2019/08/28 令和時代の製造業の発展戦略再びーー『グローバル化と失われた30年』ーー
以下は 2019年7月17日のオートメーション新聞 第188号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の製造業の発展戦略再び
ーー 『グローバル化と失われた30年』 ーー

バブル崩壊から30年が過ぎ去った。かつて『失われた10年』と呼ばれた日本経済の悲劇は、10年を過ぎても続き、今日の若き日本人から「何が失われたのか?も分からない」と言われても不思議ではないほどバブル時代は遠い昔のこととなった。

平成元年の頃、世界経済の頂点に君臨していたのは日本企業であった。世界の時価総額ランキング上位50社に、日本企業の35社がランクインし、日本は光り輝いていた。たったの30年が経過した平成の最後、世界の経済界から日本企業の姿は消えた。

令和にバトンが渡った現在、上位50位にランクインできる日本企業はトヨタ1社であり、それも35位。かろうじて入っているのみである。日本企業の労働生産性も低く、先進国最低となってしまった。事実、平成時代は名実ともに『失われた30年』である。

「失われた30年、失ったものはなにか?」その答えは、日本人の「自信」と「誇り」。そして世界から羨まれる「日本の力(国力)」と「日本の信頼」である。

なぜこうなったのか?この原因を究明すると、「グローバル化」というキーワードに踊らされた日本企業の不幸が浮き彫りになってくる。

バブル崩壊で、自信を失った日本の大多数の経営陣は、政治家やメディアが掲げる「グローバル化と構造改革」を経営の旗印とし、日本で育まれた日本の企業文化を放棄し、米国の掲げるグローバル価値観に追従することに血眼になってしまった。

この結果、国際市場では韓国、中国にボロ負けし、国内ではリストラで技術も人材も失い、残った社員のモチベーションすらも低下した。家電大手企業の悲劇がこれをもの語っている。

戦後75年間の歴史を精査すると、歴史の中から日本経済のパラダイムを大きく揺り動かした『3つの事件』と、グローバル化の本質が見えてくる。

最初の事件は、戦後間もない①1951年の日米安保条約締結。2つ目は、②1985年のプラザ合意。そして最後が、③平成初期のバブル崩壊である。

1951年の講和条約とともに締結された日米安保条約により、日本は自由主義陣営に所属することが決まった。すべての経済活動の歴史的原点がここにあり、「新しい価値観を持つ日本人が起業し、新しい日本国家の建設が始まった」瞬間である。

戦争を放棄した日本は、まずは飢えをしのぎ「食料を手に入れること」に邁進し、その次に「経済力の向上」という課題に向かって一丸となって突き進んでいった。これが国家の明確な目標であった。

この目標のもとで、製造業が復活し「日本人が、日本人の顧客のために、日本の工場で作る」概念が徹底され、最新の国産機械も誕生し、世界最高のものづくりを純粋なる国産化によって日本は手に入れた。

日本の工場が作り出す製品の機能や品質は、世界№1である。この頃の社会人は、皆が夢を描き、豊かさを求め、先端技術に挑戦し、「希望と勇気」を持って、過酷な労働に励んでいた。

エコノミックアニマルとまで比喩された日本人の過剰労働は、終身雇用制をベースとした企業村社会での、自発的な行動の結果であり、これが日本式経営として日本中に定着した。日本式経営のもとで最先端技術が花開き、日本の顧客のために日本ニーズを組み込んだ日本製品は、信頼のブランドとして世界中でも話題となった。

各企業は、日本で成功した商品を世界中に販売拡大する戦略を推進した。この国際化を「インターナショナル化」と呼び、大成功を収めている。国や国境を意識しない「グローバル化」とは全く異なる国際化である。

大成功を収め、喜びに湧く日本経済に衝撃を与える大きな国際的事件が、1985年に起きた。ニューヨークプラザホテルで開催された先進国蔵相会議(G5)で、世にいう「プラザ合意」である。

プラザ合意は、円高・ドル安への誘導合意である。円はこの合意により急速に円高に振れ、1ドル230円台から1年で150円まで円高が進んだ。これにより、各企業はそろって低賃金のアジアに工場を進出することを戦略に据えた。

