騰で、下請け各社から値上げ要求を受けている完成品メーカーでは、値上げに応じる半面で、新規の外注探しに躍起となっている企業が多く存在する。

転注(てんちゅう)とは、『注文を競合会社に転じること』のビジネス用語であるが、23年は転注の横行トレンドがある。中小製造業には膨大な見積もり依頼が蔓延しており、見積パニックは23年の重要なトレンドである。

2023トレンド予測⑦
『中小製造業の淘汰』
※廃業、その半面で急成長企業が続出

10年後に半数の中小製造業が消滅する。倒産ではなく消滅である。倒産とは、借りたお金を返せないとか、買った品物の代金を払えない、税金や給与が払えない、となり、経済活動を続けることのできない(資金ショート)となる「経営破綻」を指す。昔は、多くの倒産があったが、これからは廃業・M/Aなどで消滅していく企業が激増する。その理由は人手不足や後継者不足が原因である。一方で、積極的な企業展開を行い、どんどん発展させる企業が台頭する。二極化という言葉がかねてより使われてきたが、存続のできない企業と急成長する企業に分かれる二極化は、淘汰(とうた)の始まりを意味する。23年は淘汰元年である。

2023トレンド予測⑧
『デジタル5Sの普及』
※DXの1丁目1番地

23年は真のDX実施年である。その背景には、人類の英知を絞った最新技術を中小製造業が活用する環境が整った事実を認識しなければならない。その技術とは、①インターネット②クラウド③RPA④AIである。DXを解説する専門家は、デジタルツインとかVR(バーチャルリアリティ)など、さまざまな最新技術を紹介しているが、23年の中小製造業には不要である。前述の4つの技術の活用は、中小製造業に即利益につながる特効薬である。

まとめ

山に降った雨が、太平洋に流れるのか、日本海に流れるのかの分岐点を『分水嶺(れい)』と呼ぶ。中小製造業の経営においても『分水嶺』が存在する。未来の方向を大きく変える節目である。23年は『分水嶺』の年である。再起動による成長軌道に乗るか、衰退軌道に乗るか、重要な分水嶺である。その決めては『DX』。DXしないと消滅軌道。DXの実現こそ23年の最優先経営課題である。






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著者 高木俊郎
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