「日本人が、日本人の顧客のために、日本の工場で作る」パラダイムが崩れ、「アジア人が、日本人の顧客のために、アジアの工場で作る」というパラダイムシフトが起きている。

円高不況を克服し、逆に円高をきっかけにバブル経済が芽吹き、土地や株式は高騰し大儲けする企業が続出した。企業も個人もお金持ちとなったが、夢は続かない。平成の時代の始まりとともに、バブル崩壊が始まり『失われた30年』が始まったのである。

今回のテーマである「グローバル化」が日本で始まったのは、バブル崩壊以降である。「世界の誰かが、グローバルの顧客のために、世界の何処かの工場で作る」がグローバル化である。同じ国際化でも「インターナショナル化」と「グローバル化」の違いを歴史から学ぶことができる。

令和時代の製造業再起動に大きな障害となるのは「グローバル化」の思想である。世界中の顧客ニーズを得るためにグローバル・マーケティングを日本の企業が行うことは、極めて難しく、国境をなくし、人・資本・モノを自由に移動し経営を行うことが、日本人にとって最も苦手であることは歴史が証明している。

令和時代の製造業再起動のポイントは、①国内工場への回帰(リショアリング)②短期戦略としての外国人労働者の雇用③IoT/デジタル化及びロボット化による徹底的な自動化工場の推進である。

世界にばらまいた優秀な社員も国内に戻し、日本の本丸を固めることに尽きる。日本の歴史・文化を学び、日本人としての自信と誇りを取り戻し、皆が大富豪になることを目標に据え、令和時代の製造業の発展戦略を練ることが必須である。

すべての人々が団結し、日本の国力増強を考えて実行さえすれば、令和の幸せが実現するだろう。







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著者 高木俊郎

16:55 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/07/01 令和時代のパラダイムシフトーー『希少価値の変化…機械から人へ』ーー
以下は 2019年6月26日のオートメーション新聞 第186号に掲載された寄稿記事です)

令和時代のパラダイムシフト
ーー 『希少価値の変化…機械から人へ』 ーー

パラダイムシフトとは何か?これを理解するのは容易でないが、中小製造業を取り巻く環境を分析する上で、パラダイムシフトの考察は重要なポイントである。今回はこれをテーマに取り上げる。

まずはじめに、パラダイムシフトとはなにか?を簡単に解説したい。パラダイムシフトを理解する上で、まず皆さんの共通の概念を浮き彫りにする必要がある。例えば、皆さんは今までに、食料が買えず餓死した人に会った事があるだろうか?

当然ではあるが、今の日本にそんな人がいないのは常識であり、人々は「食料は簡単に買える」という共通の価値観を保有している。

今の日本では、食料品や電気・エネルギーなどは「誰でも手に入る商品」であり、このような一般的かつ汎用的な商品を「コモディティー商品」と呼ぶ。半面で、特別仕様の高級車は、皆が買えないモノであり「希少価値の商品」である。

今の時代を支配する「食料や電気があって当たり前」という共通の価値観が、将来どこかで突然変化する事をパラダイムシフトと呼ぶ。

例えば、ある日突然、地球規模の天候不良やエネルギー危機が訪れ、食料品やエネルギーが極端に不足し、これらの商品が入手困難となり「希少価値商品」になるかもしれない。また一方で、特別仕様の高級車には人々の関心が無くなり、車は単なる「コモディティー商品」になるかもしれない。

パラダイムシフトとは、共通価値観の突然の変化であり、希少価値が突然消えてコモディティーになる現象である。


歴史をさかのぼると、社会の根底を変えてしまった大きなパラダイムシフトが起きている。150年前の日本での明治維新は、国際社会の大きなパラダイムシフトに強い影響を受けている。

「薩長連合を勝利に導いた国際的パラダイムシフトが起きていた」と断言しても良い。この影響とは、米国南北戦争を舞台にした「武器と綿花」のパラダイムシフトである。

ご周知の通り、明治維新の数年前に、米国では南北戦争が勃発し4年間に亘る市民同士の戦闘で100万人に迫る犠牲者を出し、北軍勝利に終わった。米国の南北戦争は、歴史に残る「人類最初の本格的な近代兵器戦争」と記録されている。

大英帝国から始まる産業革命により、機械が生まれ、労働生産性が大幅に向上(一説では、300倍の労働生産性向上があったと言われている)。武器の製造能力向上や機能の進化が続き、最新兵器の所有が戦争勝敗の決め手となっていった。戦争をやっている時には、最新兵器こそ最も重要な「希少価値商品」の代表であった。


それに反し、米国南部で栽培される綿花は、米国の重要な輸出品であるが、何の進化も希少価値もなく、奴隷を使って安く作るコモディティーであった。しかし、「武器は希少価値、綿花はコモディティー」という価値観が、突然崩壊する日がやってくる。

それは、南北戦争終結の日であり、この日から突然パラダイムシフトが始まるのである。戦争終了により、武器の需要は無くなり、国際的な武器価格は大暴落。半面、南部の綿花畑は荒廃し、奴隷もいなくなり、綿花の国際価格が暴騰し、綿花はいきなり「希少価値商品」となった。

一夜にして「綿花が希少価値、武器がコモディティー」というパラダイムシフトを知っていたのは、琉球を傘下に持つ薩摩藩である。薩摩は、琉球の国際貿易を通じパラダイムシフトを正確に把握していたのである。

国内の綿花を安く買い集め、国際市場で高額で売りさばき、暴落した最新兵器を徹底的に買い集めた「薩摩藩海外事業部?」のビジネス感覚には脱帽する。この密輸入の結果、薩摩藩は莫大な最新武器を保有し、これを背景に倒幕に成功するのである。


今回のテーマ「令和時代のパラダイムシフト」に話を戻し、中堅中小製造業の成長戦略に焦点を当てて見ると、明確なパラダイムシフトが見えてくる。

ほんの数十年の昔、日本の工場経営者の共通パラダイムは、「機械が希少価値」であった。「良い機械を買うこと」に人生をかけた経営者の夢が、共通概念として定着していた。

昭和時代の工場経営者は、「良い機械を買うのだ!」との信念を持って、個人的に使うお金を制限し、最新鋭機械の購入に全財産をつぎ込み、巨額の借金と高い金利を背負う「経営者の夢に向かった命がけの挑戦」を行っていった。

この共通概念によって日本の製造業は支えられていた。機械の所有に人生をかけた、昭和の経営者によって日本の製造業は発展したのである。幸いにして、昭和の時代は高度成長による需要の拡大があり、「機械の導入によって生産性が大幅に向上した」時代である。

誰よりも先に「良い機械を買った会社」はもうかり、繁栄を実現できたのも昭和の時代である。「勝ち組」と称される企業は、例外なく昭和の時代から継続的に「良い機械を買うこと」を実行してきた企業である。

令和の時代を迎え、明らかに「機械は希少価値」の概念は変化している。令和の時代の希少価値は「人」である。希少価値が「機械から人に」移行した。令和の時代のパラダイムシフトは「機械を希少価値とした概念から、人を希少価値とする概念」への変化であることは明白である。

クラウドや人工知能など最新技術をフル活用し、人の能力向上と作業効率向上に投資することこそ令和の時代の勝ち残り戦略である。

機械をたくさんそろえ、機械に依存した「昭和の時代の経営」はすでに賞味期限が切れている。「希少価値の変化…機械から人へ」こそ令和時代の経営戦略の柱であろう。







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著者 高木俊郎

16:55 | オートメーション新聞寄稿記事 | page top
2019/06/20 令和時代の戦争と平和ーー『人工知能とドローンの新時代戦争』ーー
以下は 2019年5月29日のオートメーション新聞 第183号に掲載された寄稿記事です)

令和時代の戦争と平和

ーー 『人工知能とドローンの新時代戦争』 ーー

『川を上れ、海を渡れ』…この意味は、連綿と流れる歴史の川を遡り、過去の教訓を学ぶと同時に、海外に視野を広げ、違った角度から物事を見ることの重要性を表した言葉である。

皆さんは、令和の時代に『日本は戦争に巻き込まれる』と思うだろうか? それとも、令和の時代もそれ以降も、未来永劫『戦争なき平和』が続くとお考えだろうか? もし戦争が起きるとしたらどんな戦争なのか? それを避けるための手段は?

『戦争と平和』…こんな言葉は日本社会ではいまや死語に近い。戦争と平和について不感症となってしまった日本人にとって、『令和の時代の戦争と平和』を考えること自体が稀有なことであるが、改めて『川を上り、海を渡れ』の言葉を噛み締めて、『令和の時代の戦争と平和』を考えてみたい。

日本の歴史の川を上ってみれば、悲劇の戦争が随所に登場してくる。歴史ドラマでは英雄物語として語られる『明治維新』も、海外から見れば、150年前に日本で起きた武力革命であり壮大な市民戦争である。

時の政府(江戸幕府)を武力で倒した日本のクーデターは、多くの戦争犠牲を生んだ暴力であり、日本人同士が殺し合う悪夢の戦争であった。決して美談などではない。薩長によるクーデターの成功には、超大国『大英帝国』の思惑があり、大英帝国から供給を受けた最新武器の威力が、勝因であったとも言われている。

日本の明治維新は、大英帝国の戦略の結果でもある。大英帝国は、思惑通り大量の武器を日本に売り込むことに成功したのである。

明治新政府は『富国強兵』を掲げ、英国から武器を大量に輸入し、国民を巻き込む『侵略的な戦争国家』となっていった。日清・日露戦争を勝ち抜きながら、太平洋戦争の終結に至るまで、日本国民全員を巻き込む戦争の日々が半世紀以上に渡り続いた。

数百万の人々が戦争の犠牲となったが、日清・日露戦争の勝利により、『世界の一流に名を連ねる国家』に日本が躍り出たことも歴史の事実である。


戦争とは、最新兵器を持つものが勝利する。…と断じるには異論もあるが、歴史を遡れば、『技術イノベーションが戦争の勝敗を決する』という事実を否定する事はできない。

『最先端技術と戦争の勝敗』をテーマに歴史を遡ると、戦争の勝ち負けは、軍艦や飛行機などの目立つ武器の優位性だけではなく、『情報通信技術』の優劣に注目しなければならない。

今日、誰もが手にしているスマホやインターネット技術は、遠い昔に開発されたモールス通信やレーダー技術などから進化してきているが、日露戦争や太平洋戦争の勝因に、これらの技術が強く影響していた事がわかってくる。

筆者は、40年近く前に電気通信大学を卒業した。この大学は、戦前には軍事技術とは切っても切れない国家機関であったせいか、先端技術の研究に熱心な国立大学である。私も在学中には、日露戦争に活躍したモールス通信の講習から始まり、レーダーによる飛行物体の補足や解析技術など、軍事に活用された技術を多く学んだ。

モールス通信とは、100年以上前にイタリアのマルコーニが開発した無線通信の手段であり、人類が初めて遠隔地との無線コミュニケーションを可能にした通信技術である。

マルコーニの開発から10年も経たない間に、日露戦争が勃発し、日本はロシアに大勝利する結果となった。超大国ロシアに対し、国力や技術で大幅に劣る日本に勝利をもたらしたのは、モールス通信による日本連合艦隊の円滑な相互連携であったと言われている。

これを可能にした技術の結晶は、国産式の『三六式無線通信機』である。世界トップの技術を有する無線機が、安中電気製作所(現アンリツ)によって開発されており、海軍幹部の英断で「日本海軍のすべての船に装備されていた」という驚くべき事実があった。

超大国ロシアのバルチック艦隊を遥かに超越した『無線通信装置』が、日本の連合艦隊に装備されており、実戦で大きな成果を発揮した事は驚愕に値する。日本海海戦で、日本の連合艦隊がロシアに大勝利したのは、三六無線通信機の存在である。

日露戦争の大勝利から数十年経って、日本が太平洋戦争で米国に惨敗したのは、「レーダーの重要性に気づかず、遅れを取った日本海軍」との歴史的事実がある。戦艦大和や零戦など、世界最高峰のハード技術を有していた日本が、電波兵器に関して先見の明がなかったことは、とても残念な事である。

『川を上れ、海を渡れ』から強く感じることは、モールス通信やレーダーなどの情報伝達の重要性である。令和の時代を迎え、インターネットやスマホは誰にとっても身近な空気のような存在となり、『第四次産業革命』との話題も多く耳にするが、これらの技術の重要性を肌で感じている人は意外と少ないのではないだろうか?

特に、人類に着々と忍び寄る『人工知能』と『ドローン』の技術が、我々の生活を一変させ、次世代の『戦争と平和の象徴』となることを想像している人は少ないのではないだろうか?

映画に出てくるような『鉄砲担いで敵地に向かう』戦争が起きることはありえない。ドローンが特攻攻撃を担い、何百台のドローンが、人工知能の指揮によって一斉軍事行動を行う時代がやって来るだろう。人工知能とドローンが新時代戦争の武器となる。

令和が戦争なき平和な時代であるためにも、最先端技術分野で遅れを取ってはならない。日本は第四次産業革命に遅れを取っていると皆が認識している。今日の遅れを挽回するために、日本政府のみならず、民間企業が総力を上げて最先端技術に挑戦し続ける事が絶対条件ではないだろうか?







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著者 高木俊郎

16:06 | オートメーション新聞寄稿記事 | page top
2019/04/27 中国『一帯一路』の運命は?ーー『最先端技術分野で活路を求める中国』ーー
以下は 2019年4月4日のオートメーション新聞 第180号に掲載された寄稿記事です)

中国『一帯一路』の運命は?

ーー 『最先端技術分野で活路を求める中国』 ーー

皆さんは『中国』にどんなイメージをお持ちだろうか? 反日や中国人観光客の振る舞いに嫌悪感を抱く人も多いし、米中経済戦争の行き先や、中国経済の衰退に頭を悩ましている人もたくさんいらっしゃるだろう。

私は今、6年ぶりに訪れた北京でこの原稿を書いている。思い起こせば、私が初めて北京を訪れたのは40年近くも前の事である。その当時、北京の市民は「人民服」と呼ばれる国家の制服着用が強制されており、われわれ外国人は外貨兌換券(だかんけん)という外貨から交換できる紙幣を使用し、外国人のみが入れるホテルやレストランを使い、現地人とは完全遮断された出張生活を送っていた。

ビジネス交渉は限られた場所で、公安による監視体制が敷かれていた時代であり、私の周りには常に公安の目が光り、日本への電話も盗聴されていた事を鮮明に覚えている。

時は過ぎ、都市の風景は様変わりし、人々の服装も生活も大きく変わった。表向きは当時の面影は全くなくなったが、この国にいると、共産党一党独裁の政治体制も、中国人のモラル遺伝子も当時と全く変わっていないことを時々思い知らされる。

今回の私の北京訪問は、北京で開催されるCIMT(中国・国際工作機械見本市)を訪問し、工作機械業界の動向調査も目的の一つである。空港近くにある近代的な総合施設で開催される国際見本市CIMTは、壮大であり立派である。

しかし、一見華やかに見える中国には、われわれ日本人には到底理解不能な矛盾が潜んでいるのも事実である。

日本では数年前より、中国の経済破綻を予測する声が数多く語られ、報道されてきた。事実、昨年度から中国経済は大幅な下降局面を迎えているが、予測されたほどの「中国経済破綻」は発生していない。

また、不思議なことに今回北京で出会った中国人経営者の多くは依然として楽観思想を持ち、将来への危機感も気薄である。しかし、現実を直視すれば、やはり中国に重大な「経済危機」が潜んでいる事に疑いの余地はない。

今回は、国際的に注目度の高い「一帯一路」政策を取り上げ、経済危機との関連を分析していきたい。

習近平が強烈に推し進める一帯一路は、「経済的に遅れた国を支援する」と中国政府は美言を発信しているが、本音では生産過剰に陥った中国製造業の起死回生を目的に、力ずくで周辺国家への市場拡大を狙う中国の「強国戦略」の戦略が潜んでいる。

最近になって、この力ずくの戦略が、各国の強い不満となり、強い批判を浴びている。かつては一帯一路を支持した国々でも、最近になって、各国を借金漬けにする中国の強引な手法が明らかになり、カザフタンなど親中諸国でも中国からの離反が相次いでおり、一帯一路は「すでに国際的には四面楚歌の状態にある」と言っても過言ではない。

しかし、当の中国政府の発表では、依然として国際貢献の象徴としての成功報道が続いている。これらの報道は、明らかに中国政府の「プロパガンダ」であり、事実がねじ曲げられた報道であるが、国民の大半はこの報道を信じ切っている。

驚くことに、あらゆる国際的な報道を知り尽くしたグローバルな中国人経営者ですら、一帯一路の成功を信じている。

一帯一路の行き着く先はどこなのか? 一帯一路が挫折し、習近平の指導力が急落し、中国経済崩壊が表面化したら、日本経済にも重大な影響が起きることは避けられない。

もし一帯一路が、中国の思惑通り成功裏に完成したら、中国はアジア覇権を握り、その影響力は増大し、日本の政治的な立場は非常に不安定な状況になるだろう。中国の一帯一路は、成功しても失敗しても、日本にとっては頭痛の種である。

中国政府は、一帯一路への国際社会からの逆風を認識しており、これを成功させるために、本気で「最先端分野で活路を求める決断」をし、あらゆる可能性を模索・実行に移していると思われる。

顕著な動きが、5G、AI、自動運転などの最先端分野で、民間企業の早期育成を目的に、研究所・大学などから有能な人材を投入し、大規模なスタートアップ企業支援に乗り出している。

この流れは、最先端分野での高度な研究開発力を持つ「民間経済主導」を生み出そうとする転換であり、民活による「イノベーション強化」が実現すれば、現在の国際社会の懸念が緩和され、成功への大きな要因となる。中国では今「最先端分野で活路を求める決断」が本格的に始動し始めたのである。

私もCIMTの視察を終えて、多くの気付きがあった。板金加工用のレーザーマシンを例にすると、中国では膨大な数のメーカーが「低価格マシン」でしのぎを削っている。日本の大手板金機械メーカーは、従来仕様の従来マシンを高価格で販売している。

このメーカーのレーザーマシンは、日本ではブランドがあり、売れてはいるものの、中国ではさっぱり売れない。中国でのシェアは低く、存在感もない。中国製レーザーメーカーからは、大出力パワーの先端技術を搭載した「馬力のある機械」が出展され話題をさらっているが、日本メーカーには話題がない。

CIMTでじっくりと日本や中国のブースを眺めていると、中国の経済危機よりも、日本に迫りくる危機を強く感じてしまう。日本製の機械は『精密だが、時代に遅れた機械』とのレッテルが貼られてしまう…。そんな気付きをCIMTが教えてくれた中国・北京への出張であった。







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著者 高木俊郎

13:51 | オートメーション新聞寄稿記事 | コメント:0 | page top
2019/03/29 景気減速に怯える日本製造業ーー『英国EU離脱の影響とその本質とは?』 ーー
以下は 2019年3月27日のオートメーション新聞 第177号に掲載された寄稿記事です)

景気減速に怯える日本製造業

ーー 『英国EU離脱の影響とその本質とは?』 ーー

『景気判断、3年ぶりの下方修正』の政府発表に世論が揺れている。3月20日の政府月例経済報告で国内の景気判断は、『穏やかに景気回復している』との基調を維持しつつも『一部に弱さが見られる』とし、3年ぶりの下方修正を発表した。

この背景には、輸出企業の不振がある。中国向けの受注が衝撃的な突然の急落となり、この影響で電機メーカーを中心に軒並み業績予想を引き下げざるを得ない状況となっている。

今回の政府発表は、輸出製造業の苦境が反映された下方修正と言っても過言ではない。日本経済の内需に焦点を当てれば、所得や雇用環境の改善傾向は続いており、国内個人消費や設備投資も増加傾向にあり『日本経済は穏やかに回復している』と認識できるが、半面で輸出企業の不振から『景気下落の幕が開いた。

戦後最長景気も終止符を迎える』との見方も不思議ではない。専門家でも意見の分かれるところである。

筆者の会社(アルファTKG)のお客様でも顕著な兆候が現れている。アルファTKGのお客様は、板金製造業を中心とした中小製造業が多く、お客様の景気動向は依然として堅調であり、非常に忙しい状況が続いている。

しかし今年に入って、工作機械カバーなどを製造する板金企業で、仕事の先行き見込みが激減し、不況突入のアラームが点灯しているお客様が現れてきたが、業界全体の兆候ではない。

中国を震源地とした『外需下落』が足元の懸念材料として大きく報道されているが、中小製造業を取り巻く外部環境には、もっと大きな重要な懸念が潜んでいる。全地球規模で進行するこの懸念は、中小製造業の未来を支配する「パラダイムシフト」と呼べる重要なことであり、これを正しく認識する必要がある。

その懸念とは、世界中で長年続いた「グローバル主義」がほころびを見せ始め、グローバル主義の否定から「自国中心主義」が台頭し、グローバル主義と反グローバル主義で世界が真っ二つに分かれ、激しい戦いが世界中で繰り広げられている事である。

大手新聞においても、中国問題を取り上げ『中国経済減速は米中貿易戦争の影響だ』と断じ、『米国トランプ大統領の暴挙』と論じる。英国EU(欧州連合)離脱問題を政治的テーマの側面から『メイ首相の危機』などと報道しているが、これらの見解は「グローバル主義」を守り抜きたいとする一つの見解に過ぎない。

これらのメディア報道を否定する考えを筆者は持ち得ていないが、もう少し大局的かつ歴史的にこれらの問題を考察すると、これからの中小製造業の対処すべき経営課題が浮き彫りになってくる。

英国のEU離脱問題も、米国トランプ大統領の方針も、米中貿易戦争も、その根っこには「反グローバル主義」への流れがあることを忘れてはならない。英国のEU離脱問題は、2016年の英国国民投票により「EUからの離脱決定」が発端であるが、この決定こそ反グローバル主義が台頭した世界で最初の事件であり、歴史の転換点である。

世界中を震撼させた「ブレグジット(英国のEU離脱)」は、過去のベルリンの壁崩壊や、リーマン・ショックなどに匹敵する世界的かつ歴史上の大事件である。グローバル主義の代表であるEUからの離脱は、明らかに英国国民がグローバル主義を否定した結果である。

この選択の根っこには、行き過ぎたグローバル主義への明らかな否定があり、特に移民問題が深く潜んでいる。

移民がいかなる影響を英国にもたらしたのか?は、ロンドンを旅した人なら分かるだろう。かつて美しかったロンドンは、今や移民に占領され、その姿を変えている。移民を経験したことのない日本人が、移民の悪影響を理解するのは容易ではない。

移民の少ない日本を、「美しさと秩序を維持する唯一の先進国家」であることを認識している日本人は少ない。移民に関する英国の歴史は第二次世界大戦以降から始まっている。戦後の人手不足解消のためにかつての植民地から移民を集め、工場労働者として採用したのが英国の移民の始まりである。

以降、EU加盟によって旧東欧諸国からの移民が急増し、英国は移民国家となってしまった。英国では移民を使うことで自国民は楽ができたが、結果として製造業の国際競争力を失い、英国は「ものづくりのできない二流国」に転落してしまった。

半面、日本は戦後一貫して外国人労働者には依存せず、熟練工を育成した。日本が世界に誇るのは『外国人労働者に依存せず、設備投資によって人手不足を解消した』事である。米国トランプの自国中心主義や、欧州に燃え広がる反グローバル主義の勢いもすべてその根っこに「移民問題」が潜んでいる。

『これ以上の移民を排除したい』とする国民の切なる願いが、英国のブレグジットであり、米国でのトランプ大統領の当選である。

日本にはEUの拘束もなく、主権を持った独立国家である。そして、移民もほとんどいないし、シリア難民もいない。英国から見たら、日本は垂涎(すいぜん)の的である。英国が国民投票で勝ち取った夢、英国が望む理想の全てが日本には揃っている。

しかし今日では、日本の中小製造業にも多くの外国人労働者が働き、日本政府は法律によって移民を増やそうとしている。中小製造業に潜む最大の課題は人手不足問題である。日本の中小製造業が、人手不足への対応として移民や外国人労働者へ過度に依存することは、欧米が経験した歴史の轍(てつ)を周回遅れで踏んでいく愚行ではないだろうか?

日本の中小製造業でも、「移民」が生んだ欧米社会の葛藤を学ぶべきである。人手不足の解決には、技術的イノベーションが最良の策であることを歴史が証明している。







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著者 高木俊郎

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